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史記 / 晋世家

夫率師,專行謀也;誓軍旅,君與國政之所圖也:非太子之事也。師在制命而已,稟命則不威,專命則不孝,故君之嗣適不可以帥師。君失其官,率師不威,將安用之?」公曰:「寡人有子,未知其太子誰立。」裏克不對而退,見太子。太子曰:「吾其廢乎?」裏克曰:「太子勉之!教以軍旅,不共是懼,何故廢乎?且子懼不孝,毋懼不得立。修己而不責人,則免於難。」太子帥師,公衣之偏衣,佩之金玦。裏克謝病,不從太子。太子遂伐東山。十九年,獻公曰:「始吾先君莊伯、武公之誅晉亂,而虢常助晉伐我,又匿晉亡公子,果爲亂。弗誅,後遺子孫憂。」乃使荀息以屈産之乘假道於虞。虞假道,遂伐虢,取其下陽以歸。獻公私謂驪姬曰:「吾欲廢太子,以奚齊代之。」驪姬泣曰:「太子之立,諸侯皆已知之,而數將兵,百姓附之,柰何以賤妾之故廢適立庶?君必行之,妾自殺也。」驪姬詳譽太子,而陰令人譖惡太子,而欲立其子。二十一年,驪姬謂太子曰:「君夢見齊姜,太子速祭曲沃,歸釐於君。」太子於是祭其母齊姜於曲沃,上其薦胙於獻公。獻公時出獵,置胙於宮中。驪姬使人置毒藥胙中。居二日,獻公從獵來還,宰人上胙獻公,獻公欲饗之。驪姬從旁止之,曰:「胙所從來遠,宜試之。」

新字:夫率師,専行謀也;誓軍旅,君与国政之所図也:非太子之事也。師在制命而已,稟命則不威,専命則不孝,故君之嗣適不可以帥師。君失其官,率師不威,将安用之?」公曰:「寡人有子,未知其太子誰立。」裏克不対而退,見太子。太子曰:「吾其廃乎?」裏克曰:「太子勉之!教以軍旅,不共是懼,何故廃乎?且子懼不孝,毋懼不得立。修己而不責人,則免於難。」太子帥師,公衣之偏衣,佩之金玦。裏克謝病,不従太子。太子遂伐東山。十九年,献公曰:「始吾先君荘伯、武公之誅晋乱,而虢常助晋伐我,又匿晋亡公子,果為乱。弗誅,後遺子孫憂。」乃使荀息以屈産之乗仮道於虞。虞仮道,遂伐虢,取其下陽以帰。献公私謂驪姫曰:「吾欲廃太子,以奚斉代之。」驪姫泣曰:「太子之立,諸侯皆已知之,而数将兵,百姓附之,柰何以賤妾之故廃適立庶?君必行之,妾自殺也。」驪姫詳誉太子,而陰令人譖悪太子,而欲立其子。二十一年,驪姫謂太子曰:「君夢見斉姜,太子速祭曲沃,帰釐於君。」太子於是祭其母斉姜於曲沃,上其薦胙於献公。献公時出猟,置胙於宮中。驪姫使人置毒薬胙中。居二日,献公従猟来還,宰人上胙献公,献公欲饗之。驪姫従旁止之,曰:「胙所従来遠,宜試之。」

書き下し

夫れ師を率ゐるは、謀を専行するなり。軍旅に誓ふは、君と国政との図る所なり。太子の事に非ざるなり。師は制命に在るのみ。命を稟くれば則ち威あらず、命を専らにすれば則ち孝ならず。故に君の嗣適は以て師を帥ゐるべからず。君其の官を失ひ、師を率ゐて威あらずんば、将た安んぞ之を用ひん」と。公曰く、「寡人に子有るも、未だ其の太子の誰か立つかを知らず」と。里克対へずして退き、太子に見ゆ。太子曰く、「吾其れ廃せられんか」と。里克曰く、「太子之を勉めよ。教ふるに軍旅を以てす。共(つつし)まざるを是れ懼れよ。何の故に廃せられんや。且つ子は不孝を懼れよ。立つを得ざるを懼るること毋かれ。己を修めて人を責めずんば、則ち難を免れん」と。太子師を帥ゐる。公之に偏衣を衣せ、之に金玦を佩ばしむ。里克病と謝して、太子に従はず。太子遂に東山を伐つ。十九年、献公曰く、「始め吾が先君荘伯・武公の晋の乱を誅するや、虢常に晋を助けて我を伐ち、又晋の亡公子を匿ふ。果たして乱を為す。誅せずんば、後に子孫に憂ひを遺さん」と。乃ち荀息をして屈産の乗を以て道を虞に仮らしむ。虞道を仮し、遂に虢を伐ち、其の下陽を取りて以て帰る。献公私かに驪姫に謂ひて曰く、「吾太子を廃し、奚斉を以て之に代へんと欲す」と。驪姫泣きて曰く、「太子の立つや、諸侯皆已に之を知る。而して数々兵を将ゐ、百姓之に附く。奈何ぞ賤妾の故を以て適を廃して庶を立てん。君必ず之を行はば、妾自殺せん」と。驪姫詳りて太子を誉め、而して陰かに人をして太子を譖悪せしめ、而して其の子を立てんと欲す。二十一年、驪姫太子に謂ひて曰く、「君斉姜を夢見る。太子速やかに曲沃に祭り、釐を君に帰せ」と。太子是に於て其の母斉姜を曲沃に祭り、其の薦胙を献公に上る。献公時に出でて猟す。胙を宮中に置く。驪姫人をして毒薬を胙中に置かしむ。居ること二日、献公猟より来還す。宰人胙を献公に上り、献公之を饗せんと欲す。驪姫旁より之を止めて曰く、「胙の従りて来たる所遠し。宜しく之を試むべし」と。

現代語訳

軍を率いるということは、作戦を一手に決めて実行することであり、将兵に誓いを立てさせるのは、君主と国政を担う者が計るべきことだ。太子の務めではない。軍は命令によって統制されるものだが、太子がいちいち君の命令を仰げば威厳がなく、独断で命令すれば親不孝になる。だから君の跡継ぎに軍を率いさせてはならないのだ。君が役目の割り振りを誤り、太子が軍を率いても威厳がなければ、どうして使いものになろうか」。献公は言った。「私には子が何人もいるが、まだ誰を太子にするか決めていない」。里克は答えずに退出し、太子に会った。太子は言った。「私は廃されるのだろうか」。里克は言った。「太子よ、努めなさい。軍を率いることを教えられているのだから、つつしんで務めないことだけを恐れればよい。どうして廃されることがあろう。それにあなたは不孝を恐れるべきで、位を継げないことを恐れてはならない。自分を修めて人を責めなければ、災いから逃れられるだろう」。太子は軍を率いて出陣した。献公は太子に左右の色が違う衣を着せ、金の玦(欠けた環の形の玉)を帯びさせた。里克は病気と称して太子に従わなかった。太子はそのまま東山を攻めた。十九年、献公は言った。「かつて私の先君の荘伯と武公が晋の本家の乱を平定したとき、虢はいつも晋の本家を助けて我々を攻め、さらに晋から逃げた公子たちをかくまった。はたして乱を起こしている。討たなければ、子孫に憂いを残すことになる」。そこで荀息に屈産の名馬を贈らせて、虞に道を借りるよう申し入れさせた。虞は道を貸し、晋はそのまま虢を攻めて、その下陽を取って帰った。献公はひそかに驪姫に言った。「私は太子を廃して、奚斉を代わりに立てたいと思う」。驪姫は泣いて言った。「太子が立っていることは、諸侯がみな知っている。しかもたびたび兵を率いて、民も太子を慕っている。どうして卑しい私のために嫡子を廃して庶子を立てるのか。君がどうしてもそうなさるなら、私は自殺する」。驪姫は表では太子をほめながら、裏ではひそかに人を使って太子を中傷させ、自分の子を立てようとしていた。二十一年、驪姫は太子に言った。「君が亡き斉姜(太子の母)の夢をご覧になった。太子はすぐに曲沃で母上をお祀りし、そのお供えの肉を君にお届けしなさい」。太子はそこで曲沃で母の斉姜を祀り、供えた肉を献公に献上した。献公はちょうど狩りに出かけていたので、その肉は宮中に置かれた。驪姫は人に命じて、肉に毒薬を仕込ませた。二日たって献公が狩りから戻ると、料理人がその肉を献公に差し出し、献公は食べようとした。驪姫はそばからこれを止めて言った。「この肉は遠くから届いたものだ。まず毒見をしたほうがよい」。

解説

驪姫の陰謀が太子申生を追い詰めていく段です。里克は、太子の本来の役目は国に残って祭祀を守ることであり、軍を率いさせるべきではないと理路整然と諫めますが、献公は「誰を太子にするかまだ決めていない」とはぐらかします。里克は太子に「位を失うことではなく、不孝になることを恐れよ。自分を修めて人を責めなければ難を免れる」と励ましますが、自らは病と称して従軍を避けました。左右の色が違う衣と、欠けた環の玉を持たせたのは、太子を疎んじる心の表れと解されてきました。献公が驪姫に太子の廃立を打ち明けると、驪姫は「私のために嫡子を廃するなら自殺する」と泣いてみせながら、裏では太子を中傷させ、ついに太子が献上した供物の肉に毒を仕込みます。表で相手をほめながら裏で陥れるという手口は、今の職場の人間関係の中でも決して珍しいものではありません。

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