呻吟語 / 外篇・治道・匹夫に奪ふ可からざるの志有り
匹夫有不可奪之志,雖天子亦無可奈何。天子但能令人死,有視死如飴者,而天子之權窮矣。然而竟令之死,是天子自取過也。不若容而遂之,以成盛德。是以聖人體群情,不敢奪人之志,以傷天下之心,以成己之惡。
新字:匹夫有不可奪之志,雖天子亦無可奈何。天子但能令人死,有視死如飴者,而天子之権窮矣。然而竟令之死,是天子自取過也。不若容而遂之,以成盛徳。是以聖人体群情,不敢奪人之志,以傷天下之心,以成己之悪。
書き下し
匹夫に奪ふ可からざるの志有り。天子と雖も亦た奈何ともする可き無し。天子は但だ能く人を死せしむるのみ。死を視ること飴の如き者有らば、天子の權窮まる。然り而して竟に之を死せしむるは、是れ天子自ら過ちを取るなり。容れて之を遂げしめ、以て盛德を成すに若かず。是を以て聖人は群情を體し、敢へて人の志を奪ひて、以て天下の心を傷り、以て己の惡を成さず。
現代語訳
一人の平民にも奪えない志があります。天子でもどうにもできません。天子はただ人を死なせられるだけです。死を飴のように見る者がいれば、天子の権は窮まります。それでも結局死なせるなら、天子が自ら過ちを取ることになります。容れて遂げさせ、盛んな徳を成すほうがよい。だから聖人は人々の情を我が身に置き、人の志を奪って天下の心を傷つけ、自分の悪を成すことをしません。
解説
権力の限界を、志の一点に見ます。天子にできるのは死なせることだけで、死を恐れない者には効きません。そこで権は窮まります。それでも殺せば、自分の過ちになる。だから容れて遂げさせるほうがよいとされます。譲歩ではなく、権力が届かない領域を認めることです。前に出てきた、英雄の奮いを蓄えさせないという段とも通じる構えになっています。
この章句が説くこと
志限界死容れる盛徳
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