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新論 / 守禦

凡邦國所困、糴糶之權在商賈、而不得不仰給焉、百需皆資於市、而毎患物價之貴、歳時所獻 幕府、除其國土所産外、魚蝦餌餅之屬、多出市人手、其爲物、非如銅鐵鉛錫箭幹膠漆有益實事者之比、而必待賈豎印封、以驗其信、騶從必雇於市井、置之前行、宴飲待市人刀匕、然後盡其歡、及他宮室衣服婦女玩好、凡奢侈之所以糜財者、視以爲故常、謂之大名役、雖其君相、謹守舊習、不或敢易之、而邦君皆空其國、以家江戸、鍾天下膏血於都下、則其民亦爭離郷土、徙而家之、野荒民散、國得不貧乎、今欲轉貧爲富、固不得拘習俗、俗以爲不可廢、而有不可不廢者、以爲不必興、而有不可不興者、斟酌損益、去虚文而就實功、亦英雄所以相時弛張之權衡也、

新字:凡邦国所困、糴糶之権在商賈、而不得不仰給焉、百需皆資於市、而毎患物価之貴、歳時所献 幕府、除其国土所産外、魚蝦餌餅之属、多出市人手、其為物、非如銅鉄鉛錫箭幹膠漆有益実事者之比、而必待賈豎印封、以験其信、騶従必雇於市井、置之前行、宴飲待市人刀匕、然後尽其歓、及他宮室衣服婦女玩好、凡奢侈之所以糜財者、視以為故常、謂之大名役、雖其君相、謹守旧習、不或敢易之、而邦君皆空其国、以家江戸、鍾天下膏血於都下、則其民亦争離郷土、徙而家之、野荒民散、国得不貧乎、今欲転貧為富、固不得拘習俗、俗以為不可廃、而有不可不廃者、以為不必興、而有不可不興者、斟酌損益、去虚文而就実功、亦英雄所以相時弛張之権衡也、

書き下し

凡そ邦国の困しむ所は、糴糶の権商賈に在りて、仰ぎ給せざるを得ず。百需皆市に資りて、毎に物価の貴きを患ふ。歳時に幕府に献ずる所、其の国土の産する所を除くの外、魚蝦餌餅の属、多く市人の手より出づ。其の物たる、銅鉄鉛錫箭幹膠漆の実事に益有る者の比に非ずして、必ず賈豎の印封を待ちて、以て其の信を験す。騶従は必ず市井に雇ひて、之を前行に置き、宴飲は市人の刀匕を待ちて、然る後に其の歓を尽くす。他の宮室衣服婦女玩好に及ぶまで、凡そ奢侈の財を糜す所以の者、視て以て故常と為し、之を大名役と謂ふ。其の君相と雖も、謹んで旧習を守り、或は敢へて之を易へず。而して邦君皆其の国を空しくして、以て江戸に家し、天下の膏血を都下に鍾む。則ち其の民も亦た争ひて郷土を離れ、徙りて之に家す。野荒れ民散ず、国貧しからざるを得んや。今貧を転じて富と為さんと欲せば、固より習俗に拘るを得ず。俗以て廃すべからずと為して、廃せざるべからざる者有り、以て必ずしも興さずと為して、興さざるべからざる者有り。斟酌損益し、虚文を去りて実功に就く。亦た英雄の時を相て弛張する所以の権衡なり。

現代語訳

およそ諸藩が苦しんでいるのは、米の売り買いの権が商人に握られ、その供給を仰がざるをえないことである。あらゆる必要品はみな市場に頼り、いつも物価の高さに悩んでいる。季節ごとに幕府へ献上する品も、自国の産物を除けば、魚やえび、菓子や餅のたぐいの多くは町人の手から出る。それらの品は、銅・鉄・鉛・錫、矢柄や膠・漆のように実用に益あるものとは比べものにならないのに、必ず商人の封印を待って、その確かさを証明させる。供回りの者は必ず町で雇って行列の先に立て、宴会は町の料理人の包丁を待ってはじめて興を尽くす。そのほか屋敷・衣服・女性・遊び道楽に至るまで、およそ贅沢で財を浪費することを、当たり前のこととみなし、これを「大名役」と呼んでいる。藩主や家老であっても、つつしんで古い慣習を守り、あえて改めようとしない。そして藩主はみな自国を留守にして江戸に住み、天下の富(民の膏血)を江戸に集めている。するとその民もまた争って郷里を離れ、江戸に移り住む。田野は荒れ民は散る、国が貧しくならないでいられようか。今、貧しさを転じて富とするには、もとより習俗にとらわれてはならない。世間ではやめられないとするものの中にも、やめねばならないものがあり、必ずしも興す必要がないとするものの中にも、興さねばならないものがある。よく考えて増減し、虚飾を去って実際の効果をとる。これもまた英雄が時勢を見て、ゆるめたり引き締めたりするはかりである。

解説

邦国を富ます条の後半で、正志斎は藩財政窮乏の具体的な原因を挙げる。米の売買の権が商人にあること、献上品や行列、宴会まで町人頼みの慣行、それを当然視する「大名役」、そして大名が江戸に住んで富と人を都に集めてしまう構造である。結びの「虚文を去りて実功に就く」が要で、習俗だから続ける、前例がないから始めないという判断を退ける。現代の組織でも、慣行として続く見栄のための支出を洗い出し、やめるべきものと始めるべきものを見直す視点として有効である。

この章句が説くこと

富国慣習浪費財政実功参勤交代

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