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史記 / 殷本紀

湯曰:「汝不能敬命,予大罰殛之,無有攸赦。」作湯征。伊尹名阿衡。阿衡欲奸湯而無由,乃為有莘氏媵臣,負鼎俎,以滋味說湯,致于王道。或曰,伊尹處士,湯使人聘迎之,五反,然後肯往從湯,言素王及九主之事。湯舉任以國政。伊尹去湯適夏。既醜有夏,復歸于亳。入自北門,遇女鳩、女房,作女鳩女房。

新字:湯曰:「汝不能敬命,予大罰殛之,無有攸赦。」作湯征。伊尹名阿衡。阿衡欲奸湯而無由,乃為有莘氏媵臣,負鼎俎,以滋味説湯,致于王道。或曰,伊尹処士,湯使人聘迎之,五反,然後肯往従湯,言素王及九主之事。湯舉任以国政。伊尹去湯適夏。既醜有夏,復帰于亳。入自北門,遇女鳩、女房,作女鳩女房。

書き下し

湯曰く、「汝能く命を敬まずんば、予大いに罰して之を殛し、攸赦すこと有る無からん」と。湯征を作る。伊尹は名を阿衡とす。阿衡湯に奸めんと欲して由無し。乃ち有莘氏の媵臣と為り、鼎俎を負ひ、滋味を以て湯に説き、王道を致す。或いは曰く、伊尹は処士なり、湯人をして之を聘迎せしむ、五たび反りて、然る後に肯へて往きて湯に従ひ、素王及び九主の事を言ふと。湯挙げて任ずるに国政を以てす。伊尹湯を去りて夏に適く。既に有夏を醜み、復た亳に帰る。北門より入り、女鳩・女房に遇ひ、女鳩女房を作る。

現代語訳

湯は言った。「おまえたちが命令を謹んで守らないなら、私は大いに罰して殺し、決して赦すことはない。」(こうして)『湯征』を作った。伊尹(いいん)は名を阿衡(あこう)という。阿衡は湯に仕えたいと思ったが、つてがなかった。そこで有莘(ゆうしん)氏の娘が湯に嫁ぐ際の付き人の臣となり、鼎(かなえ)とまな板を背負い、料理の味にたとえて湯に説き、王道の政治へと導いた。一説には、伊尹は仕官していない在野の士で、湯が人を遣わして招いたが、五度往復してようやく承知して湯に従い、素王(位のない王者の道)と九主(九種類の君主のあり方)について語ったという。湯は彼を登用して国政を任せた。伊尹は湯のもとを去って夏に行った。しかし夏の政治を醜いと見て、再び亳に帰った。北門から入ると、女鳩(じょきゅう)・女房(じょぼう)という賢臣に出会い、『女鳩女房』を作った。

解説

殷の名宰相伊尹が登場する段です。伊尹が湯に仕えた経緯には二つの説が並べられています。一つは、つてのない伊尹が花嫁の付き人となって鼎とまな板を背負い、料理の味付けにたとえて政治を説いたという説。もう一つは、在野の賢者だった伊尹を湯が五度も使者を送って招いたという説です。司馬遷はどちらかに決めつけず、両方を記しました。前者は自ら機会をつかみ取る人材の姿、後者は礼を尽くして人材を迎える君主の姿を示しています。料理にたとえて政治を説いたという話は、味の調和を保つように国を治めるという、後に広く知られる比喩の源です。今の組織で言えば、優れた人は自分の得意分野の言葉で本質を語り、優れたリーダーは何度断られても諦めずに人を招きます。人材との出会いは、どちらか一方の努力だけでは生まれないのです。

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