臣軌 / 卷上 匡諫章
又曰:“夫登高棟臨危簷而目不朐、心不懼者,此工匠之勇也;入深泉刺蛟龍,抱黿鼉而出者,此漁父之勇也;入深山刺猛獸抱熊羆而出者,此獵夫之勇也;臨戰先登暴骨流血而不辭者,此武士之勇也;居於廣廷作色端辯以犯君之嚴顏,前雖有乘軒之賞未為之動,後雖有斧锧之誅未為之懼者,此忠臣之勇也。君子於此五者,以忠臣之勇為貴也。”《代要論》曰:“夫諫諍者,所以納君於道,矯枉正非,救上之謬也。上苟有謬而無救焉,則害於事。害於事則危。故《論語》曰:‘危而不持,顛而不扶,則將焉用彼相矣?’然則,扶危之道莫過於諫,是以國之將興,貴在諫臣;家之將興,貴在諫子。若君父有非,臣子不諫,欲求國泰家榮,不可得也。”臣軌上終
新字:又曰:“夫登高棟臨危簷而目不朐、心不懼者,此工匠之勇也;入深泉刺蛟竜,抱黿鼉而出者,此漁父之勇也;入深山刺猛獣抱熊羆而出者,此猟夫之勇也;臨戦先登暴骨流血而不辞者,此武士之勇也;居於広廷作色端弁以犯君之厳顔,前雖有乗軒之賞未為之動,後雖有斧锧之誅未為之懼者,此忠臣之勇也。君子於此五者,以忠臣之勇為貴也。”《代要論》曰:“夫諫諍者,所以納君於道,矯枉正非,救上之謬也。上苟有謬而無救焉,則害於事。害於事則危。故《論語》曰:‘危而不持,顛而不扶,則将焉用彼相矣?’然則,扶危之道莫過於諫,是以国之将興,貴在諫臣;家之将興,貴在諫子。若君父有非,臣子不諫,欲求国泰家栄,不可得也。”臣軌上終
書き下し
又曰く、「夫れ高棟に登り危簷に臨みて、目朐かず、心懼れざる者は、此れ工匠の勇なり。深泉に入りて蛟竜を刺し、黿鼉を抱きて出づる者は、此れ漁父の勇なり。深山に入りて猛獣を刺し、熊羆を抱きて出づる者は、此れ猟夫の勇なり。戦いに臨みて先登し、骨を暴し血を流して辞せざる者は、此れ武士の勇なり。広廷に居りて色を作し辯を端し、以て君の厳顔を犯し、前に乗軒の賞有りと雖も未だ之が為に動かず、後に斧锧の誅有りと雖も未だ之が為に懼れざる者は、此れ忠臣の勇なり。君子は此の五者に於いて、忠臣の勇を以て貴しと為す」と。『代要論』に曰く、「夫れ諫諍なる者は、君を道に納れ、枉れるを矯め非を正し、上の謬りを救う所以なり。上苟くも謬り有りて救う無ければ、則ち事を害す。事を害すれば則ち危うし。故に『論語』に曰く、『危うくして持せず、顛りて扶けずんば、則ち将た焉んぞ彼の相を用いん』と。然らば則ち、危うきを扶くるの道は諫に過ぐる莫し。是を以て国の将に興らんとするや、貴ぶは諫臣に在り、家の将に興らんとするや、貴ぶは諫子に在り。若し君父に非有りて、臣子諫めずんば、国泰く家栄えんことを求めんと欲するも、得可からざるなり」と。臣軌上終。
現代語訳
(『説苑』は)またこう言う。「高い棟木に登り、危うい軒先に臨んでも、目がくらまず心も恐れないのは、大工の勇気である。深い淵に潜って蛟竜を刺し、大すっぽんやわにを抱えて出てくるのは、漁師の勇気である。深い山に入って猛獣を刺し、熊やひぐまを抱えて出てくるのは、猟師の勇気である。戦いに臨んで真っ先に敵陣に乗り込み、骨をさらし血を流してもいとわないのは、武士の勇気である。広い朝廷で顔色を変えて正しく論じ、君の厳しい顔色に逆らい、前に大夫の車に乗る褒賞があっても心を動かさず、後ろに斧で斬られる刑罰が控えていても恐れないのは、忠臣の勇気である。君子はこの五つのうち、忠臣の勇気を最も尊ぶ」。『代要論』(三国魏の桓範の『世要論』。唐では太宗の諱の世を避けて代と書いた)にはこうある。「諫め争うとは、君を正道に納れ、曲がったものを直し非を正し、上の誤りを救うためのものである。上にもし誤りがあるのに救う者がいなければ、事が損なわれる。事が損なわれれば国は危うくなる。だから『論語』に『危ういのに支えず、倒れかけているのに助けないなら、いったい何のために補佐役を用いるのか』とある。そうであれば、危うさを支える道として諫めにまさるものはない。だから国が興ろうとするときは諫める臣が尊ばれ、家が興ろうとするときは諫める子が尊ばれる。もし君や父に非があるのに、臣や子が諫めなければ、国の安泰や家の繁栄を求めようとしても、得られはしない」。臣軌上巻おわり。
解説
関連する章句
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『臣軌』卷上 匡諫章命に従いて君を利するをこれ順と謂い、命に従いて君を病ましむるをこれ諛と謂う。命に逆らいて君を利するをこれ忠と謂い、命に逆らいて君を病ましむるをこれ乱と謂う。君に過失有りて諫諍せざれば、将に国家を危うくし社稷を殞さんとするなり。能く君に言を尽くし、用いらるれば則ち留まり、用いられざれば則ち去る、これを諫と謂う。用いらるれば則ち可、用いられざれば則ち死す、これを諍と謂う。能く群下を率いて君を諫め、君聴かざる能わず、遂に国の大患を解き、国の大害を除き、竟に能く主を尊び国を安んずる者、これを輔と謂う。能く君の命に抗し、君の事に反し、以て国の危うきを安んじ、主の辱めを除き、而して国の大利を成す者、これを弼と謂う。故に諫諍輔弼なる者は、所謂る社稷の臣、明君の貴ぶ所なり。
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説苑・正諫易に曰わく、「王臣蹇蹇たるは、躬の故に匪ず」と。人臣の蹇蹇として難しと為す所以にして、其の君を諫むる者は身の為に非ざるなり、将に以て君の過を匡し、君の失を矯めんと欲すればなり。君に過失有るは、危亡の萌なり。君の過失を見て諫めざるは、是れ君の危亡を軽んずるなり。夫れ君の危亡を軽んずる者は、忠臣の忍びて為さざる所なり。三たび諫めて用いられざれば則ち去り、去らざれば則ち身亡ぶ。身亡ぶは、仁人の為さざる所なり。是の故に諫に五有り。一に曰わく正諫、二に曰わく降諫、三に曰わく忠諫、四に曰わく戇諫、五に曰わく諷諫。孔子曰わく、「吾は其れ諷諫に従わんか」と。夫れ諫めざれば則ち君を危うくし、固く諫むれば則ち身を危うくす。其の君を危うくせんよりは、寧ろ身を危うくせよ。身を危うくして終に用いられざれば、則ち諫も亦た功無し。智者は君を度り時を権り、其の緩急を調えて其の宜しきに処る。上は敢えて君を危うくせず、下は以て身を危うくせず、故に国に在りて国危うからず、身に在りて身殆うからず。昔陳の霊公は泄冶の諫を聴かずして之を殺し、曹羈は三たび曹君を諫めて聴かれずして去る。春秋の義を序するに賢を倶にすと雖も、曹羈は礼に合えり。
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『臣軌』卷上 匡諫章昔、万乗の主に諍臣七人有れば、則ち主に過挙無し。千乗の国に諍臣五人有れば、則ち社稷危うからず。百乗の家に諍臣三人有れば、則ち禄位替らず。父に諍子有れば、無礼に陥らず。士に諍友有れば、不義を行わず。子、父の命に従う、奚ぞ孝と為さんや。臣、君の命に従う、奚ぞ忠と為さんや。
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『臣軌』卷上 匡諫章『新序』に曰く、「主暴にして諫めざるは、忠臣に非ざるなり。死を畏れて言わざるは、勇士に非ざるなり。過ちを見れば則ち諫め、用いられざれば即ち死するは、忠の至りなり。晋の平公、叔向に問いて曰く、『国家の患い孰れをか大と為す』と。対えて曰く、『大臣は禄を重んじて極諫せず、近臣は罪を畏れて敢えて言わず、下情は上に通ずるを得ず。此れ患いの大なる者なり』と。公曰く、『善し』と。乃ち令して曰く、『臣に善言を進めんと欲して謁する者有りて、謁者通ぜざれば、罪は死に至る』と」。『説苑』に曰く
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『臣軌』卷上 匡諫章夫れ諫なる者は、君を正に匡す所以なり。『易』に曰く、「王臣蹇蹇たり、躬の故に匪ず」と。人臣の蹇蹇たるを以て難しと為す所以なり。而して其の君を諫むる者は、身の為に非ざるなり、将に以て君の過ちを除き、君の失を矯めんと欲するなり。君に過失有りて諫めざる者は、忠臣の為すに忍びざるなり。『春秋』伝に曰く、斉の景公、遄台に坐す。梁丘拠、馳せて造る。公曰く、「唯だ拠のみ我と和するかな」と。晏子曰く、「拠も亦た同なり。焉んぞ和と為すを得ん」と。公曰く、「和と同とは異なるか」と。
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『臣軌』卷下 利人章『賈子』に曰く、「上古の代は、務め農を勧むるに在り。故に三年耕して一年の蓄え余り、九年耕して三年の蓄え余り、三十年耕して人に十年の蓄え余る。故に堯の水九年、湯の旱七載、野に青草無くして人に饑色無き者は、誠に此の備え有ればなり」と。故に国を建つるの本は、必ず農に在り。忠臣の人を利せんことを思う者は、務め勧導に在り。家給り人足れば、則ち国自ずから安んず。論に曰く、夫れ君臣の道は、上下相資る。水を渉るの舟航に喩え、空を翔るの羽翼に比す。故に至神攸に契えば、則ち星象穹蒼より降り、妙感潜かに通ずれば、則ち風雲寤寐に彰わる。其の体を同じくするや、則ち股肱耳目も以て其の同じきに匹するに足らず、其の政を益すや、則ち麹蘖塩梅も未だ以て其の益に方ぶ可からず。諒直の操は此れに由りて興り、節義の風は斯れに因りて以て著る。是に知る、家と国とは異ならず、君と親とは一に帰すと。己を顕し名を揚ぐるは、惟れ忠惟れ孝なり。毎に宮闈の暇景を以て、博く瓊編を覧、往哲の弼諧を観、前言の亀鏡を睹るに、未だ嘗て文に臨みて嗟尚し、巻を撫して循環せずんばあらず。庶わくは匡翊の賢をして、更に夔・竜の美を越えしめんことを。爰に翰墨を申べ、載せて縑緗に列ぬ。何となれば則ち、栄辱は門無く、惟だ人の召く所なればなり。若し心をして大道に帰せしめ、情は至忠に切に、務めて公平を守り、貴んで誠信を敦くし、廉潔を抱きて行いと為し、慎密を懐きて以て身を修め、上に奉じては匡諫の規を崇び、下を恤みては利人の術を思わしめば、自然に名実兼ねて茂り、禄位倶に延び、栄は召かずして自ら来たり、辱は遣らずして斯に去らん。然らば則ち忠正なる者は福を致すの本、戒慎なる者は慶を集むるの源にして、影の形に随うが若く、猶お声の響きを逐うがごとし。凡百の群彦、勖めざる可けんや。撰臣軌下終。
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