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新論 / 虜情

故欲傾人國家、則必先因通市而窺其虚實、見可乘則擧兵襲之、不可則唱夷敎、以煽惑民心、民心一移、簞壺相迎、莫之得禁也、而民爲胡神致死、相欣羨以爲榮、其勇足以鬪、傾資産以奉胡神、其財足以行兵、以誘人之民傾人之國、爲副胡神之心、假兼愛之言、以逞其呑噬、其兵雖云貪、而足以衒義兵之名、其併國略地、莫不皆由此術也、

新字:故欲傾人国家、則必先因通市而窺其虚実、見可乗則挙兵襲之、不可則唱夷教、以煽惑民心、民心一移、箪壺相迎、莫之得禁也、而民為胡神致死、相欣羨以為栄、其勇足以闘、傾資産以奉胡神、其財足以行兵、以誘人之民傾人之国、為副胡神之心、仮兼愛之言、以逞其呑噬、其兵雖云貪、而足以衒義兵之名、其併国略地、莫不皆由此術也、

書き下し

故に人の国家を傾けんと欲すれば、則ち必ず先づ通市に因りて其の虚実を窺ひ、乗ずべきを見れば則ち兵を挙げて之を襲ひ、不可なれば則ち夷教を唱へて、以て民心を煽惑す。民心一たび移れば、簞壺相迎へて、之を禁ずるを得る莫し。而して民は胡神の為に死を致し、相欣羨して以て栄と為す、其の勇以て闘ふに足る。資産を傾けて以て胡神に奉ず、其の財以て兵を行ふに足る。人の民を誘ひ人の国を傾くるを以て、胡神の心に副ふと為し、兼愛の言を仮りて、以て其の呑噬を逞しうす。其の兵貪と云ふと雖も、而も以て義兵の名を衒ふに足る。其の国を併せ地を略する、皆此の術に由らざる莫きなり。

現代語訳

だから他国を傾けようとするときは、必ずまず交易によってその実情をうかがい、つけ入るすきがあれば兵を挙げて襲い、だめなら異国の教えを唱えて民心をあおり惑わす。民心がいったん移れば、民は飯や飲み物を携えて迎え入れ、もはや止めることはできない。そして民は異国の神のために命を投げ出し、互いにうらやんでそれを栄誉とするので、その勇気は戦うに十分である。財産を傾けて異国の神にささげるので、その財力は軍を動かすに十分である。他国の民を誘い他国を傾けることを神の心にかなうこととし、兼愛(博愛)の言葉を借りて、呑みこみ食らう欲をほしいままにする。その戦いは貪欲なものであっても、義兵の名を誇るに十分である。彼らが国を併せ領地を奪うのは、みなこの術によらないものはないのである。

解説

正志斎は、西洋諸国が他国を奪う手順を、交易による偵察、隙があれば武力、なければ宗教による民心の切り崩しと整理する。民心が移れば、民は自ら財と命を差し出し、侵略は「義兵」の名で飾られるという。宣教と植民地化の結びつきは大航海時代に実際に見られたが、それをすべての宣教に当てはめるのは正志斎の一方的な主張である。とはいえ、外からの力よりも内側の心が離れることのほうが組織を危うくするという洞察は普遍的であり、正志斎が後の「長計」篇で教化と民心の統合を説く伏線にもなっている。

この章句が説くこと

虜情民心交易宗教危機新論

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