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春秋左氏伝 / 僖公十五年 韓原の戦い

壬戌,戰于韓原。晉戎馬還濘而止,公號慶鄭。慶鄭曰:「愎諫違卜,固敗是求,又何逃焉?」遂去之。梁由靡御韓簡,虢射為右,輅秦伯,將止之。鄭以救公誤之,遂失秦伯。秦獲晉侯以歸。晉大夫反首拔舍,從之。秦伯使辭焉,曰:「二三子何其慼也!寡人之從君而西也,亦晉之妖夢是踐,豈敢以至?」晉大夫三拜稽首曰:「君履后土而戴皇天,皇天后土,實聞君之言,群臣敢在下風。」穆姬聞晉侯將至,以大子罃、弘與女簡、璧,登臺而履薪焉。使以免服衰絰逆,且告曰:「上天降災,使我兩君匪以玉帛相見,而以興戎。若晉君朝以入,則婢子夕以死;夕以入,則朝以死。唯君裁之。」乃舍諸靈臺。

新字:壬戌,戦于韓原。晋戎馬還濘而止,公号慶鄭。慶鄭曰:「愎諫違卜,固敗是求,又何逃焉?」遂去之。梁由靡御韓簡,虢射為右,輅秦伯,将止之。鄭以救公誤之,遂失秦伯。秦獲晋侯以帰。晋大夫反首抜舎,従之。秦伯使辞焉,曰:「二三子何其慼也!寡人之従君而西也,亦晋之妖夢是践,豈敢以至?」晋大夫三拝稽首曰:「君履后土而戴皇天,皇天后土,実聞君之言,群臣敢在下風。」穆姫聞晋侯将至,以大子罃、弘与女簡、璧,登台而履薪焉。使以免服衰絰逆,且告曰:「上天降災,使我両君匪以玉帛相見,而以興戎。若晋君朝以入,則婢子夕以死;夕以入,則朝以死。唯君裁之。」乃舎諸霊台。

書き下し

壬戌、韓原に戰ふ。晉の戎馬濘に還りて止まる。公慶鄭を號ぶ。慶鄭曰く、「諫に愎り卜に違ふ、固より敗を是れ求む、又何ぞ逃れん」と。遂に之を去る。梁由靡韓簡を御し、虢射右と為り、秦伯を輅へ、將に之を止めんとす。鄭公を救ふを以て之を誤らしめ、遂に秦伯を失ふ。秦晉侯を獲て以て歸る。晉の大夫首を反し舍を拔きて、之に從ふ。秦伯使ひして辭せしめて曰く、「二三子何ぞ其れ慼へるや。寡人の君に從ひて西するや、亦た晉の妖夢を是れ踐むのみ、豈に敢へて以て至らんや」と。晉の大夫三拜稽首して曰く、「君は后土を履みて皇天を戴く。皇天后土、實に君の言を聞く、群臣敢へて下風に在らん」と。穆姬晉侯の將に至らんとするを聞き、大子罃・弘と女簡・璧とを以て、臺に登りて薪を履む。免服衰絰を以て逆へしめ、且つ告げしめて曰く、「上天災を降し、我が兩君をして玉帛を以て相見えずして、戎を興すを以てせしむ。若し晉君朝に以て入らば、則ち婢子夕べに以て死せん。夕べに以て入らば、則ち朝に以て死せん。唯だ君之を裁け」と。乃ち諸を靈臺に舍らしむ。

現代語訳

壬戌の日、韓原で戦った。晋侯(恵公)の戦車の馬はぬかるみでぐるぐる回って動けなくなった。公は慶鄭を呼んで助けを求めた。慶鄭は言った。「諫めに逆らい、占いに背いた。もともと敗北を求めていたのです。いまさらどうして逃げようとなさるのか」。そして立ち去ってしまった。一方、梁由靡が韓簡の戦車の御者となり、虢射が車右となって、秦伯(穆公)の戦車を迎え撃ち、秦伯を捕らえようとしていた。そこへ慶鄭が晋侯を救えと呼びかけて彼らを引き返させたため、ついに秦伯を取り逃がした。秦は晋侯を捕らえて連れ帰った。晋の大夫たちは髪を振り乱し、陣営を引き払って、晋侯の後に従った。秦伯は使者を送って断りを言わせた。「諸君はどうしてそのように悲しんでおられるのか。私が晋君に従って西へ行くのは、晋の不吉な夢(太子申生の霊が晋を罰すると告げた夢)のとおりにしているまでのこと。どうしてひどいことをいたしましょうか」。晋の大夫たちは三度拝礼し、頭を地につけて言った。「君は大地を踏み、天を戴いておられます。天の神も地の神も、たしかに君のいまのお言葉を聞きました。我ら群臣は、そのお言葉を下手でうかがっております」。穆姫(恵公の姉で穆公の夫人)は晋侯が連れて来られると聞くと、太子罃・弘と娘の簡璧を連れて高台に上り、積み上げた薪の上に立った。そして喪服を着た使者に秦伯を出迎えさせ、こう告げさせた。「天が災いを下し、我が二人の君が、玉や絹の贈り物を携えて会うのではなく、戦を起こして相まみえることになりました。もし晋君が朝に都に入れば、私は夕べに死にます。夕べに入れば、翌朝に死にます。どうか君がお決めください」。そこで秦伯は晋侯を都に入れず、霊台に留め置いた。

解説

晋の恵公が韓原で秦に大敗し、捕らえられる場面である。戦車の馬がぬかるみにはまった恵公が呼んだのは、よりによって諫言を退けた慶鄭だった。慶鄭は「諫に愎り卜に違ふ、固より敗を是れ求む」と突き放して去る。しかも韓簡の隊が秦の穆公をあと一歩で捕らえかけたところを、慶鄭が恵公の救出を叫んで呼び戻したため、逆転の機会まで失われた。慶鄭の振る舞いは、正論を言う臣が、主君の危急に際してどう動くべきかという重い問いを残す。後半では、秦の穆公の夫人である穆姫が、弟の恵公が都に連れて来られると聞き、子供たちと薪の上に立って「朝に入らば夕べに死せん」と迫る。夫と弟の国が戦ったとき、自分の命を賭けて弟の助命を求めたのである。勝った穆公も、晋の大夫たちも、それぞれ天地を持ち出して言葉を選ぶ。勝敗の後にこそ、各人の立場と言葉の重みが問われている。

この章句が説くこと

諫言敗戦忠義家族捕虜

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