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家道訓 / 巻之二・総論中

一もろこしの諺に、かねて後の用心なきことをそしりて曰、三月に桑をうゑんことをおもひ、六月に塘を掘らんことをおもふ。言ふ意は、三月蠶を飼ふ時にいたりて、はじめて桑をうゑんことをおもひ出し、六月旱する時にいたりて、はじめて塘を掘らんことをおもひ出すは、かねて後の用心をせざる人のゆだんなる事をいへり。遠き慮なければ、必ず近き憂あり。家ををさむるには、萬のこと後を慮りて、かねてはやく其の用意をすべし。如此すれば、時にのぞみてにはかに行きあたりくるしまず。中庸にも、凡事前に定むれば不跲といへり。初にうれへざれば、をはりに樂なし。

新字:一もろこしの諺に、かねて後の用心なきことをそしりて曰、三月に桑をうゑんことをおもひ、六月に塘を掘らんことをおもふ。言ふ意は、三月蠶を飼ふ時にいたりて、はじめて桑をうゑんことをおもひ出し、六月旱する時にいたりて、はじめて塘を掘らんことをおもひ出すは、かねて後の用心をせざる人のゆだんなる事をいへり。遠き慮なければ、必ず近き憂あり。家ををさむるには、万のこと後を慮りて、かねてはやく其の用意をすべし。如此すれば、時にのぞみてにはかに行きあたりくるしまず。中庸にも、凡事前に定むれば不跲といへり。初にうれへざれば、をはりに楽なし。

書き下し

一もろこしの諺に、かねて後の用心なきことをそしりて曰、三月に桑をうゑんことをおもひ、六月に塘を掘らんことをおもふ。言ふ意は、三月蠶を飼ふ時にいたりて、はじめて桑をうゑんことをおもひ出し、六月旱する時にいたりて、はじめて塘を掘らんことをおもひ出すは、かねて後の用心をせざる人のゆだんなる事をいへり。遠き慮なければ、必ず近き憂あり。家ををさむるには、万のこと後を慮りて、かねてはやく其の用意をすべし。如此すれば、時にのぞみてにはかに行きあたりくるしまず。中庸にも、凡事前に定むれば不跲といへり。初にうれへざれば、をはりに楽なし。

現代語訳

中国の諺に、前もって後の用心がないことをそしって「三月に桑を植えようと思い、六月に池を掘ろうと思う」と言います。その意味は、三月に蚕を飼う時になって初めて桑を植えることを思い出し、六月の日照りの時になって初めて池を掘ることを思い出すのは、前もって後の用心をしない人の油断であるということです。遠い先の考えがなければ、必ず近い憂いがあります。家を治めるには、万事後のことを考えて、前もって早くその用意をすべきです。このようにすれば、その時に臨んでにわかに行き詰まって苦しむことはありません。『中庸』にも「およそ事は前もって定めれば行き詰まらない」とあります。初めに憂えなければ、終わりに楽はありません。

解説

三月に蚕を飼う段になって桑を植えようとし、日照りになってから池を掘ろうとする、という中国の諺で、備えのない油断を戒めています。論語衛霊公篇の「人遠き慮り無ければ、必ず近き憂ひ有り」と、中庸第二十章の「言前に定まれば跲かず」を踏まえています。家を治めるには万事先を見通して早めに用意せよという教えです。必要になってから慌てて準備しても間に合わないのは、資格の勉強でも、老後の資金でも、災害への備えでも同じです。

この章句が説くこと

備え遠慮中庸論語家

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