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史記 / 五帝本紀

於是舜乃至於文祖,謀于四嶽,辟四門,明通四方耳目,命十二牧論帝德,行厚德,遠佞人,則蠻夷率服。舜謂四嶽曰:「有能奮庸美堯之事者,使居官相事?」皆曰:「伯禹爲司空,可美帝功。」舜曰:「嗟,然!禹,汝平水土,維是勉哉。」禹拜稽首,讓於稷、契與皋陶。舜曰:「然,往矣。」舜曰:「弃,黎民始飢,汝后稷,播時百穀。」舜曰:「契,百姓不親,五品不馴,汝爲司徒,而敬敷五教,在寬。」舜曰:「皋陶,蠻夷猾夏,寇賊姦軌,汝作士,五刑有服,五服三就;五流有度,五度三居:維明能信。」舜曰:「誰能馴予工?」皆曰垂可。於是以垂爲共工。舜曰:「誰能馴予上下草木鳥獸?」皆曰益可。於是以益爲朕虞。益拜稽首,讓于諸臣朱虎、熊羆。舜曰:「往矣,汝諧。」遂以朱虎、熊羆爲佐。舜曰:「嗟!四嶽,有能典朕三禮?」皆曰伯夷可。舜曰:「嗟!伯夷,以汝爲秩宗,夙夜維敬,直哉維靜絜。」伯夷讓夔、龍。舜曰:「然。以夔爲典樂,教稺子,直而溫,寬而栗,剛而毋虐,簡而毋傲;詩言意,歌長言,聲依永,律和聲,八音能諧,毋相奪倫,神人以和。」夔曰:「於!予擊石拊石,百獸率舞。」舜曰:「龍,朕畏忌讒說殄僞,振驚朕衆,命汝爲納言,夙夜出入朕命,惟信。」舜曰:「嗟!女二十有二人,敬哉,惟時相天事。」三歲一考功,三考絀陟,遠近衆功咸興。分北三苗。

新字:於是舜乃至於文祖,謀于四嶽,辟四門,明通四方耳目,命十二牧論帝徳,行厚徳,遠佞人,則蠻夷率服。舜謂四嶽曰:「有能奮庸美堯之事者,使居官相事?」皆曰:「伯禹為司空,可美帝功。」舜曰:「嗟,然!禹,汝平水土,維是勉哉。」禹拝稽首,譲於稷、契与皋陶。舜曰:「然,往矣。」舜曰:「弃,黎民始飢,汝后稷,播時百穀。」舜曰:「契,百姓不親,五品不馴,汝為司徒,而敬敷五教,在寛。」舜曰:「皋陶,蠻夷猾夏,寇賊姦軌,汝作士,五刑有服,五服三就;五流有度,五度三居:維明能信。」舜曰:「誰能馴予工?」皆曰垂可。於是以垂為共工。舜曰:「誰能馴予上下草木鳥獣?」皆曰益可。於是以益為朕虞。益拝稽首,譲于諸臣朱虎、熊羆。舜曰:「往矣,汝諧。」遂以朱虎、熊羆為佐。舜曰:「嗟!四嶽,有能典朕三礼?」皆曰伯夷可。舜曰:「嗟!伯夷,以汝為秩宗,夙夜維敬,直哉維静絜。」伯夷譲夔、竜。舜曰:「然。以夔為典楽,教稺子,直而温,寛而栗,剛而毋虐,簡而毋傲;詩言意,歌長言,声依永,律和声,八音能諧,毋相奪倫,神人以和。」夔曰:「於!予撃石拊石,百獣率舞。」舜曰:「竜,朕畏忌讒説殄偽,振驚朕衆,命汝為納言,夙夜出入朕命,惟信。」舜曰:「嗟!女二十有二人,敬哉,惟時相天事。」三歳一考功,三考絀陟,遠近衆功咸興。分北三苗。

書き下し

是に於て舜乃ち文祖に至り、四嶽に謀り、四門を辟き、四方の耳目を明通し、十二牧に命じて帝徳を論ぜしめ、厚徳を行ひ、佞人を遠ざくれば、則ち蛮夷率ゐ服す。舜四嶽に謂ひて曰く、「能く庸を奮ひて堯の事を美くする者有らば、官に居りて事を相けしめん」と。皆曰く、「伯禹司空と為らば、帝の功を美くす可し」と。舜曰く、「嗟、然り。禹、汝水土を平らげよ、維れ是れ勉めよ」と。禹拝稽首して、稷・契と皋陶とに譲る。舜曰く、「然り、往け」と。舜曰く、「棄、黎民始めて飢う。汝后稷となり、時に百穀を播け」と。舜曰く、「契、百姓親しまず、五品馴れず。汝司徒と為りて、敬みて五教を敷け、寛に在れ」と。舜曰く、「皋陶、蛮夷夏を猾し、寇賊姦軌す。汝士と作れ。五刑に服有り、五服に三就あり。五流に度有り、五度に三居あり。維れ明らかなれば能く信ぜられん」と。舜曰く、「誰か能く予が工を馴めん」と。皆曰く垂可なりと。是に於て垂を以て共工と為す。舜曰く、「誰か能く予が上下の草木鳥獣を馴めん」と。皆曰く益可なりと。是に於て益を以て朕が虞と為す。益拝稽首して、諸臣朱虎・熊羆に譲る。舜曰く、「往け、汝諧へり」と。遂に朱虎・熊羆を以て佐と為す。舜曰く、「嗟、四嶽、能く朕が三礼を典る有るか」と。皆曰く伯夷可なりと。舜曰く、「嗟、伯夷、汝を以て秩宗と為す。夙夜維れ敬み、直にして維れ静絜なれ」と。伯夷夔・龍に譲る。舜曰く、「然り。夔を以て典楽と為し、稺子に教へしむ。直にして温、寛にして栗、剛にして虐なる毋く、簡にして傲なる毋からしめよ。詩は意を言ひ、歌は言を長くし、声は永に依り、律は声を和す。八音能く諧ひ、相倫を奪ふ毋くんば、神人以て和せん」と。夔曰く、「於、予石を撃ち石を拊てば、百獣率ゐ舞ふ」と。舜曰く、「龍、朕讒説の殄偽にして、朕が衆を振驚するを畏忌す。汝に命じて納言と為す。夙夜朕が命を出入し、惟れ信あれ」と。舜曰く、「嗟、女二十有二人、敬めよや、惟れ時に天事を相けよ」と。三歳に一たび功を考へ、三たび考へて絀陟す。遠近の衆功咸興る。三苗を分北す。

現代語訳

そこで舜は文祖の廟に参り、四嶽と協議し、四方の門を開いて広く人材を招き、四方の情報が耳目に届くようにした。十二州の長に命じて帝の徳について論じさせ、厚い徳を行い、口先のうまい者を遠ざけたので、蛮夷もこぞって服従した。舜は四嶽に言った。「功を奮い立てて堯の事業を立派に仕上げられる者がいれば、官につけて政務を助けさせたい。」皆は言った。「伯禹を司空(土木の長官)にすれば、帝の功業を立派にできましょう。」舜は言った。「ああ、そうだ。禹よ、おまえは水と土地を治めよ。これに励め。」禹は拝礼して頭を地につけ、稷・契・皋陶に譲ろうとした。舜は言った。「よいから、行け。」舜は言った。「棄(き)よ、民は飢え始めている。おまえは后稷(農業の長官)となり、時節に応じて百穀をまけ。」舜は言った。「契よ、民は親しみ合わず、五つの人倫(父子・君臣・夫婦・長幼・朋友)が整っていない。おまえは司徒(教化の長官)となり、慎んで五つの教えを広めよ。寛大であれ。」舜は言った。「皋陶よ、蛮夷が中華を乱し、盗賊や悪人がはびこっている。おまえは士(司法官)となれ。五刑にはそれぞれ執行の法があり、執行の場所は三つに分かれる。五種の流刑には距離の定めがあり、その居所は三段階に分かれる。ひたすら明察であってこそ、人々に信頼されるのだ。」舜は言った。「誰がわが工人たちを取りまとめられるか。」皆は垂がよいと言った。そこで垂を共工(工作の長官)とした。舜は言った。「誰がわが山林や沼沢の草木鳥獣を管理できるか。」皆は益がよいと言った。そこで益をわが虞(山林沼沢の長官)とした。益は拝礼して頭を地につけ、臣下の朱虎・熊羆(ゆうひ)に譲ろうとした。舜は言った。「行け。おまえが適任だ。」そして朱虎・熊羆を益の補佐とした。舜は言った。「ああ、四嶽よ、わが三つの礼(天・地・人の祭祀)をつかさどれる者はいるか。」皆は伯夷がよいと言った。舜は言った。「ああ、伯夷よ、おまえを秩宗(祭祀の長官)とする。朝から晩まで慎み、正直で、心静かに清らかであれ。」伯夷は夔と龍に譲ろうとした。舜は言った。「よし。夔を典楽(音楽の長官)とし、若者を教えさせよう。正直でありながら温和に、寛大でありながら厳しく、剛直でありながら残忍にならず、大らかでありながら傲慢にならないようにせよ。詩は心の思いを言葉にし、歌はその言葉を長く引いて詠じ、声は節回しに従い、音律が声を調和させる。八種の楽器がよく調和し、互いに秩序を乱すことがなければ、神と人とが和合する。」夔は言った。「ああ、私が石の楽器を打ち鳴らせば、獣たちもこぞって舞いましょう。」舜は言った。「龍よ、私は讒言が善行を損ない、偽りが民衆を驚かせ乱すことを恐れる。おまえを納言(命令の伝達と上申をつかさどる官)とする。朝から晩までわが命令を伝え、下の言葉を取り次ぎ、ひたすら誠実であれ。」舜は言った。「ああ、おまえたち二十二人よ、慎めよ。時にかなって天の事業を助けよ。」三年に一度功績を考査し、三度の考査を経て降格か昇進を決めた。遠近のさまざまな事業がみな興った。三苗を分けて離散させた。

解説

舜が即位して政府の陣容を定める場面で、『尚書』舜典をもとにしています。治水は禹、農業は棄(后稷)、教化は契、司法は皋陶、工作は垂、山林は益、祭祀は伯夷、音楽は夔、命令の伝達は龍と、適材を適所に据えていきます。任命のたびに、推薦された者が他の人に譲ろうとし、舜が「行け」と背中を押すやり取りが繰り返されるのも印象的です。職務ごとに心得も添えられ、教化には「寛大であれ」、司法には「明察であれ」、伝達役には「誠実であれ」と求めています。そして三年ごとの考査を三回経て昇降を決める評価制度まで整えました。組織づくりの要点がほぼすべて入っていると言ってよいでしょう。役割を明確にし、推薦で人を得て、職務ごとの行動基準を示し、一定期間の実績で評価する。任命しっぱなしにしない仕組みがあってこそ、「遠近の衆功咸興る」という成果につながるのです。

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