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新論 / 守禦

古人有言、使朝野常如虜兵之在境、乃國家之福也、臣故曰、和戰之策先決於内、斷然置天下於必死之地、然後防禦之策可得而施也、今虜但請通市、未至戰、和戰之策、似非所論、然世不知通市之害者、其心畏戰、其策必出於和者也、能痛拒絶通市者、雖其勢至於戰而不畏者也、凡事豫則立、二者得不豫決哉、今攘夷之令布天下、和戰既決、天下知所向矣、臣請陳守禦之策、

新字:古人有言、使朝野常如虜兵之在境、乃国家之福也、臣故曰、和戦之策先決於内、断然置天下於必死之地、然後防禦之策可得而施也、今虜但請通市、未至戦、和戦之策、似非所論、然世不知通市之害者、其心畏戦、其策必出於和者也、能痛拒絶通市者、雖其勢至於戦而不畏者也、凡事予則立、二者得不予決哉、今攘夷之令布天下、和戦既決、天下知所向矣、臣請陳守禦之策、

書き下し

古人言へる有り、朝野をして常に虜兵の境に在るが如くならしむるは、乃ち国家の福なり、と。臣故に曰く、和戦の策は先づ内に決し、断然として天下を必死の地に置き、然る後に防禦の策得て施すべし、と。今虜但だ通市を請ふのみにして、未だ戦に至らず、和戦の策は論ずる所に非ざるに似たり。然れども世の通市の害を知らざる者は、其の心戦を畏る、其の策必ず和に出づる者なり。能く痛く通市を拒絶する者は、其の勢戦に至ると雖も畏れざる者なり。凡そ事豫めすれば則ち立つ。二者豫め決せざるを得んや。今攘夷の令天下に布かれ、和戦既に決し、天下向かふ所を知る。臣請ふ、守禦の策を陳べん。

現代語訳

古人の言葉に「朝廷も民間も、つねに敵兵が国境にいるかのような心構えでいさせるのが、国家の幸いである」とある。だから私は言う。和すか戦うかの方策をまず内で決め、断固として天下を必死の境地に置き、そのうえで防禦の策を施すことができるのだ、と。今、外夷はただ交易を求めているだけで、まだ戦いには至っていないから、和戦の策など論じるまでもないように見える。しかし、世の中で交易の害を知らない者は、心の中で戦を恐れており、その方策は必ず和に傾く者である。交易を強く拒絶できる者は、たとえ情勢が戦に至っても恐れない者である。およそ物事はあらかじめ備えれば成り立つ。この二つ(和と戦)を前もって決めないでよいはずがあろうか。今、攘夷の令が天下に布かれ、和戦の方針はすでに決まり、天下は向かうところを知った。私はここに守禦の策を申し述べたい。

解説

正志斎は、交易要求の段階でも和戦の構えは問われると言い、交易を許す論は戦への恐れから出ると断じる。「凡そ事豫めすれば則ち立つ」は『中庸』の語である。「攘夷の令」は文政八年(1825)の異国船打払令を指し、正志斎はこれで方針が定まったとみて具体策に入る。交易拒絶を前提とするこの論は、後の尊王攘夷論に大きな影響を与えたが、あくまで当時の危機意識に立つ彼の主張である。一方、平時から有事の構えを保ち、方針を先に決めてから施策を組むという順序は、危機管理の基本として今も有効である。

この章句が説くこと

和戦攘夷備え危機守禦中庸

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