新論 / 守禦
如常平之倉平準之署、其有可斟酌以行於今者、不可以不講其制也、輕重得其權、米價得其平、使姦商猾賈無專操利柄、販夫販婦無獨失其業、善導利而布之上下、則邦君以及士民、其穀可多藏、而經費亦可以給焉、士民倶富、則商賈亦隨受其利、糶糴有制、而上下倶便、所以導利者周也、官府及民間所取予貿易、多用米穀、而與金帛相參、則米穀流通人間、而不腐陳於一方也、本於義社之倉、因以爲取陳食農之制、則細民不乏、而其穀新舊可相換也、
新字:如常平之倉平準之署、其有可斟酌以行於今者、不可以不講其制也、軽重得其権、米価得其平、使姦商猾賈無専操利柄、販夫販婦無独失其業、善導利而布之上下、則邦君以及士民、其穀可多蔵、而経費亦可以給焉、士民倶富、則商賈亦随受其利、糶糴有制、而上下倶便、所以導利者周也、官府及民間所取予貿易、多用米穀、而与金帛相参、則米穀流通人間、而不腐陳於一方也、本於義社之倉、因以為取陳食農之制、則細民不乏、而其穀新旧可相換也、
書き下し
常平の倉・平準の署の如き、其の斟酌して以て今に行ふべき者有らば、以て其の制を講ぜざるべからざるなり。軽重其の権を得、米価其の平を得、姦商猾賈をして利柄を専操すること無く、販夫販婦をして独り其の業を失ふこと無からしめ、善く利を導きて之を上下に布かば、則ち邦君以て士民に及ぶまで、其の穀多く蔵すべくして、経費も亦以て給すべし。士民倶に富めば、則ち商賈も亦随ひて其の利を受け、糶糴制有りて、上下倶に便なり。利を導く所以の者周ければなり。官府及び民間の取予貿易する所、多く米穀を用ゐて、金帛と相参ふれば、則ち米穀人間に流通して、一方に腐陳せざるなり。義社の倉に本づき、因りて以て陳を取り農に食はしむるの制と為さば、則ち細民乏しからずして、其の穀新旧相換ふべきなり。
現代語訳
常平倉(米価調整の倉)や平準署(物価調整の役所)のように、今に合わせて取捨して行えるものがあるなら、その制度を研究しなければならない。物の値の軽重をうまく操り、米価を安定させ、悪徳商人に利益の主導権を独占させず、小商いの男女だけが生業を失うことのないようにし、利益をうまく導いて上下に行き渡らせれば、藩主から武士・庶民に至るまで穀物を多く蓄えることができ、経費もまかなえる。武士と庶民がともに豊かになれば、商人もそれにつれて利益を受け、米の売り買いに決まりができて上下ともに都合がよい。利益を導く手立てが行き届いているからである。役所と民間の取引に米穀を多く用い、金銭や布と併せて使えば、米穀が世の中に流通して、一か所で腐り古びることがない。義倉・社倉(凶作に備える共同の倉)にならい、古い米を出して農民に食べさせる制度にすれば、貧しい民が困窮せず、穀物の新旧も入れ替えられる。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
言志四録・言志録 第百七十四条 困弊は治安の久しきに由る国家は食貨に於て遺策無し。園田山林市廛を連ねて、尺地も租入を欠く無し。金銀銅は並びに署を寘きて鋳出し、日に幾万計なるを知らず。而るに当今上下困弊し、財帑足らず。或は謂ふ、奢侈の致す所なりと。余は則ち謂ふ、特に此のみならずと。蓋し治安日久しきを以て、貴賤の人口繁衍し、諸を二百年前に比すれば、恐らくは翅に十数倍のみならず。之を衣食する者は逐年増多し、之を生ずる者は給せず。勢必ず此に至る。然らば則ち困弊此くの如きも、亦治安の久しきに由る。是れ賀すべくして、歎ずべきに非ず。但だ世道の責有る者は、徒らに諸を時運に談じて、之を救ふ所以の方を慮らざるべからず。其の方も亦別法の設くべき無し。唯だ曰ふに過ぎず、「之を食ふ者寡く、之を用ふる者舒かに、之を生ずる者衆く、之を為す者疾し」と。而して制度一たび立ちて、上下之を守り、措置宜しきを得て、士民之を信ずるに至りては、則ち蓋し其の人に存す。
-
『新論』國體下大廈崇甍、靡麗を窮極し、工商の徒、間民及び僧徒を仰ぎて以て自ら衣食する者も、亦尠からずと為す。乞丐の類、其の業を世々にし、以て子を抱き孫を長ずる者、天下其の幾何なるを知らず。博徒閭閻に横行するもの、又其の幾何なるを知らず。巫毉卜筮に仮りて、以て民を誑き財を要むる者、幾何なるを知らず。俳優雑劇、又幾何なるを知らず。其の冗も亦甚だし。而して天下の米穀を銷耗する所以の者、酒・餅餌・麺の類の若き、已に枚挙すべからず。米穀都会に雑遝し、四方より運輸して、火災の燬く所、波濤の没する所も、亦枚挙に勝へず。其の農功を妨ぐる所以の者、茶・蔫の若き、紅茜・蕉・梨の属の若きも、亦勝げて数ふべからず。夫れ浮食の民彼の如く其れ衆く、米穀を糜し農功を妨ぐること此の如く其れ夥しくして、年穀も亦甚だしくは豊穠ならず。然るに天下常に穀の多きに困しみ、粒米狼戻して、天下貧に困しむ者、亦異とすべきなり。
-
『新論』國體下夫れ天下の米穀未だ嘗て多からざるなり。而して甚だ多きが如き者は、其の勢之をして然らしむるのみ。凡そ物散じて之を各所に蔵すれば、其の数多しと雖も、未だ其の甚だ多きを見ること有らず。聚めて之を一所に陳ぬれば、寡しと雖も亦猶多きがごとし。是れ自然の勢なり。故に一石の米を家に蔵するは、未だ以て多しと為すに足らざるも、万家にして之を鬻ぎ、万石を市に陳ぬれば、未だ嘗て視て以て夥しと為さずんばあらず。而して武士都城に聚処し、終歳の俸を尽くして、以て口腹に奉じ婦女を悦ばしめ、甲兵を繕ひ徒卒を養ふを得ず。故に米穀家に蔵せず、挙げて之を市に鬻ぐ。農民困乏して奢惰なるも、亦歳収を挙げて之を鬻ぐ。鬻ぐ所愈々多ければ、則ち米価愈々賤し。賤しければ則ち其の鬻ぐこと多からざるを得ず。之を鬻ぐこと愈々多くして、直を得ること旧に益さず。是を以て民流亡して地余り有り。地余り有りて租賦減ぜず。其の税其の鬻、一家の産を傾くと雖も、猶且つ足らず。故に之を鬻ぐこと日に多くして、天下の穀日に耗る。天下の穀日に耗りて、都会の穀日に盈つ。都会の盈つるを見れば、則ち天下の虚知るべきなり。
-
『新論』國體下古者百事簡易にして、四民勤動し、其の営求する所の者は、功を通じ事を易ふるに過ぎず。之を生ずること甚だ広くして、用途甚だ狭し。朝廷漸く奢靡を尚ぶに及び、国家の用を貶して、以て婦女の玩好に供し、異化の徒横肆して、天下の財を傾けて、以て堂宇を造り、天下の穀を糜して、以て浮冗を食はしむ。藤氏権を専らにして、権勢の家、私儲を営み私人を蓄へ、荘園天下に遍く、其の正税を出だして以て王事に供する者幾ばくも無し。而して権勢の私人、所謂守護地頭なる者、又財穀を私儲して富厚世を累ね、国郡に拠有して、天下の富遂に武人に移る。然れども兵なる者は民社を鎮むる所以なり。天下の武士各々私卒を養ふ、亦未だ冗食と為さず。故に古者天下乱ると雖も、而も未だ甚だしくは貧に苦しまざるなり。今天下治平にして、上下皇皇として、唯だ貧を是れ患ふる者は何ぞや。天下の財を理むること其の道を得ざればなり。
-
『新論』國體下夫れ武人土を離るれば、其の勢多く卒を養ふを得ず。故に間民を市井に雇ひて、以て騶従に充て工役に供す。間民都城に充斥し、緩急用ゐるべからずして、坐して粱肉に飽く。其の冗為るや大なり。天下の仏寺殆ど五十万、僧尼及び奴隷を通計すれば、其の幾百万なるを知らず。(唐の傅奕高祖に上書して言ふ、僧尼をして匹配せしめば、即ち十余万戸と云云。武宗仏寺を廃し、其の上都及び東都は二寺を留め、節鎮は各々一寺を留め、寺四千六百余区、招提蘭若四万余区を毀ち、僧尼の帰俗する者二十六万五百人、良田数千万頃、奴婢十五万人を収む。之に拠れば則ち唐国の土地の大にして、其の仏寺の多き、神州の十分の一に及ばず。然るに時人尚ほ以て夥しと為す。則ち神州の仏寺も亦盛んなりと謂ふべし。)
-
『新論』國體下且つ夫れ都会も亦多く無用の穀を儲ふる能はず。故に都会の穀と雖も、亦以て都会の人を食はしめて稍余り有るに過ぎざるのみ。其の実は甚だしくは多からざるなり。凡そ盈縮の数、其の実は甚だしくは相遠からずして、其の勢は相霄壌たるが如き者有り。之を啖ひて飽く者に譬ふ。既に腹に充つれば、稍一分を多くすれば、則ち甚だ余り有るが如し。未だ飽くに及ばざれば、一分を少なくすれば、則ち大いに足らざるが如し。是れ其の過不及の差為ること眇少なるのみ。然れども其の足らざる者を取りて、之を余り有る者に比すれば、盈虚の相去ること、大いに相懸たるが如き者は勢なり。故に曰く、天下の穀未だ嘗て多からず、而して都会の穀も亦未だ甚だしくは多からざるなりと。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る