師導古典を学びたいすべての人に

史記 / 魏其武安侯列伝

詔書獨藏魏其家,家丞封。乃劾魏其矯先帝詔,罪當棄市。五年十月,悉論灌夫及家屬。魏其良久乃聞,聞即恚,病痱,不食欲死。或聞上無意殺魏其,魏其複食,治病,議定不死矣。乃有蜚語為惡言聞上,故以十二月晦論棄市渭城。其春,武安侯病,專呼服謝罪。使巫視鬼者視之,見魏其、灌夫共守,欲殺之。竟死。子恬嗣。元朔三年,武安侯坐衣襜褕入宮,不敬。淮南王安謀反覺,治。王前朝,武安侯為太尉,時迎王至霸上,謂王曰:「上未有太子,大王最賢,高祖孫,即宮車晏駕,非大王立當誰哉!」淮南王大喜,厚遺金財物。上自魏其時不直武安,特為太后故耳。及聞淮南王金事,上曰:「使武安侯在者,族矣。」

新字:詔書独蔵魏其家,家丞封。乃劾魏其矯先帝詔,罪当棄市。五年十月,悉論灌夫及家属。魏其良久乃聞,聞即恚,病痱,不食欲死。或聞上無意殺魏其,魏其複食,治病,議定不死矣。乃有蜚語為悪言聞上,故以十二月晦論棄市渭城。其春,武安侯病,専呼服謝罪。使巫視鬼者視之,見魏其、灌夫共守,欲殺之。竟死。子恬嗣。元朔三年,武安侯坐衣襜褕入宮,不敬。淮南王安謀反覚,治。王前朝,武安侯為太尉,時迎王至覇上,謂王曰:「上未有太子,大王最賢,高祖孫,即宮車晏駕,非大王立当誰哉!」淮南王大喜,厚遺金財物。上自魏其時不直武安,特為太后故耳。及聞淮南王金事,上曰:「使武安侯在者,族矣。」

書き下し

詔書独り魏其の家に蔵し、家丞封ず。乃ち魏其を先帝の詔を矯むと劾し、罪棄市に当たる。五年十月、悉く灌夫及び家属を論ず。魏其良久しくして乃ち聞く。聞きて即ち恚り、痱を病み、食はずして死せんと欲す。或ひと上に魏其を殺すに意無しと聞く。魏其復た食ひ、病を治む。議定まりて死せざらんとす。乃ち蜚語の悪言を為して上に聞する有り。故に十二月の晦を以て論じて渭城に棄市す。其の春、武安侯病み、専ら服謝罪を呼ぶ。巫の鬼を視る者をして之を視しむるに、魏其・灌夫共に守りて、之を殺さんと欲するを見る。竟に死す。子恬嗣ぐ。元朔三年、武安侯襜褕を衣て宮に入るに坐し、不敬なり。淮南王安の謀反覚れ、治む。王前に朝す。武安侯太尉為り。時に王を覇上に迎へ、王に謂ひて曰く、「上未だ太子有らず。大王最も賢にして、高祖の孫なり。即し宮車晏駕せば、大王に非ずして立つるは当に誰なるべき」と。淮南王大いに喜び、厚く金財物を遺る。上魏其の時より武安を直とせず。特だ太后の為の故なるのみ。淮南王の金の事を聞くに及び、上曰く、「武安侯をして在らしめば、族せん」と。

現代語訳

詔書はただ魏其侯の家にだけしまってあり、家丞が封をしていた。そこで魏其侯は先帝の詔を偽造したとして弾劾され、罪は市場での斬首に当たるとされた。元光五年十月、灌夫とその一族はことごとく処刑された。魏其侯はだいぶたってからそのことを聞いた。聞くとすぐに憤り、中風を患い、食事をとらずに死のうとした。ある人から、天子には魏其侯を殺す気はないと聞いて、魏其侯はまた食事をとり、病の治療をした。朝廷の議論も死罪にしない方向で決まりかけていた。ところが根も葉もない悪口を天子の耳に入れた者があった。そのため十二月の末日に判決が下され、渭城で斬首された。その年の春、武安侯は病気になり、ひたすら「わびます、罪をわびます」と叫び続けた。霊を見る巫女に見させたところ、魏其侯と灌夫が二人でそばに付き添い、武安侯を殺そうとしているのが見えるということであった。武安侯はついに死んだ。子の田恬が跡を継いだ。元朔三年、田恬は短い略服を着て宮中に入ったことで、不敬の罪に問われた(侯位を失った)。淮南王劉安の謀反が発覚し、取り調べが行われた。かつて淮南王が参朝した時、武安侯は太尉であったが、淮南王を覇上まで出迎えて言った。「主上にはまだ太子がいない。大王は最も賢く、高祖の孫である。もし天子が崩御されたら、大王でなくて誰が立つべきであろうか」。淮南王は大いに喜び、武安侯に手厚く金銭や財物を贈った。天子は魏其侯の件の時から武安侯を正しいとは思っていなかったが、ただ太后のために処罰しなかっただけであった。淮南王の金の件を聞くと、天子は「もし武安侯が生きていたら、一族皆殺しにしていたところだ」と言った。

解説

竇嬰・灌夫・田蚡の三人がそろって破滅する結末です。竇嬰が頼みにした景帝の遺詔は宮中に控えがなかったため、逆に詔の偽造と弾劾されました。灌夫とその一族が処刑されたと聞いた竇嬰は、憤りのあまり病に倒れ、食を断ちます。武帝に殺す気がないと聞いて一度は持ち直しましたが、誰かが流した悪い噂によって、年の暮れに渭城で斬首されました。翌春、田蚡も病に倒れ、ひたすら謝罪の言葉を叫び続け、巫女には竇嬰と灌夫の霊が取り囲んでいるのが見えたといいます。さらに後年、淮南王の謀反が発覚すると、田蚡がかつて淮南王に「帝に太子がなければ次はあなただ」と言って金品を受け取っていたことが明らかになり、武帝は「生きていれば一族皆殺しだった」と言い放ちました。私怨と権力争いが、勝った側も含めて全員を滅ぼしたのです。恨みを晴らすための勝利は、結局誰も幸せにしないことを、この物語は冷徹に示しています。

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る