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言志四録 / 言志録 第百七十四条 困弊は治安の久しきに由る

國家於食貨無遺策。連園田山林市廛。無尺地欠租入。金銀銅並寘署鑄出。不知日幾萬計。而當今上下困弊。財帑不足。或謂奢侈所致。余則謂不特此。葢以治安日久。貴賤人口繁衍。比諸二百年前。恐不翅十數倍。衣食之者逐年增多。生之者不給。勢必至於此。然則困弊如此。亦由於治安之久。是可賀。非可歎。但有世道之責者。不可徒談諸時運而不慮所以救之之方。其方亦無別法可設。唯不過曰食之者寡。用之者舒。生之者衆。爲之者疾。而至於制度一立。上下守之。措置得宜。士民信之。則葢存乎其人矣。

新字:国家於食貨無遺策。連園田山林市廛。無尺地欠租入。金銀銅並寘署鋳出。不知日幾万計。而当今上下困弊。財帑不足。或謂奢侈所致。余則謂不特此。葢以治安日久。貴賤人口繁衍。比諸二百年前。恐不翅十数倍。衣食之者逐年增多。生之者不給。勢必至於此。然則困弊如此。亦由於治安之久。是可賀。非可嘆。但有世道之責者。不可徒談諸時運而不慮所以救之之方。其方亦無別法可設。唯不過曰食之者寡。用之者舒。生之者衆。為之者疾。而至於制度一立。上下守之。措置得宜。士民信之。則葢存乎其人矣。

書き下し

国家は食貨に於て遺策無し。園田山林市廛を連ねて、尺地も租入を欠く無し。金銀銅は並びに署を寘きて鋳出し、日に幾万計なるを知らず。而るに当今上下困弊し、財帑足らず。或は謂ふ、奢侈の致す所なりと。余は則ち謂ふ、特に此のみならずと。蓋し治安日久しきを以て、貴賤の人口繁衍し、諸を二百年前に比すれば、恐らくは翅に十数倍のみならず。之を衣食する者は逐年増多し、之を生ずる者は給せず。勢必ず此に至る。然らば則ち困弊此くの如きも、亦治安の久しきに由る。是れ賀すべくして、歎ずべきに非ず。但だ世道の責有る者は、徒らに諸を時運に談じて、之を救ふ所以の方を慮らざるべからず。其の方も亦別法の設くべき無し。唯だ曰ふに過ぎず、「之を食ふ者寡く、之を用ふる者舒かに、之を生ずる者衆く、之を為す者疾し」と。而して制度一たび立ちて、上下之を守り、措置宜しきを得て、士民之を信ずるに至りては、則ち蓋し其の人に存す。

現代語訳

国家は食糧と財貨について、手落ちのない策を講じている。田畑・山林・市街地を連ねて、わずかな土地も年貢や税の取り立てを欠くところはない。金・銀・銅はいずれも役所を置いて鋳造させ、一日にいったい何万になるか知れない。それなのに今、上も下も困窮し、財庫は不足している。ある人はこれを奢侈のせいだと言う。私はそればかりではないと思う。思うに、太平の世が長く続いたために、身分の上下を問わず人口が増え、二百年前と比べれば、おそらく十数倍どころではないだろう。衣食を消費する者は年ごとに増えるのに、それを生み出す者は追いつかない。成り行きとして必ずこうなるのである。そうであれば、このような困窮もまた、太平が長く続いたことによるのであって、これは祝うべきことで、嘆くべきことではない。ただ、世の中に責任を持つ者は、いたずらにこれを時の運のせいにして、それを救う方策を考えないということがあってはならない。その方策も別に特別なものがあるわけではない。ただ(『大学』に言う)「消費する者を少なくし、用いるのをゆるやかにし、生産する者を多くし、生産に励むことを速やかにする」ということにすぎない。そして制度をひとたび立てて、上下がこれを守り、処置が適切で、武士も民もこれを信頼するようになるかどうかは、思うにそれを行う人物いかんにかかっている。

解説

幕府や諸藩の財政難を、一斎が経済の構造から論じた一条です。世に言う奢侈だけが原因ではなく、二百年の太平で人口が増え、消費する者が増えたのに生産が追いつかないことが根にあると見ます。それを平和の結果として「賀すべし」と言い切るところに、一斎の大らかで冷静な目があります。そのうえで、責任ある者は時運のせいにせず、『大学』の「生ずる者衆く、食ふ者寡く、為す者疾く、用ふる者舒かなり」という原則に立ち返れと説きます。そして制度が守られ信頼されるかどうかは、結局それを担う人にかかると結びます。業績不振を外部環境のせいにせず、構造を見きわめ、基本に立ち返って手を打つ姿勢として読める一条です。

この章句が説くこと

財政経済人口為政制度

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