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詩経 / 大雅・蕩之什・抑一

《抑》,衛武公刺厲王,亦以自警也。 抑抑威儀,維德之隅。人亦有言:靡哲不愚。庶人之愚,亦職維疾。哲人之愚,亦維斯戾。 無競維人,四方其訓之。有覺德行,四國順之。訏謨定命,遠猶辰告。敬慎威儀,維民之則。 其在于今,興迷亂于政。顛覆厥德,荒湛于酒。女雖湛樂從,弗念厥紹。罔敷求先王,克共明刑。 肆皇天弗尚,如彼泉流,無淪胥以亡。夙興夜寐,洒埽庭內,維民之章。修爾車馬,弓矢戎兵,用戒戎作,用逷蠻方。 質爾人民,謹爾侯度,用戒不虞。慎爾出話,敬爾威儀,無不柔嘉。白圭之玷,尚可磨也,斯言之玷,不可為也! 無易由言,無曰苟矣。莫捫朕舌,言不可逝矣。無言不讎,無德不報。惠于朋友,庶民小子。子孫繩繩,萬民靡不承。

新字:《抑》,衛武公刺厲王,亦以自警也。 抑抑威儀,維徳之隅。人亦有言:靡哲不愚。庶人之愚,亦職維疾。哲人之愚,亦維斯戻。 無競維人,四方其訓之。有覚徳行,四国順之。訏謨定命,遠猶辰告。敬慎威儀,維民之則。 其在于今,興迷乱于政。顛覆厥徳,荒湛于酒。女雖湛楽従,弗念厥紹。罔敷求先王,克共明刑。 肆皇天弗尚,如彼泉流,無淪胥以亡。夙興夜寐,洒埽庭内,維民之章。修爾車馬,弓矢戎兵,用戒戎作,用逷蠻方。 質爾人民,謹爾侯度,用戒不虞。慎爾出話,敬爾威儀,無不柔嘉。白圭之玷,尚可磨也,斯言之玷,不可為也! 無易由言,無曰苟矣。莫捫朕舌,言不可逝矣。無言不讎,無徳不報。恵于朋友,庶民小子。子孫縄縄,万民靡不承。

書き下し

抑(よく)は、衛の武公厲王を刺り、亦以て自ら警むるなり。 抑抑(よくよく)たる威儀は、維(こ)れ徳の隅(かど)。人亦言える有り、哲として愚ならざる靡(な)し、と。庶人の愚は、亦職(まさ)に維れ疾(やまい)なり。哲人の愚は、亦維れ斯れ戾(もと)る。 競(つよ)きこと維れ人より無し、四方其れ之に訓(したが)う。覚(おお)いなる徳行有れば、四国之に順う。訏謨(くぼ)もて命を定め、遠猶(えんゆう)辰(とき)に告ぐ。威儀を敬慎せよ、維れ民の則なり。 其の今に在りては、迷乱を政に興す。厥(そ)の徳を顛覆し、酒に荒湛(こうたん)す。女(なんじ)湛楽に之れ従うと雖も、厥の紹(つ)ぐを念わず。敷(あまね)く先王を求めて、克く明刑を共(まも)ること罔(な)し。 肆(ゆえ)に皇天尚(たっと)ばず、彼の泉の流るるが如く、淪胥(りんしょ)して以て亡ぶること無かれ。夙(つと)に興き夜に寐(い)ね、庭内を洒埽(さいそう)し、維れ民の章(のり)たれ。爾の車馬、弓矢戎兵を修め、用て戎作(じゅうさく)を戒め、用て蛮方を逷(とお)ざけよ。 爾の人民を質(ただ)し、爾の侯度を謹み、用て不虞(ふぐ)を戒めよ。爾の出話を慎み、爾の威儀を敬い、柔嘉ならざる無かれ。白圭(はっけい)の玷(か)けたるは、尚お磨くべきなり、斯の言の玷けたるは、為(おさ)むべからざるなり。 易(かろがろ)しく言に由ること無かれ、苟(いやし)くもすと曰うこと無かれ。朕(わ)が舌を捫(おさ)うる莫し、言は逝(す)つべからず。言として讎(むく)いられざるは無く、徳として報いられざるは無し。朋友、庶民小子に恵みあれ。子孫繩繩(じょうじょう)として、万民承けざる靡し。

現代語訳

「抑」の詩は、衛の武公が厲王を諷刺し、同時に自分自身をも戒めたものである。 慎み深く整った威儀は、徳の外に現れた角である。人もまた言っている、「賢い人にも愚かなところのない者はいない」と。普通の人の愚かさは、生まれつきの欠点にすぎない。だが賢い人の愚かさは、道理にそむくことになるのだ。 人を得ることほど強いものはなく、四方の国々はそれに従う。大いなる徳行があれば、四方の国々は従い順う。遠大な計画で政令を定め、先を見越した策を時に応じて告げ知らせる。威儀を慎み深く保て、それが民の手本となるのだ。 ところが今は、政治に迷いと乱れを起こしている。自らの徳をひっくり返し、酒に溺れきっている。おまえは楽しみに浸るばかりで、先祖の業を継ぐことを思わない。広く先王の道を求めることもせず、明らかな法を守ることもできない。 だから大いなる天はおまえを尊ばない。あの泉の水が流れ去るように、皆そろって滅びてしまってはならない。朝早く起き夜遅く寝て、庭や家の中を掃き清め、民の手本となれ。おまえの車馬、弓矢や兵器を整えて、戦が起こるのに備え、異民族を遠ざけよ。 おまえの民を正しく治め、諸侯としての法度を慎んで守り、思いがけない事態に備えよ。口から出す言葉を慎み、威儀を敬い整え、何事も穏やかでよいものであるようにせよ。白い玉の傷ならば、まだ磨いて消すことができる。だが言葉の傷は、どうにも直すことができないのだ。 軽々しく言葉を口にしてはならない、「かまうものか」と言ってはならない。わたしの舌を押さえてくれる者などいない、一度出た言葉は取り消せない。どんな言葉にも応じる答えがあり、どんな徳にも報いがある。友人たちに、民や若者たちに恵みを施せ。そうすれば子孫は絶えることなく続き、万民がみな受け継いで従うだろう。

解説

衛の武公が、周の厲王を諷刺しつつ自らをも戒めた長篇の教訓詩の前半である。威儀は徳の外に現れた姿であること、人を得ることこそ最も強いこと、酒と楽しみに溺れて先王の法を忘れた今の政治の乱れ、朝早く起きて家を掃き清め武備を整えるべきことが語られ、やがて言葉を慎めという戒めに至る。毛詩序は武公が厲王を刺り、亦以て自ら警めた詩とする。『国語』楚語上には、武公が九十五歳になってもなお臣下に戒めの言葉を求め、「懿(い)」という詩を作って自らを戒めたとあり、これがこの詩だとされる。「白圭の玷けたるは、尚お磨くべきなり、斯の言の玷けたるは、為むべからざるなり」は特に名高く、『論語』先進篇では、南容がこの句を日に三度くり返したので、孔子は兄の娘を嫁がせたと伝える。一度口にした言葉は、玉の傷のようには磨き消せない。言葉の重さを知る者にこそ、人は信を置くのである。

この章句が説くこと

詩経言葉威儀衛の武公白圭

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