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新論 / 守禦

中國自始有火器、其用之止於鳥銃、至大礮、則其法始傳、未幾而世屬升平、故鑄造之極尠、而銃家者流亦皆秘其法、發放之術、將卒不得知、以銃家有限之人、而奔走於東西百戰之地、其不給也明矣、今自非令邦國大鑄造巨礮士卒能通曉用法、則莫以壯天下之氣、而所謂利器者、亦不足以爲守國之用也、若其制作與架法放法、宜易簡便捷、而不宜繁巧遲重、如其奧秘妙訣煩難不易曉者、不足恃也、且虜之駕大艦以逼人者、運城壘於水上也、以守爲攻者也、拒之之勢、可執一而無變乎、故攻銃以摧賊艦、守銃以扼港嶴、戰銃以備馳突、及他火箭噴筒火桶火磚之類、凡所以與銃相參用者、宜使衆人習熟、而至其臨時活用以盡長兵之利則在其人也、

新字:中国自始有火器、其用之止於鳥銃、至大礮、則其法始伝、未幾而世属升平、故鋳造之極尠、而銃家者流亦皆秘其法、発放之術、将卒不得知、以銃家有限之人、而奔走於東西百戦之地、其不給也明矣、今自非令邦国大鋳造巨礮士卒能通暁用法、則莫以壮天下之気、而所謂利器者、亦不足以為守国之用也、若其制作与架法放法、宜易簡便捷、而不宜繁巧遅重、如其奥秘妙訣煩難不易暁者、不足恃也、且虜之駕大艦以逼人者、運城塁於水上也、以守為攻者也、拒之之勢、可執一而無変乎、故攻銃以摧賊艦、守銃以扼港嶴、戦銃以備馳突、及他火箭噴筒火桶火磚之類、凡所以与銃相参用者、宜使衆人習熟、而至其臨時活用以尽長兵之利則在其人也、

書き下し

中国火器有りしより始め、其の之を用ゐること鳥銃に止まる。大礮に至りては、則ち其の法始めて伝はるも、未だ幾ばくならずして世升平に属す。故に鋳造の極めて尠く、而して銃家者流も亦皆其の法を秘し、発放の術、将卒知ることを得ず。銃家の限り有るの人を以て、東西百戦の地に奔走せしむ。其の給せざるや明らかなり。今自ら邦国をして大いに巨礮を鋳造し士卒をして能く用法に通暁せしむるに非ざれば、則ち以て天下の気を壮んにする莫く、而して所謂利器なる者も、亦以て守国の用と為すに足らざるなり。若し其の制作と架法放法とは、宜しく易簡便捷なるべく、繁巧遅重なるべからず。其の奥秘妙訣、煩難にして暁り易からざる者の如きは、恃むに足らざるなり。且つ虜の大艦に駕して以て人に逼る者は、城塁を水上に運ぶなり、守を以て攻と為す者なり。之を拒ぐの勢、一を執りて変無かるべけんや。故に攻銃は以て賊艦を摧き、守銃は以て港嶴を扼し、戦銃は以て馳突に備へ、及び他の火箭・噴筒・火桶・火磚の類、凡そ銃と相参用する所以の者は、宜しく衆人をして習熟せしむべし。而して其の時に臨みて活用し以て長兵の利を尽くすに至りては、則ち其の人に在るなり。

現代語訳

わが国では火器が伝わってからも、使うのは鳥銃(火縄銃)どまりであった。大砲になると、その製法がようやく伝わったものの、まもなく世の中は太平になった。そのため鋳造はきわめて少なく、砲術家の流派もみなその技を秘伝とし、撃ち方は将兵が知ることができない。数の限られた砲術家だけを東西の数多い戦場へ駆け回らせることになれば、手が足りないのは明らかである。いま諸藩に大いに大砲を鋳造させ、兵士が使い方に通じるようにしなければ、天下の士気を盛んにすることはできず、いわゆる利器も国を守る役には立たない。その造りや砲架の据え方・撃ち方は、簡単で手早くあるべきで、複雑で凝っていて遅く重いものであってはならない。奥義や秘訣で、面倒で理解しにくいようなものは頼りにならない。また敵が大艦に乗って迫ってくるのは、城や砦を水上に運んでくるようなもので、守りの構えのまま攻めてくるものである。それを防ぐのに、一つのやり方にこだわって変化がなくてよいだろうか。そこで攻めの砲で賊の艦を砕き、守りの砲で港や入り江を押さえ、野戦の砲で敵の突進に備え、さらに火矢・噴筒・火桶・火磚など、すべて銃砲と併せて用いるものは、多くの人に習熟させておくべきである。そしてその場に臨んで活用し、遠くを撃つ兵器の利点を尽くすことは、それを使う人にかかっている。

解説

太平の世に大砲の鋳造が途絶え、砲術家が技を秘伝として抱え込んだため、将兵が撃ち方を知らないという現状を正志斎は批判する。少数の専門家に頼るのでなく、諸藩で大砲を鋳造して兵士一般に使い方を習わせ、器械も手順も簡便にせよと説く。流派の秘伝主義を退けて知識を広く開くという主張は、江戸の武芸のあり方への鋭い指摘であった。属人的なノウハウを標準化して組織に行き渡らせ、複雑すぎる仕組みを避けるという論点は、現代の業務設計や人材育成にもそのまま当てはまる。

この章句が説くこと

火器秘伝標準化人材防衛水戸学

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