韓非子 / 備內第十七
情非憎君也,利在君之死也。故人主不可以不加心於利己死者。
書き下し
故に人主は以て心を己の死するを利とする者に加えざる可からず。
現代語訳
それゆえ、君主は、自分が死ぬこと(あるいは失脚すること)を利益とする者に対して、注意を払わなければならない。
解説
自分がいなくなること、あるいは地位を退くことで得をする人が周りにいないか、常に気を配りなさいという戒めです。原文は君主に向けた言葉ですが、家庭を切り盛りする親や、町内会・子ども会などをまとめる世話役にも当てはまります。後を継ぎたい人、今の決まりを変えたい人は、まとめ役が代わることで自分の望みが叶いやすくなるため、悪気なく「早く代わってほしい」と願ってしまうことがあります。だからといって周囲を疑ってばかりでは疲れてしまいますが、誰がどんな取り分を望んでいるかを頭の片隅に置いておくだけで、急な追い落としや根回しに慌てず対応でき、大事な決め事も落ち着いて進められます。
この章句が説くこと
No.2問題権力闘争警戒心利益相反牽制
関連する章句
-
戦国策・或謂建信君之所以事王者或るひと建信に謂いて曰く、「君の王に事うる所以の者は、色なり。葺の王に事うる所以の者は、知なり。色は老いて衰え、知は老いて多し。日に多きの知を以て、衰悪の色を逐わば、君必ず困しまん」と。建信君曰く、「奈何」と。曰く、「驥に並びて走る者は、五里にして罷る。驥に乗じて之を御すれば、倦まずして道を取ること多し。君葺をして独断の車に乗り、独断の勢いを御して、以て邯鄲に居らしめよ。之をして内は国事を治め、外は諸侯を刺さしめば、則ち葺の事言わざる者有らん。君因りて王に言いて之を重責せよ、葺の軸今折れん」と。建信君再拝して命を受け、入りて王に言い、厚く葺に任ずるに事の能を以てし、之を重責す。未だ期年ならずして葺亡走せり。
-
『韓非子』難一第三十六主に術有らば、両用うるも患いと為らず。術無くんば、両用うれば則ち事を争いて外に市し、一なれば則ち専制す。
-
説苑・說叢福は禍の門なり。是は非の尊なり。治は亂の先なり。事終始無くして患い及ばざる者は、未だ之を聞かざるなり。
-
戦国策・犀首見梁君犀首、梁君に見(まみ)えて曰く、「臣力を尽くし知を竭(つく)し、以て王の為に土を広め尊名を取らんと欲するに、田需中より君を敗(やぶ)り、王又之を聴く、是れ臣終に成功無きなり。需亡(さ)らば、臣将に侍(つか)えんとす。需侍(はべ)らば、臣請う亡らん」と。王曰く、「需は寡人の股掌の臣なり。子の不便の為に、之を殺し之を亡すも、天下に何と謂わんや、群臣を内(い)るるに何如(いかん)せんや。今吾子の為に之を外にし、敢えて子の事に入らしめざらしめん。子の事に入る者は、吾子の為に之を殺し之を亡さん、胡如(いかん)」と。犀首許諾す。是(ここ)に於いて東のかた田嬰に見え、之と約結す。文子を召して之を魏に相とし、身は韓に相たり。
-
戦国策・楚王將出張子楚王将に張子を出ださんとす、其の己を敗らんことを恐る。靳尚、楚王に謂いて曰わく、「臣請う之に随わん。儀王に事えて善からずんば、臣請う之を殺さん。」楚の小臣は、靳尚の仇なり、張旄に謂いて曰わく、「張儀の知を以て、秦・楚の用有らば、君必ず窮せん。君は人をして微かに靳尚を要して之を刺さしむるに如かず、楚王必ず大いに儀を怒らん。彼儀窮すれば、則ち子重んぜられん。楚・秦相い難ずれば、則ち魏患い無からん。」張旄果たして人をして靳尚を要して之を刺さしむ。楚王大いに怒り、秦兵を構えて戦う。秦・楚魏に事えんと争い、張旄果たして大いに重んぜらる。
-
戦国策・秦二・秦惠王死公孫衍欲窮張儀秦の惠王死し、公孫衍張儀を窮せしめんと欲す。李讎公孫衍に謂いて曰わく、「甘茂を魏に召し、公孫顯を韓に召し、樗里子を國に起こすに如かず。三人なる者は、皆張儀の讎なり。公之を用いなば、則ち諸侯必ず張儀の秦に無きを見ん。」