新論 / 守禦
所謂練火器者何也、火器亦虜之長技、非我所恃以制虜也、然大礮之用、所以摧堅、在攻城守城、必不可闕、而水戰者以巨艦相當、猶兩壘相牴、大礮之製、不得不精、精者莫遠而不達、莫微而不中、固長兵之利、然長兵短用、決機在其人、夫大礮一發、所殺幾人、而其聲猛烈、震天裂地、若使敵獨善用之我無以應之、則兵刃未接、三軍先讋、何能鬪乎、
新字:所謂練火器者何也、火器亦虜之長技、非我所恃以制虜也、然大礮之用、所以摧堅、在攻城守城、必不可闕、而水戦者以巨艦相当、猶両塁相牴、大礮之製、不得不精、精者莫遠而不達、莫微而不中、固長兵之利、然長兵短用、決機在其人、夫大礮一発、所殺幾人、而其声猛烈、震天裂地、若使敵独善用之我無以応之、則兵刃未接、三軍先讋、何能闘乎、
書き下し
所謂火器を練るとは何ぞや。火器も亦虜の長技にして、我の恃みて以て虜を制する所に非ざるなり。然れども大礮の用は、堅を摧く所以にして、攻城守城に在りては、必ず闕くべからず。而して水戦なる者は巨艦を以て相当たり、猶ほ両塁の相牴るがごとし。大礮の製、精ならざるを得ず。精なる者は遠くして達せざる莫く、微にして中らざる莫し。固より長兵の利なり。然れども長兵も短く用ゐ、機を決するは其の人に在り。夫れ大礮一発、殺す所幾人ぞ。而して其の声猛烈にして、天を震はせ地を裂く。若し敵をして独り善く之を用ゐしめ、我以て之に応ずる無くんば、則ち兵刃未だ接せずして、三軍先づ讋る。何ぞ能く闘はんや。
現代語訳
火器を練るとはどういうことか。火器もまた敵の得意とする技であって、わが方がそれに頼って敵を制するものではない。しかし大砲の働きは堅固なものを打ち砕くことにあり、城を攻めるにも守るにも、決して欠かすことはできない。そして水上の戦いは巨艦どうしがぶつかり合うもので、ちょうど二つの砦が突き合うようなものである。大砲の造りは精巧でなければならない。精巧なものは、遠くても届かぬことがなく、小さな的にも当たらぬことがない。もとより遠くを撃つ兵器の利点である。だが遠くを撃つ兵器も近くで用いることがあり、勝機を決めるのはそれを使う人である。そもそも大砲一発で殺せるのは何人ほどか。ところがその音は猛烈で、天を震わせ地を裂くほどである。もし敵だけがこれをうまく使い、わが方に応じる手立てがなければ、刃を交える前に全軍がまず恐れおののいてしまう。それでどうして戦えようか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『新論』守禦中国火器有りしより始め、其の之を用ゐること鳥銃に止まる。大礮に至りては、則ち其の法始めて伝はるも、未だ幾ばくならずして世升平に属す。故に鋳造の極めて尠く、而して銃家者流も亦皆其の法を秘し、発放の術、将卒知ることを得ず。銃家の限り有るの人を以て、東西百戦の地に奔走せしむ。其の給せざるや明らかなり。今自ら邦国をして大いに巨礮を鋳造し士卒をして能く用法に通暁せしむるに非ざれば、則ち以て天下の気を壮んにする莫く、而して所謂利器なる者も、亦以て守国の用と為すに足らざるなり。若し其の制作と架法放法とは、宜しく易簡便捷なるべく、繁巧遅重なるべからず。其の奥秘妙訣、煩難にして暁り易からざる者の如きは、恃むに足らざるなり。且つ虜の大艦に駕して以て人に逼る者は、城塁を水上に運ぶなり、守を以て攻と為す者なり。之を拒ぐの勢、一を執りて変無かるべけんや。故に攻銃は以て賊艦を摧き、守銃は以て港嶴を扼し、戦銃は以て馳突に備へ、及び他の火箭・噴筒・火桶・火磚の類、凡そ銃と相参用する所以の者は、宜しく衆人をして習熟せしむべし。而して其の時に臨みて活用し以て長兵の利を尽くすに至りては、則ち其の人に在るなり。
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『新論』守禦今の論者は則ち止だ曰く、巨銃を海岸に列ね、寇至らば撃ちて之を却けん、と。夫れ巨礮大銃は、利器ならざるに非ず。然れども長兵の利は短用に在り、而して火を用ふるの術は、則ち敵を擾し勢ひに乗ずるに在り。苟も戦艦の以て水上に相迫る無く、銃兵の以て速やかに之に応ずる無くして、徒らに遠勢を以て相持せば、則ち一発の銃、以て堅陣を陥れ勁敵を拉ぐに足らんや。且つ船の洋中に在る、銃発するも必ずしも中らず、而して虜艦は堅実にして、能く之に中つと雖も亦た一二の弾丸の能く摧破する所に非ず。今水戦講ぜずして、乃ち遥遥として陸地に居り安坐して之を摧かんと欲するは、聞く所に非ざるなり。故に銃を海岸に列ねて以て固めと為すは、則ち港嶴の停泊の処、賊船の必ず由るの径に、正に神器を設けて以て彼をして鼾睡を肆にするを得ざらしむべきのみ。若し夫れ沿海万里、豈に悉く列銃を恃みて以て防海の至計と為すべけんや。
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『新論』守禦其の希に生ずる所の者を嗇用し、将に以て大いに用ゐる所有らんとす。其の用ゐて以て機に応じ勝を制するに至りては、則ち自ら将略有りて存す。此れ特に兵機を暁る者の為に論ずべくして、紙上に豫め論ずる所に非ざるなり。(戚継光の水戦の法の如きは、弓弩標石と火器と相参ふ。而して火器の如きも、亦其の一船に応に火薬五百斤を備ふべくして、鉛弾は三百斤に過ぎず。火薬の用、鉛弾を発するに止まらざること見るべし。而して参ふるに火箭・噴筒・薬桶の諸器を以てし、専ら鉛弾を用ゐず。則ち火器の必ずしも鉛弾を恃まざることも亦見るべし。)故に大礮の制、干鹵の用、弓弩の技、夫の鉄石雑品の採りて以て用に供すべき者と、皆火を用ゐるの術にして、以て間暇に及びて之を審議せざるべからざるなり。
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『新論』守禦故に小船を用ゐて以て巨艦を摧く者は、一時の戦略にして、主将の方寸に在り、之を其の人に付すべし、而して防海の規制を画する所以に非ざるなり。且つ鳥銃の如きは、原西夷の製する所なるも、中国採りて之を用ゐるに及び、其の制の精なること更に之に倍す。明人之を畏れ、号して倭銃と為す。其の番銃と称せずして倭銃と称するは、亦以て我が民の巧を見るべし。則ち船制の如きも、亦善く彼に取りて以て己の用と為さば、製造の精、何ぞ独り他人の後に在らんや。(鄂羅の汗伯得勒なる者、嘗て微服して船匠と為り、間行して荷蘭に到り、大舶を造ることを習ふ。鄂羅の善く大舶を用ゐ、航海の術に精しきは、蓋し是を始めと為す。実に元禄年間の事と云ふ。夷虜の心を用ゐること、猶尚ほ之くの如し。況んや中国にして反つて自ら棄てて為さざらんや。)故に曰く、巨艦を用ゐて以て軍容を壮んにし、士卒をして恃む所有りて懾れざらしめ、虜をして忌む所有りて敢へて肆にせざらしむ、此れ水兵の宜しく急ぐべき者なりと。故に水操の法、巨艦の制は、皆海国の先務にして、間暇に及びて之を審議せざるべからざるなり。
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『新論』守禦若し夫れ干鹵以て甲冑を輔け、弓弩以て銃砲に副へ、鉄石以て鉛銅を佐くる者は、抑も亦説有り。戦国の世、士卒死を軽んじ、干鹵を待たざる者有り。然れども亦往往之を用ゐて以て自ら扞蔽す。(城を攻むる者は、必ず竹を束ねて之を城外に樹て、以て銃丸を遮る。号して竹束と曰ふ。朝鮮の役、加藤清正等の亀甲を用ゐたる者は、其の制轒轀車の如し。其の他攻戦の自ら遮蔽する所以の者は、固より枚挙すべからざるなり。銃丸の迅き、洞徹せざる莫しと雖も、既に一盾を洞せば、其の末力未だ必ずしも鉄甲を貫かず。則ち士卒恃みて以て其の胆を壮んにすべし。清正嘗て兵を遣はして宇土を攻めしむ。将士民舎の戸扇を撤し、以て自ら遮蔽し、猶ほ以て飛丸の下に立ちて懾れざるを得たり。況んや干鹵の堅実、戸扇の比に非ざるをや。且つ虜銃一発に数丸を装ふは、之を単に一丸を装ふ者に比すれば、其の力稍微なり。未だ必ずしも一たび堅盾を洞して又更に鉄甲を貫かず。亦之を其の物に試みて可なり。然れども干鹵の用は、其の洞すると洞せざるとに在らずして、兵卒をして敵銃を見ざらしむるに在り。兵機を暁る者は、必ず能く之を知らん。)今習安脆弱の卒を以て、一旦事に臨み、身を飛丸迸箭の間に挺し、自ら遮蔽する無くんば、能く懾るる無からんや。則ち其の既に蔽ふに甲冑を以てし、又之を遮るに干鹵を以てし、以て士卒の心を固むる、其の制以て講ぜざるべからざるなり。
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『新論』守禦虜は海外諸国を周流し、鉛錫銅鉄硝黄の属、之を諸国の産に資る。其の用固より窮まらず。而して我内に自ら守り、必ず山嶽の秘を発して以て之を用ゐれば、則ち彼此多寡の数、其の較せざるや亦審らかなり。(明人寇を防ぎ、招集屯駐す。当時汪汝淳云ふ、苦しむ所は人日に衆くして、衣甲器械継がず、火薬更に敷かずと。則ち此の火薬の生じ易き者すら、亦猶ほ敷かざるを患ふ。況んや今銅鉄鉛錫、其の生ずること限り有る者をや。)故に或いは弓弩を参用し、必ずしも専ら火器を恃まず。其の火器を用ゐる者も、亦専ら銅と鉛とを恃まず。其の銃身は或いは鉄或いは木、其の弾は或いは鉄或いは石或いは餅、或いは和するに銅鉄の滓・海上の沙鉄の類を以てして、以て餅と為す。朽縄・敗布・爛網・破罟と雖も、亦採りて以て錬造に供す。其の乏しきを補ふべからざる無し。棄物を収蔵して、以て有用を待ち、之を平素に試み、士卒をして習ひて之を知らしめ、事に臨みて百方参用すれば、庶はくは急遽にして以て匱乏を致さざらん。
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