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詩経 / 大雅・蕩之什・桑柔二

維此惠君,民人所瞻。秉心宣猶,考慎其相。維彼不順,自獨俾臧,自有肺腸,俾民卒狂。 瞻彼中林,甡甡其鹿。朋友已譖,不胥以穀。人亦有言:進退維谷。 維此聖人,瞻言百里。維彼愚人,覆狂以喜。匪言不能,胡斯畏忌? 維此良人,弗求弗迪。維彼忍心,是顧是復。民之貪亂,寧為荼毒。 大風有隧,有空大谷。維此良人,作為式穀。維彼不順,征以中垢。 大風有隧,貪人敗類。聽言則對,誦言如醉。匪用其良,覆俾我悖。 嗟爾朋友,予豈不知而作。如彼飛蟲,時亦弋獲。既之陰女,反予來赫。 民之罔極,職涼善背。為民不利,如云不克。民之回遹,職競用力。 民之未戾,職盜為寇。涼曰不可,覆背善詈。雖曰匪予,既作爾歌。

新字:維此恵君,民人所瞻。秉心宣猶,考慎其相。維彼不順,自独俾臧,自有肺腸,俾民卒狂。 瞻彼中林,甡甡其鹿。朋友已譖,不胥以穀。人亦有言:進退維谷。 維此聖人,瞻言百里。維彼愚人,覆狂以喜。匪言不能,胡斯畏忌? 維此良人,弗求弗迪。維彼忍心,是顧是復。民之貪乱,寧為荼毒。 大風有隧,有空大谷。維此良人,作為式穀。維彼不順,征以中垢。 大風有隧,貪人敗類。聴言則対,誦言如酔。匪用其良,覆俾我悖。 嗟爾朋友,予豈不知而作。如彼飛虫,時亦弋獲。既之陰女,反予来赫。 民之罔極,職涼善背。為民不利,如云不克。民之回遹,職競用力。 民之未戻,職盗為寇。涼曰不可,覆背善詈。雖曰匪予,既作爾歌。

書き下し

維れ此の恵君は、民人の瞻(あお)ぐ所。心を秉ること宣猶(せんゆう)にして、其の相(たすけ)を考え慎む。維れ彼の順ならざるは、自ら独り臧(よ)しとし、自ら肺腸有りて、民をして卒(ことごと)く狂わしむ。 彼の中林を瞻れば、甡甡(しんしん)たる其の鹿。朋友已に譖(そし)りあい、胥(あい)以て穀(よ)からず。人亦言える有り、進退維れ谷(きわ)まる、と。 維れ此の聖人は、瞻て言(ここ)に百里。維れ彼の愚人は、覆(かえ)って狂いて以て喜ぶ。言うこと能わざるに匪(あら)ず、胡ぞ斯く畏忌する。 維れ此の良人は、求めず迪(すす)まず。維れ彼の忍心は、是れ顧み是れ復(かえり)みる。民の乱を貪る、寧ろ荼毒(とどく)を為せばなり。 大風隧(みち)有り、空しき大谷有り。維れ此の良人は、作為式(もっ)て穀し。維れ彼の順ならざるは、征(ゆ)くに中垢(ちゅうこう)を以てす。 大風隧有り、貪人類を敗る。言を聴けば則ち対え、言を誦すれば酔えるが如し。其の良を用いず、覆って我をして悖(もと)らしむ。 嗟(ああ)爾朋友、予豈に知らずして作さんや。彼の飛虫の如き、時に亦弋(よく)して獲らる。既に之れ女(なんじ)を陰(おお)わんとするに、反って予に来たりて赫(いか)る。 民の極(きわ)まり罔きは、職(まさ)に涼(まこと)に善く背けばなり。民の為に利あらざること、克たざらんとするが如く云う。民の回遹(かいいつ)するは、職に力を用うるを競えばなり。 民の未だ戾(さだ)まらざるは、職に盗の寇を為せばなり。涼に不可なりと曰えば、覆って背きて善く詈(ののし)る。予に匪ずと曰うと雖も、既に爾の歌を作れり。

現代語訳

恵み深い君主は、民がみな仰ぎ見るところとなる。心の持ち方が明らかで思慮深く、補佐する臣をよく考え慎んで選ぶ。だが道に従わない君主は、自分ひとりをよしとし、自分勝手な腹づもりを持って、民をことごとく狂わせてしまう。 あの林の中を見れば、鹿がたくさん群れ集っている。ところが人の世の仲間たちは互いにそしり合い、よくし合うことがない。人もまた言っている、「進むも退くも行き詰まった」と。 聖人は、先を見て百里の彼方まで見通す。だが愚かな人は、かえって狂ったように喜んでいる。わたしは言えないのではない、どうしてこれほど恐れはばかって黙っていなければならないのか。 善良な人は、地位を求めず、出世を急がない。だが残忍な心の者は、利を顧み、何度も振り返って求める。民が乱れをむさぼるようになったのは、苦い草と毒虫のような害を受けたからなのだ。 大風には吹き抜ける道があり、空っぽの大きな谷から吹いてくる。善良な人は、そのなすことがよい。だが道に従わない者は、汚れた道を進んで行く。 大風には吹き抜ける道があり、貪欲な人は善き人々を損なう。耳に心地よい言葉を聞けばすぐに答えるが、諫めの言葉を唱えれば酔ったようにぼんやりしている。善良な者を用いず、かえってわたしを道理にそむいた者とする。 ああ、あなた方仲間たちよ、わたしが何も知らずにこの詩を作ったと思うのか。あの飛ぶ鳥でさえ、ときには射落とされるものだ。わたしはあなた方をかばおうとしたのに、かえってわたしに向かって怒りを燃やす。 民が際限なく乱れるのは、まことに上の者がよく道に背くからである。民のためにならないことを、まるでそうしなければ勝てないかのように言う。民が邪な道に走るのは、まさに上の者が力ずくを競うからである。 民がまだ落ち着かないのは、まさに盗人が寇(あだ)をなすからである。わたしがまことにいけないと言えば、かえって背を向けて口汚く罵る。「わたしのせいではない」と言うかもしれないが、わたしはすでにあなたのためにこの歌を作ったのだ。

解説

「桑柔」の後半である。前半で国の乱れを嘆いた作者は、ここで恵み深い君主と道に背く君主、聖人と愚人、良人と残忍な者、というように善悪を対にして並べ、乱の根が上に立つ者の心にあることを言い立てる。「人亦言える有り、進退維れ谷まる」は、進むも退くも行き詰まった窮地を指す成語「進退維谷」のもとであり、日本語の「進退きわまる」もこの句に由来する。「大風隧有り、貪人類を敗る。言を聴けば則ち対え、言を誦すれば酔えるが如し」の章は、『左伝』文公元年で、秦の穆公が戦に敗れた責めを自らに帰する言葉のなかで「周の芮良夫の詩」として引いている。耳に心地よい言葉にはすぐ応じ、諫めの言葉には酔ったように上の空になる。そうした聞き手の姿は、どの時代の組織にも見いだせるものだろう。結びの「既に爾の歌を作れり」には、聞き入れられずとも言うべきことは言ったという、作者の覚悟がにじんでいる。

この章句が説くこと

詩経進退維谷諫言芮伯貪人

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