史記 / 商君列伝
《詩》曰:『相鼠有體,人而無禮,人而無禮,何不遄死。』以詩觀之,非所以為壽也。公子虔杜門不出已八年矣,君又殺祝懽而黥公孫賈。《詩》曰:『得人者興,失人者崩。』此數事者,非所以得人也。君之出也,後車十數,從車載甲,多力而駢脅者為驂乘,持矛而操闟戟者旁車而趨。此一物不具,君固不出。《書》曰:『恃德者昌,恃力者亡。』君之危若朝露,尚將欲延年益壽乎?則何不歸十五都,灌園於鄙,勸秦王顯巖穴之士,養老存孤,敬父兄,序有功,尊有德,可以少安。君尚將貪商於之富,寵秦國之教,畜百姓之怨,秦王一旦捐賓客而不立朝,秦國之所以收君者,豈其微哉?亡可翹足而待。」商君弗從。
新字:《詩》曰:『相鼠有体,人而無礼,人而無礼,何不遄死。』以詩観之,非所以為寿也。公子虔杜門不出已八年矣,君又殺祝懽而黥公孫賈。《詩》曰:『得人者興,失人者崩。』此数事者,非所以得人也。君之出也,後車十数,従車載甲,多力而駢脅者為驂乗,持矛而操闟戟者旁車而趨。此一物不具,君固不出。《書》曰:『恃徳者昌,恃力者亡。』君之危若朝露,尚将欲延年益寿乎?則何不帰十五都,灌園於鄙,勧秦王顕巖穴之士,養老存孤,敬父兄,序有功,尊有徳,可以少安。君尚将貪商於之富,寵秦国之教,畜百姓之怨,秦王一旦捐賓客而不立朝,秦国之所以収君者,豈其微哉?亡可翹足而待。」商君弗従。
書き下し
詩に曰く、『鼠を相るに体有り、人にして礼無し、人にして礼無くんば、何ぞ遄やかに死せざる』と。詩を以て之を観れば、寿を為す所以に非ざるなり。公子虔門を杜ぢて出でざること已に八年なり、君又祝懽を殺して公孫賈を黥す。詩に曰く、『人を得る者は興り、人を失ふ者は崩る』と。此の数事は、人を得る所以に非ざるなり。君の出づるや、後車十数、従車甲を載せ、多力にして駢脅なる者を驂乗と為し、矛を持ちて闟戟を操る者車に旁ひて趨る。此の一物具はらずんば、君固より出でず。書に曰く、『徳を恃む者は昌え、力を恃む者は亡ぶ』と。君の危ふきこと朝露の若し、尚ほ将に年を延べ寿を益さんと欲するか。則ち何ぞ十五都を帰し、園に鄙に灌ぎ、秦王に勧めて巌穴の士を顕し、老を養ひ孤を存し、父兄を敬ひ、功有るを序し、徳有るを尊ばしめざる、以て少しく安んずべし。君尚ほ将に商於の富を貪り、秦国の教へを寵とし、百姓の怨みを畜へんとす、秦王一旦賓客を捐てて朝に立たずんば、秦国の君を収むる所以の者、豈に其れ微ならんや。亡ぶること足を翹げて待つべし」と。商君従はず。
現代語訳
(趙良は続けた。)「『詩経』に『鼠を見ればちゃんと体がある。人でありながら礼がない。人でありながら礼がないなら、どうして早く死なないのか』とある。この詩から見れば、あなたのやり方は長生きの道ではない。公子虔(こうしけん)は門を閉ざして外に出なくなってもう八年になる。あなたはさらに祝懽(しゅくかん)を殺し、公孫賈(こうそんか)に入れ墨の刑を加えた。『詩経』に『人の心を得る者は興り、人の心を失う者は崩れる』とある。これらのことは、人の心を得るやり方ではない。あなたが外出するときは、後ろに十数台の車を従え、随行の車には武装兵を乗せ、力が強く胸板の厚い者を添え乗りとし、矛や戟を持った者が車の脇を走る。このうち一つでも欠ければ、あなたは決して外出しない。『書経』に『徳を頼む者は栄え、力を頼む者は滅ぶ』とある。あなたの危うさは朝露のようなものだ。それでもなお、寿命を延ばしたいと思うか。それなら、なぜ封地の十五の邑を返上し、田舎で畑に水をやる暮らしに退き、秦王に勧めて岩穴に隠れている賢者を取り立てさせ、老人を養い孤児を救い、父兄を敬い、功ある者を順序立てて遇し、徳ある者を尊ばせないのか。そうすれば少しは安らかでいられるだろう。あなたがなおも商・於の富を貪り、秦の政治を独り占めし、民の恨みを蓄え続けるなら、秦王がひとたび世を去って朝廷に立たなくなったとき、秦の国があなたを捕らえようとする理由は、決して小さくはないだろう。あなたの滅亡は、爪先立ちして待つほどの間に来るだろう。」商君は従わなかった。
解説
関連する章句
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史記 商君列伝商君秦に相たること十年、宗室貴戚怨望する者多し。趙良商君に見ゆ。商君曰く、「鞅の見ゆるを得たるは、孟蘭皋に従へり、今鞅交はりを得んことを請ふ、可なるか」と。趙良曰く、「僕敢へて願はざるなり。孔丘言有りて曰く、『賢を推して戴く者は進み、不肖を聚めて王たる者は退く』と。僕は不肖なり、故に敢へて命を受けず。僕之を聞きて曰く、『其の位に非ずして之に居るを位を貪ると曰ひ、其の名に非ずして之を有するを名を貪ると曰ふ』と。僕君の義を聴かば、則ち僕の位を貪り名を貪らんことを恐る。故に敢へて命を聞かず」と。商君曰く、「子吾が秦を治むるを説ばざるか」と。趙良曰く、「反聴之を聡と謂ひ、内視之を明と謂ひ、自ら勝つ之を彊と謂ふ。虞舜言有りて曰く、『自ら卑くするや尚し』と。君虞舜の道を道とするに若かず、僕に問ふを為す無かれ」と。商君曰く、「始め秦は戎狄の教へにして、父子別無く、室を同じくして居る。今我更めて其の教へを制して、其の男女の別を為し、大いに冀闕を築き、営むこと魯衛の如し。
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史記 商君列伝後五月にして秦の孝公卒し、太子立つ。公子虔の徒、商君反せんと欲すと告げ、吏を発して商君を捕らへしむ。商君亡げて関下に至り、客舎に舍らんと欲す。客人其の是れ商君なるを知らず、曰く、「商君の法、人を舍むるに験無き者は之に坐す」と。商君喟然として嘆じて曰く、「嗟乎、法を為るの敝、一に此に至るか」と。去りて魏に之く。魏人、其の公子卬を欺きて魏師を破りしを怨み、受けず。商君他国に之かんと欲す。魏人曰く、「商君は秦の賊なり。秦彊くして賊魏に入る、帰さずんば不可なり」と。遂に秦に内る。商君既に復た秦に入り、商邑に走り、其の徒属と邑兵を発して北のかた鄭を撃つ。秦兵を発して商君を攻め、之を鄭の黽池に殺す。秦の恵王、商君を車裂して以て徇へて曰く、「商鞅の如く反する者莫かれ」と。遂に商君の家を滅ぼす。
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史記 商君列伝子我の秦を治むるを観るに、五羖大夫と孰れか賢なる」と。趙良曰く、「千羊の皮は、一狐の腋に如かず。千人の諾諾は、一士の諤諤に如かず。武王は諤諤として以て昌え、殷紂は墨墨として以て亡ぶ。君若し武王を非とせずんば、則ち僕請ふ終日正言して誅無からん、可なるか」と。商君曰く、「語に之有り、貌言は華なり、至言は実なり、苦言は薬なり、甘言は疾なり。夫子果たして肯へて終日正言せば、鞅の薬なり。鞅将に子に事へんとす、子又何ぞ辞せん」と。趙良曰く、「夫れ五羖大夫は、荊の鄙人なり。秦の繆公の賢を聞きて見ゆるを願望し、行かんとして資無く、自ら秦の客に粥ぎ、褐を被て牛を食ふ。期年にして、繆公之を知り、之を牛口の下より挙げて、之を百姓の上に加ふ、秦国敢へて望む莫し。秦に相たること六七年にして、東のかた鄭を伐ち、三たび晋国の君を置き、一たび荊国の禍を救ふ。教へを封内に発して、巴人貢を致し、徳を諸侯に施して、八戎来たり服す。由余之を聞き、関を款きて見えんことを請ふ。五羖大夫の秦に相たるや、労すれども坐乗せず、暑けれども蓋を張らず、国中に行くに、車乗を従へず、干戈を操らず、功名は府庫に蔵し、徳行は後世に施す。五羖大夫死し、秦国の男女流涕し、童子歌謡せず、舂く者杵を相せず。此れ五羖大夫の徳なり。今君の秦王に見ゆるや、嬖人景監に因りて以て主と為す、名を為す所以に非ざるなり。秦に相として百姓を以て事と為さずして、大いに冀闕を築く、功を為す所以に非ざるなり。太子の師傅を刑黥し、民を残傷するに峻刑を以てす、是れ怨みを積み禍を畜ふるなり。教への民を化するや命より深く、民の上に効ふや令より捷し。今君又左建外易す、教へを為す所以に非ざるなり。君又南面して寡人と称し、日に秦の貴公子を縄す。
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史記 商君列伝太史公曰く、「商君は、其の天資刻薄の人なり。其の孝公に干むるに帝王の術を以てせんと欲し、浮説を挟持せるを跡づくるに、其の質に非ざるなり。且つ因由する所は嬖臣に由り、用ゐらるるに及びて、公子虔を刑し、魏将卬を欺き、趙良の言を師とせざるは、亦た以て商君の恩少なきを発明するに足る。余嘗て商君の開塞耕戦の書を読むに、其の人の行事と相ひ類す。卒に悪名を秦に受けしは、以有るかな」と。
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戦国策・秦一・衞鞅亡魏入秦衞鞅、魏を亡げて秦に入る。孝公以て相と為し、之を商に封じ、號して商君と曰う。商君秦を治むるや、法令至って行われ、公平にして私無く、罰は強大を諱まず、賞は親近を私せず、法太子に及び、其の傅を黥劓す。期年の後、道に遺を拾わず、民妄りに取らず、兵革大いに強く、諸侯畏懼す。然れども刻深にして恩寡なく、特だ強を以て之を服せしむるのみ。孝公之を行うこと八年、疾みて且に起きざらんとし、商君に傳えんと欲するも、辭して受けず。孝公已に死し、惠王代りて後たり。政に蒞むこと頃有りて、商君歸ることを告ぐ。人惠王に説きて曰わく、「大臣太だ重き者は國危うく、左右太だ親しき者は身危うし。今秦の婦人嬰兒皆商君の法を言い、大王の法を言う莫し。是れ商君反りて主と為り、大王更に臣と為るなり。且つ夫れ商君は、固より大王の仇讎なり、願わくは大王之を圖れ。」商君歸還するや、惠王之を車裂きにし、而して秦人憐れまず。
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