史記 / 商君列伝
然亦難以比德於殷周矣。」
新字:然亦難以比徳於殷周矣。」
書き下し
然れども亦以て徳を殷周に比し難し」と。
現代語訳
(衛鞅は続けた。)「しかしそれでは、殷や周の徳と肩を並べることは難しいだろう。」
解説
孝公に富国強兵の術を説いて大いに喜ばれた商鞅が、景監に語った言葉の結びです。孝公は数十年百年かかる帝王の道を待てず、自分の在世中に成果の出る強国の術を選びました。商鞅はその選択に応えながらも、それでは殷や周のような徳による長い繁栄には及ばないと、自ら限界を認めています。わずか一句ですが、商鞅の改革が秦を強くしたのと同時に、徳よりも力と法に頼る体質を残し、のちの秦の急速な統一と早い滅亡につながったことを思えば、重い予言のようにも読めます。司馬遷は商鞅の口からこの一言を語らせることで、短期の成果と長期の徳のどちらを選ぶかという問いを読者に投げかけています。目先の成果を求める判断が、長期にわたって組織に何を残すのかを考えさせる一言です。
関連する章句
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史記 商君列伝太史公曰く、「商君は、其の天資刻薄の人なり。其の孝公に干むるに帝王の術を以てせんと欲し、浮説を挟持せるを跡づくるに、其の質に非ざるなり。且つ因由する所は嬖臣に由り、用ゐらるるに及びて、公子虔を刑し、魏将卬を欺き、趙良の言を師とせざるは、亦た以て商君の恩少なきを発明するに足る。余嘗て商君の開塞耕戦の書を読むに、其の人の行事と相ひ類す。卒に悪名を秦に受けしは、以有るかな」と。
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『韓非子』和氏第十三楚、呉起を用いずして削亂し、秦、商君の法を行いて富強なり。二子の言なるや巳に當れり。
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『長短経』適変〈秦の孝公、衛鞅を用う。鞅、法を変えんと欲す。孝公、天下の己を議せんことを恐れ、之を疑う。衛鞅曰く「疑いて行えば名無く、疑いて事とすれば功無し。夫れ高人の行い有る者は、固より世に非とせられ、独智の慮り有る者は、必ず人に敖らる。愚者は成事に闇く、智者は未萌に見る。人とは始めを慮る可からずして、与に成るを楽しむ可し。至徳を論ずる者は、俗に和せず。大功を成す者は、衆に謀らず。是を以て聖人は、苟くも以て国を強くす可くんば、其の故きに法らず。苟くも以て人を利す可くんば、其の礼に循わず」と。
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『長短経』臣行或るひと曰く「商鞅は徒歩より起こり、孝公に干め、三術の略を挟み、六国の縦を呑み、秦をして帝業ならしむ。覇者の佐と為す可きか」と。劉向曰く「夫れ商君は、内は耕戦の業を急にし、外は戦伐の賞を重んず。貴寵に阿らず、疎遠に偏らず。書に『偏無く党無し』と云い、詩に『周道は砥の如く、其の直きこと矢の如し』と云い、司馬法の戎士を厲まし、周の后稷の農業を勧むと雖も、以て此に易うる無し。此れ諸侯を并す所以なり。
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戦国策・秦一・衞鞅亡魏入秦衞鞅、魏を亡げて秦に入る。孝公以て相と為し、之を商に封じ、號して商君と曰う。商君秦を治むるや、法令至って行われ、公平にして私無く、罰は強大を諱まず、賞は親近を私せず、法太子に及び、其の傅を黥劓す。期年の後、道に遺を拾わず、民妄りに取らず、兵革大いに強く、諸侯畏懼す。然れども刻深にして恩寡なく、特だ強を以て之を服せしむるのみ。孝公之を行うこと八年、疾みて且に起きざらんとし、商君に傳えんと欲するも、辭して受けず。孝公已に死し、惠王代りて後たり。政に蒞むこと頃有りて、商君歸ることを告ぐ。人惠王に説きて曰わく、「大臣太だ重き者は國危うく、左右太だ親しき者は身危うし。今秦の婦人嬰兒皆商君の法を言い、大王の法を言う莫し。是れ商君反りて主と為り、大王更に臣と為るなり。且つ夫れ商君は、固より大王の仇讎なり、願わくは大王之を圖れ。」商君歸還するや、惠王之を車裂きにし、而して秦人憐れまず。
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史記 商君列伝孝公既に衛鞅を用ひ、鞅法を変ぜんと欲するも、天下の己を議せんことを恐る。衛鞅曰く、「行ひを疑へば名無く、事を疑へば功無し。且つ夫れ高人の行ひ有る者は、固より世に非とせられ、独知の慮り有る者は、必ず民に敖らる。愚者は成事に闇く、知者は未萌に見る。民は与に始めを慮るべからずして与に成るを楽しむべし。至徳を論ずる者は俗に和せず、大功を成す者は衆に謀らず。是を以て聖人は苟も以て国を彊くすべくんば、其の故に法らず。苟も以て民を利すべくんば、其の礼に循はず」と。孝公曰く、「善し」と。甘竜曰く、「然らず。聖人は民を易へずして教へ、知者は法を変ぜずして治む。民に因りて教ふれば、労せずして功を成し、法に縁りて治むる者は、吏習ひて民之に安んず」と。衛鞅曰く、「竜の言ふ所は、世俗の言なり。常人は故俗に安んじ、学者は聞く所に溺る。此の両者を以て官に居り法を守るは可なり、与に法の外を論ずる所に非ざるなり。三代は礼を同じくせずして王たり、五伯は法を同じくせずして霸たり。智者は法を作り、愚者は焉に制せらる。賢者は礼を更め、不肖者は焉に拘せらる」と。杜摯曰く、「利百ならざれば、法を変ぜず。功十ならざれば、器を易へず。古に法れば過ち無く、礼に循へば邪無し」と。衛鞅曰く、「世を治むるは一道ならず、国に便なるは古に法らず。故に湯武は古に循はずして王たり、夏殷は礼を易へずして亡ぶ。古に反する者は非とすべからず、而して礼に循ふ者は多とするに足らず」と。孝公曰く、「善し」と。衛鞅を以て左庶長と為し、卒に変法の令を定む。
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