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史記 / 酈生陸賈列伝

於是酈生乃夜見陳留令,說之曰:「夫秦為無道而天下畔之,今足下與天下從則可以成大功。今獨為亡秦嬰城而堅守,臣竊為足下危之。」陳留令曰:「秦法至重也,不可以妄言,妄言者無類,吾不可以應。先生所以教臣者,非臣之意也,願勿復道。」酈生留宿臥,夜半時斬陳留令首,踰城而下報沛公。沛公引兵攻城,縣令首於長竿以示城上人,曰:「趣下,而令頭已斷矣!今後下者必先斬之!」於是陳留人見令已死,遂相率而下沛公。沛公舍陳留南城門上,因其庫兵,食積粟,留出入三月,從兵以萬數,遂入破秦。

新字:於是酈生乃夜見陳留令,説之曰:「夫秦為無道而天下畔之,今足下与天下従則可以成大功。今独為亡秦嬰城而堅守,臣窃為足下危之。」陳留令曰:「秦法至重也,不可以妄言,妄言者無類,吾不可以応。先生所以教臣者,非臣之意也,願勿復道。」酈生留宿臥,夜半時斬陳留令首,踰城而下報沛公。沛公引兵攻城,県令首於長竿以示城上人,曰:「趣下,而令頭已断矣!今後下者必先斬之!」於是陳留人見令已死,遂相率而下沛公。沛公舎陳留南城門上,因其庫兵,食積粟,留出入三月,従兵以万数,遂入破秦。

書き下し

是に於て酈生乃ち夜陳留の令に見え、之に説きて曰く、「夫れ秦は無道を為して天下之に畔く。今足下天下と従はば則ち以て大功を成すべし。今独り亡秦の為に城を嬰(めぐ)らして堅守す、臣窃かに足下の為に之を危ぶむ」と。陳留の令曰く、「秦の法は至って重きなり、以て妄言すべからず、妄言する者は類無し。吾以て応ずべからず。先生の臣に教ふる所以の者は、臣の意に非ざるなり。願はくは復た道ふ勿かれ」と。酈生留まりて宿臥し、夜半の時陳留の令の首を斬り、城を踰えて下りて沛公に報ず。沛公兵を引きて城を攻め、令の首を長竿に県けて以て城上の人に示して曰く、「趣(すみ)やかに下れ。而(なんぢ)の令の頭已に断たれたり。今より後に下る者は必ず先づ之を斬らん」と。是に於て陳留の人令の已に死するを見て、遂に相率ゐて沛公に下る。沛公陳留の南城門の上に舎り、其の庫兵に因り、積粟を食み、留まりて出入すること三月、従兵万を以て数へ、遂に入りて秦を破る。

現代語訳

そこで酈生は夜に陳留の県令に会い、説いて言った。「そもそも秦は無道を行い、天下はこれに背いている。いまあなたが天下と足並みをそろえれば、大功を成し遂げられる。それなのに、ただ一人滅びゆく秦のために城を固く守っている。私はひそかにあなたのために危ぶんでいる。」陳留の県令は言った。「秦の法はきわめて厳しく、うかつなことを言ってはならない。うかつなことを言えば一族皆殺しになる。私は応じられない。先生が私に教えてくださることは、私の本意ではない。どうか二度と言わないでいただきたい。」酈生はそのまま泊まって寝たが、夜半に陳留の県令の首を斬り、城壁を越えて下り、沛公に報告した。沛公は兵を率いて城を攻め、県令の首を長い竿に掛けて城壁の上の人々に示し、言った。「すぐに降れ。おまえたちの県令の首はもう斬られた。今後遅れて降る者は、必ず真っ先に斬る。」陳留の人々は県令がすでに死んだのを見て、連れ立って沛公に降った。沛公は陳留の南の城門の上に宿営し、その武器庫の兵器を用い、蓄えの穀物を食糧として、三か月の間そこに留まって出入りし、従う兵は万を数えるに至り、ついに関中に入って秦を破った。

解説

別伝の結末で、酈生が陳留を落とした手口が生々しく描かれます。酈生は夜に旧知の県令を訪ね、滅びゆく秦のために城を守るのは危ういと説きますが、県令は秦の法の厳しさを恐れて応じません。酈生はそのまま泊まり込み、夜半に県令の首を斬って城壁を越え、劉邦に届けます。劉邦は首を竿に掛けて城兵に降伏を迫り、陳留は戦わずに落ちました。本伝では「県令を説いて降らせた」とだけあった話の裏側は、説得が通じなければ殺すという苛烈なものでした。劉邦は陳留の武器と穀物を得て三か月で兵を万単位に増やし、関中へ進んで秦を破ります。前の段で酈生が語った構想が、そのまま実行されたわけです。説得が失敗したときの次の手まで用意していたことが、酈生を単なる弁舌の士と分けています。交渉に臨むときは、決裂した場合の選択肢まで考えておきたいものです。

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