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史記 / 商君列伝

商君相秦十年、宗室貴戚多怨望者。趙良見商君。商君曰、子觀我治秦也、孰與五羖大夫賢。趙良曰、千羊之皮不如一狐之掖、千人之諾諾不如一士之諤諤。夫五羖大夫、荊之鄙人也。相秦六七年而東伐鄭、三置晉國之君。其相秦也、勞不坐乘、暑不張蓋、行於國中不從車乘。五羖大夫死、秦國男女流涕。今君之見秦王也、因嬖人景監以為主、非所以為名也。相秦不以百姓為事、而大筑冀闕、非所以為功也。刑黥太子之師傅、殘傷民以駿刑、是積怨畜禍也。君之出也、後車十數、從車載甲、此一物不具、君固不出。書曰、恃德者昌、恃力者亡。君之危若朝露、尚將欲延年益壽乎。何不歸十五都、灌園於鄙、勸秦王顯巖穴之士、養老存孤、敬父兄、序有功、尊有德、可以少安。君尚將貪商於之富、寵秦國之教、畜百姓之怨、秦王一旦捐賓客而不立朝、秦國之所以收君者、豈其微哉。亡可翹足而待。商君弗從。

新字:商君相秦十年、宗室貴戚多怨望者。趙良見商君。商君曰、子観我治秦也、孰与五羖大夫賢。趙良曰、千羊之皮不如一狐之掖、千人之諾諾不如一士之諤諤。夫五羖大夫、荊之鄙人也。相秦六七年而東伐鄭、三置晉国之君。其相秦也、労不坐乗、暑不張蓋、行於国中不従車乗。五羖大夫死、秦国男女流涕。今君之見秦王也、因嬖人景監以為主、非所以為名也。相秦不以百姓為事、而大筑冀闕、非所以為功也。刑黥太子之師傅、残傷民以駿刑、是積怨畜禍也。君之出也、後車十数、従車載甲、此一物不具、君固不出。書曰、恃徳者昌、恃力者亡。君之危若朝露、尚将欲延年益寿乎。何不歸十五都、灌園於鄙、勧秦王顕巖穴之士、養老存孤、敬父兄、序有功、尊有徳、可以少安。君尚将貪商於之富、寵秦国之教、畜百姓之怨、秦王一旦捐賓客而不立朝、秦国之所以収君者、豈其微哉。亡可翹足而待。商君弗従。

書き下し

商君秦に相たること十年、宗室貴戚に怨望する者多し。趙良、商君に見ゆ。商君曰く、「子、我が秦を治むるを観るに、五羖大夫と孰れか賢なる」と。趙良曰く、「千羊の皮は一狐の掖に如かず、千人の諾諾は一士の諤諤に如かず。夫れ五羖大夫は荊の鄙人なり。秦に相たること六七年にして東のかた鄭を伐ち、三たび晋国の君を置く。其の秦に相たるや、労するも乗に坐せず、暑くとも蓋を張らず、国中に行くに車乗を従へず。五羖大夫死し、秦国の男女涕を流す。今君の秦王に見ゆるや、嬖人景監に因りて主と為す、名を為す所以に非ざるなり。秦に相たりて百姓を以て事と為さず、而して大いに冀闕を筑く、功を為す所以に非ざるなり。太子の師傅を刑黥し、民を残傷するに駿刑を以てす、是れ怨みを積み禍を畜ふるなり。君の出づるや、後車十数、従車甲を載す、此の一物具はらざれば、君固より出でず。書に曰く、徳を恃む者は昌え、力を恃む者は亡ぶ、と。君の危きこと朝露の若し、尚ほ将に年を延べ寿を益さんと欲するか。何ぞ十五都を帰し、園を鄙に灌ぎ、秦王に巌穴の士を顕はし、老を養ひ孤を存し、父兄を敬ひ、有功を序し、有徳を尊ぶを勧めざる、以て少しく安んず可し。君尚ほ将に商於の富を貪り、秦国の教を寵とし、百姓の怨みを畜へんとす。秦王一旦賓客を捐てて朝に立たずんば、秦国の君を収むる所以は、豈に其れ微ならんや。亡は足を翹げて待つ可し」と。商君従はず。

現代語訳

絶頂にある権力者に対して、その足元の危うさを命がけで諫めた、痛切な忠告の一段です。宰相として十年、権勢を極めた商鞅に、賢者・趙良が真正面から警告します。趙良はまず、秦の名宰相・五羖大夫(百里奚)と対比します。百里奚は、質素に振る舞い、護衛も連れず民に慕われ、死んだとき国中が涙した。ひきかえ商鞅は、寵臣のコネで成り上がり、厳罰で民を傷つけ、外出には完全武装の護衛なしには動けない——それは民の怨みを積み上げている証拠だ、と。そして核心を突きます。『恃徳者昌、恃力者亡(徳を頼む者は栄え、力を頼む者は滅ぶ)』『君の危きこと朝露の若し(あなたの立場は朝露のようにはかない)』。今の権勢は、後ろ盾である孝公あってのもの。孝公が死ねば、蓄積した怨みが一気に噴き出す。だから今のうちに、領地を返上し、権力を手放し、徳による統治に転じよ、と具体的な保身の道まで示しました。しかし商鞅は聞き入れませんでした。組織・キャリアの教訓は重い。権力や成功の絶頂にあるときこそ、それを支える基盤(後ろ盾、蓄積した反感)を冷静に見つめ、耳の痛い忠告に耳を傾けるべきです。力による支配は、その力の源が消えた瞬間に瓦解する。徳(人望・信頼)に基盤を移せなかった者は、朝露のように消える——趙良の予言は、次段で的中します。

解説

あなたは、権力や成功の絶頂にあるとき、それを支える基盤(後ろ盾・蓄積した反感)を冷静に見つめられていますか?耳の痛い忠告に耳を傾けられていますか?「力を頼む者は滅ぶ」——力ではなく徳(人望・信頼)に基盤を移せていますか?

この一句を、あなたの毎日に。

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