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学問のすゝめ / 十六編・手近く独立を守ること・銭を制して銭に制せられず

かかる夢中の世渡りに心を労し、身を役し、一年千円の歳入も、一月百円の月給も、遣い果たしてその跡を見ず、不幸にして家産歳入の路を失うか、または月給の縁に離るることあれば、気抜けのごとく、間抜けのごとく、家に残るものは無用の雑物、身に残るものは奢侈の習慣のみ。憐れと言うもなおおろかならずや。産を立つるは一身の独立を求むるの基なりとて心身を労しながら、その家産を処置するの際に、かえって家産のために制せられて独立の精神を失い尽くすとは、まさにこれを求むるの術をもってこれを失うものなり。余輩あえて守銭奴の行状を称誉するにあらざれども、ただ銭を用うるの法を工夫し、銭を制して銭に制せられず、毫も精神の独立を害することなからんを欲するのみ。

書き下し

かかる夢中の世渡りに心を労し、身を役し、一年千円の歳入も、一月百円の月給も、遣い果たしてその跡を見ず、不幸にして家産歳入の路を失うか、または月給の縁に離るることあれば、気抜けのごとく、間抜けのごとく、家に残るものは無用の雑物、身に残るものは奢侈の習慣のみ。憐れと言うもなおおろかならずや。産を立つるは一身の独立を求むるの基なりとて心身を労しながら、その家産を処置するの際に、かえって家産のために制せられて独立の精神を失い尽くすとは、まさにこれを求むるの術をもってこれを失うものなり。余輩あえて守銭奴の行状を称誉するにあらざれども、ただ銭を用うるの法を工夫し、銭を制して銭に制せられず、毫も精神の独立を害することなからんを欲するのみ。

現代語訳

こんな夢の中の世渡りに心を労し身を使い、一年千円の収入も、一月百円の月給も、使い果たして跡形もなく、不幸にして家産や収入の道を失うか、または月給の縁が切れることがあれば、気が抜けたよう、間が抜けたようで、家に残るものは無用の雑物、身に残るものは奢侈の習慣だけです。憐れと言うのも足りないほどではありませんか。財産を作るのは一身の独立を求める土台だといって心身を労しながら、その財産を処置するうちに、かえって財産に制せられて独立の精神を失い尽くすとは、まさに求める手立てによってそれを失うものです。私はあえて守銭奴の行いを褒めるのではありませんが、ただ銭を使う方法を工夫し、銭を制して銭に制せられず、少しも精神の独立を害することがないようにと願うだけです。

解説

十六編前半の結びです。収入が絶えたとき残るのは無用の雑物と奢侈の習慣だけ、という指摘が冷たく正確です。そして中心の一句が置かれます。独立のために財産を作りながら、その扱い方で独立を失う。求める手立てで求めるものを失う、という構図です。最後に守銭奴を勧めているのではないと断り、銭を制して銭に制せられず、と目標が示されます。

この章句が説くこと

浪費習慣逆転制御独立

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