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史記 / 亀策列伝

民不安其處,鬼神不享。飄風日起,正晝晦冥。日月并蝕,滅息無光。列星奔亂,皆絕紀綱。以是觀之,安得久長!雖無湯武,時固當亡。故湯伐桀,武王剋紂,其時使然。乃為天子,子孫續世;終身無咎,後世稱之,至今不已。是皆當時而行,見事而彊,乃能成其帝王。今龜,大寶也,為聖人使,傳之賢王。不用手足,雷電將之;風雨送之,流水行之。侯王有德,乃得當之。今王有德而當此寶,恐不敢受;王若遣之,宋必有咎。後雖悔之,亦無及已。」元王大悅而喜。於是元王向日而謝,再拜而受。擇日齋戒,甲乙最良。乃刑白雉,及與驪羊;以血灌龜,於壇中央。以刀剝之,身全不傷。脯酒禮之,橫其腹腸。荊支卜之,必制其創。理達於理,文相錯迎。使工占之,所言盡當。邦福重寶,聞于傍鄉。殺牛取帮,被鄭之桐。草木畢分,化為甲兵。戰勝攻取,莫如元王。元王之時,衛平相宋,宋國最彊,龜之力也。

新字:民不安其処,鬼神不享。飄風日起,正昼晦冥。日月并蝕,滅息無光。列星奔乱,皆絶紀綱。以是観之,安得久長!雖無湯武,時固当亡。故湯伐桀,武王剋紂,其時使然。乃為天子,子孫続世;終身無咎,後世称之,至今不已。是皆当時而行,見事而彊,乃能成其帝王。今亀,大宝也,為聖人使,伝之賢王。不用手足,雷電将之;風雨送之,流水行之。侯王有徳,乃得当之。今王有徳而当此宝,恐不敢受;王若遣之,宋必有咎。後雖悔之,亦無及已。」元王大悦而喜。於是元王向日而謝,再拝而受。択日斎戒,甲乙最良。乃刑白雉,及与驪羊;以血灌亀,於壇中央。以刀剥之,身全不傷。脯酒礼之,横其腹腸。荊支卜之,必制其創。理達於理,文相錯迎。使工占之,所言尽当。邦福重宝,聞于傍郷。殺牛取帮,被鄭之桐。草木畢分,化為甲兵。戦勝攻取,莫如元王。元王之時,衛平相宋,宋国最彊,亀之力也。

書き下し

民は其の処に安んぜず、鬼神は享けず。飄風日々に起こり、正昼晦冥たり。日月並び蝕し、滅息して光無し。列星奔乱し、皆紀綱を絶つ。是を以て之を観れば、安くんぞ久長なるを得ん。湯武無しと雖も、時固より当に亡ぶべし。故に湯の桀を伐ち、武王の紂に剋つは、其の時然らしむるなり。乃ち天子と為り、子孫世を続ぐ。終身咎無く、後世之を称して、今に至るまで已まず。是れ皆時に当たりて行ひ、事を見て彊め、乃ち能く其の帝王を成す。今、亀は大宝なり。聖人の使ひと為り、之を賢王に伝ふ。手足を用ひず、雷電之を将ゐ、風雨之を送り、流水之を行らしむ。侯王徳有りて、乃ち之に当たるを得。今、王徳有りて此の宝に当たる。恐らくは敢へて受けざらん。王若し之を遣らば、宋必ず咎有らん。後に之を悔ゆと雖も、亦及ぶ無きのみ」と。元王大いに悦びて喜ぶ。是に於いて元王日に向かひて謝し、再拝して受く。日を択びて斎戒す。甲乙最も良し。乃ち白雉及び驪羊を刑し、血を以て亀に灌ぐ、壇の中央に於いて。刀を以て之を剥ぐに、身全くして傷つかず。脯酒もて之を礼し、其の腹腸を横たふ。荊支もて之を卜し、必ず其の創を制す。理は理に達し、文相錯迎す。工をして之を占はしむるに、言ふ所尽く当たる。邦の福の重宝、傍郷に聞こゆ。牛を殺して帮(かは)を取り、鄭の桐に被る。草木畢く分かれ、化して甲兵と為る。戦ひて勝ち攻めて取ること、元王に如くは莫し。元王の時、衛平宋に相たり、宋国最も彊し。亀の力なり。

現代語訳

民は住む所に落ち着けず、鬼神は供え物を受けなかった。つむじ風が毎日起こり、真昼でも暗くなった。日と月がそろって欠け、消えて光がなくなった。星々は乱れ走り、みな天の秩序を失った。これから見れば、どうして長く続けられようか。湯王や武王がいなくても、時勢からしてもとより滅びるはずであった。だから湯王が桀を討ち、武王が紂に勝ったのは、時がそうさせたのである。そうして天子となり、子孫が代々継いだ。生涯とがめを受けず、後世の人々がたたえて、今に至るまでやまない。これはみな時に応じて行い、事を見て努め励んだからこそ、帝王となることができたのである。いま亀は大いなる宝である。聖人の使いとなって、賢い王に伝えられる。手足を使わずに、雷と稲妻が導き、風と雨が送り、流れる水が運ぶ。諸侯や王に徳があってこそ、これを受けるにふさわしい。いま王には徳があって、この宝を受けるにふさわしい。それなのに恐れて受けようとなさらない。王がもしこれを放せば、宋には必ずとがめがある。後で悔やんでも、もう間に合わない」。元王は大いに喜んだ。そこで元王は太陽に向かって感謝し、二度拝礼して亀を受けた。吉日を選んで身を清めたが、甲と乙の日が最もよかった。そして白いきじと黒い羊を殺し、祭壇の中央でその血を亀に注いだ。刀で甲羅をはぐと、体はまったく傷つかなかった。干し肉と酒で礼を尽くし、その腹やはらわたを横たえた。いばらの枝を燃やして甲羅を焼いて占い、必ずその焼き穴を整えた。ひびの筋は筋に通じ、模様は互いに交わり迎え合った。占いの専門家に占わせると、言うことはすべて当たった。国の福をもたらす重宝として、近隣の国々にまで聞こえた。牛を殺して革を取り、鄭の桐の木に張って(太鼓を作り)、草木をことごとく割いて武器に変えた。戦えば勝ち、攻めれば取ることにおいて、元王に及ぶ者はいなかった。元王の時代、衛平が宋の宰相となり、宋の国は最も強くなった。これは亀の力であった。

解説

元王と神亀の物語の結末です。衛平は、桀紂の滅亡は天の秩序が乱れた時勢の必然であり、湯武は時に応じて行い、事を見て努めたからこそ帝王となれたと説きます。そして、雷電や風雨に運ばれて徳ある王のもとへ来た亀を受けないのは、かえって天意に背くことだと締めくくりました。元王はついに納得し、吉日を選んで身を清め、亀を殺して甲羅で占うと、すべてが的中しました。宋は元王と宰相衛平のもとで最も強い国になったと語られます。ただし、褚少孫はこの前段で、亀を殺した民の家は不運に見舞われたとも記しており、この結末を手放しでたたえているわけではありません。好機を受け取る決断にも、その重みを引き受ける覚悟が要ります。受けると決めたら、礼を尽くし、段取りを整えて最大限に生かすことが、決断した者の責任なのです。

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