詩経 / 国風・召南・野有死麕
《野有死麕》,惡無禮也。天下大亂,強暴相陵,遂成淫風。被文王之化,雖當亂世,猶惡無禮也。 野有死麕,白茅包之。有女懷春,吉士誘之。 林有樸樕,野有死鹿。白茅純束,有女如玉。 舒而脫脫兮!無感我帨兮,無使尨也吠!
新字:《野有死麕》,悪無礼也。天下大乱,強暴相陵,遂成淫風。被文王之化,雖当乱世,猶悪無礼也。 野有死麕,白茅包之。有女懐春,吉士誘之。 林有樸樕,野有死鹿。白茅純束,有女如玉。 舒而脱脱兮!無感我帨兮,無使尨也吠!
書き下し
野有死麕(やゆうしきん)は、無礼を悪(にく)むなり。天下大いに乱れ、強暴相陵(しの)ぎ、遂に淫風を成す。文王の化を被りて、乱世に当たると雖も、猶お無礼を悪むなり。 野に死せる麕(くじか)有り、白茅(はくぼう)これを包む。女有り春を懐(おも)う、吉士(きっし)これを誘う。 林に樸樕(ぼくそく)有り、野に死せる鹿有り。白茅純束(とんそく)す、女有り玉の如し。 舒(じょ)にして脱脱(たいたい)たれ。我が帨(ぜい)を感(うご)かすこと無かれ、尨(むくいぬ)をして吠えしむること無かれ。
現代語訳
「野有死麕」の詩は、礼に外れたふるまいを憎むことを歌ったものである。天下が大いに乱れ、強く乱暴な者が互いにしのぎを削り、とうとうみだらな風俗ができあがった。しかし文王の感化を受けた人々は、乱れた世にあっても、なお礼に外れたふるまいを憎んだのである。 野に仕留めたのろじかがある。白いちがやでこれを包む。春の思いを胸に抱く娘がいる。りりしい若者がこれを誘う。 林には小さな木々があり、野には仕留めた鹿がある。白いちがやで束ねて包む。娘は玉のように美しい。 そっと、静かにしてね。わたしの前掛けに触れないで。むく犬を吠えさせないで。
解説
若い狩人が仕留めたのろじかを白いちがやで包み、春の思いを抱く娘に贈って誘う。第三章では娘の側の声となり、そっと来て、前掛けに触れないで、犬を吠えさせないで、とささやく。毛詩序は、乱れた世にあっても文王の感化を受けた娘が、礼を欠いた男の誘いを拒んだ詩と読んだ。朱熹『詩集伝』も、貞節な娘が男を拒む詩と見ている。だが詩の言葉を素直に追えば、贈り物を持って言い寄る若者と、人目を気にしつつも受け入れようとする娘の、ひそやかな逢い引きの歌と読むのが自然だとする見方が、近代以降の研究では広く受け入れられている。獲物を白茅で包んで贈るのは、古代の求婚の贈り物の習いとも考えられている。道徳の歌として読むか、恋の歌として読むか。同じ言葉がどちらにも読めるところに、詩経の解釈の歴史の面白さがある。
この章句が説くこと
詩経恋求婚鹿召南
関連する章句
-
呂氏春秋・先己④詩に曰く、「轡を執ること組の如し。」孔子曰く、「此の言を審らかにすれば、以て天下を為む可し。」子貢曰く、「何ぞ其れ躁なるや。」孔子曰く、「其の躁なるを謂うに非ざるなり。其の之を此に為めて、文を彼に成すを謂えるなり。」聖人は其の身を組修して、文を天下に成す。故に子華子曰く、「丘陵成りて、穴する者安んじ、深淵成りて魚鱉安んじ、松柏成りて塗の人已に蔭せらる。」
-
孔子家語・論禮子夏、孔子に侍坐して曰わく、「敢えて問う、詩に云う、『愷悌の君子は、民の父母』と。何如なれば斯れ民の父母と謂うべきか。」孔子曰わく、「夫れ民の父母は、必ず礼楽の源に達し、以て五至を致し三無を行い、以て天下に横たわる。四方に敗有れば、必ず先んじてこれを知る。此れを民の父母と謂う。」
-
論語・八佾篇『関雎』は楽しくして淫せず、哀しくして傷(やぶ)らず。
-
荀子・宥坐篇詩に曰く、「彼の日月を瞻(み)れば、悠悠たり我が思い。道の云(ここ)に遠き、曷(いつ)か云に能く来たらん」と。子曰く、「伊(そ)れ稽首(けいしゅ)せば、其れ来たること有らざらんや」と。
-
荀子・大略篇国風の色を好むや、伝に曰く、「其の欲を盈(み)たして其の止(とど)まるを愆(あやま)らず。其の誠は金石に比すべく、其の声は宗廟に内(い)るべし」と。小雅は汙上(をじょう)に用ゐられず、自ら引きて下に居り、今の政を疾(にく)みて以て往者を思ふ。其の言に文(あや)有り、其の声に哀しみ有り。
-
『呻吟語』外篇・治道・民の父母『詩』に云ふ、「樂しき君子は、民の父母」と。又た曰く、「豈弟の君子は、民の父母」と。君子は『詩』に觀て、政を為すの道を知るなり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る