士道心得書 / 言葉を慎む
假りにも僞を不云、柔弱の言、政務の批判、諸人のうわさ、言葉の答違ひたる事を不云、文盲成る語はたはむれにも、邪なる事毛頭いふ不可、常に物語りにも無益の事、不相應なる事、言葉を禁じ、かりそめにも良將勇士忠孝義不義の論、古戰塲の懸引、高名擧れの品、相樂に談和すべき事也。
新字:仮りにも偽を不云、柔弱の言、政務の批判、諸人のうわさ、言葉の答違ひたる事を不云、文盲成る語はたはむれにも、邪なる事毛頭いふ不可、常に物語りにも無益の事、不相応なる事、言葉を禁じ、かりそめにも良将勇士忠孝義不義の論、古戦塲の懸引、高名挙れの品、相楽に談和すべき事也。
書き下し
假りにも僞を云はず、柔弱の言、政務の批判、諸人のうはさ、言葉の答へ違ひたる事を云はず、文盲成る語はたはむれにも、邪なる事毛頭いふべからず、常に物語りにも無益の事、不相應なる事、言葉を禁じ、かりそめにも良將勇士忠孝義不義の論、古戰塲の懸引、高名擧れの品、相樂しみて談和すべき事なり。
現代語訳
かりそめにも偽りを言わず、柔弱な言葉、政務の批判、人々のうわさ、言葉の受け答えの違いなどを言わず、無学な言葉は戯れにも、よこしまなことは少しも言ってはなりません。普段の雑談でも、無益なこと、身分に不相応なことや言葉を慎み、折にふれては、良将や勇士、忠孝や義と不義についての議論、古戦場での駆け引き、高名な働きの話などを、互いに楽しんで語り合うべきです。
解説
士の言葉についての戒めです。偽り、柔弱な物言い、政務への批判、うわさ話、邪な話を控え、雑談は良将の話や古戦場の駆け引きなど、士として益のある話題にせよと勧めます。言葉は人柄を映し、場の空気を決めるという考えがうかがえます。現代の管理職も、愚痴や陰口、うわさが組織の空気を左右します。自分の発する言葉が部下の基準になることを意識し、雑談の中にも学びや志を語る習慣を入れると、チームの質が変わります。
この章句が説くこと
言葉慎みうわさ雑談偽りを言わない批判
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『春秋左氏伝』昭公元年 言を以て物を知る三月、甲辰、盟ふ。楚の公子圍服を設け衛を離ぬ。叔孫穆子曰く、「楚の公子美なり、君なるかな」と。鄭の子皮曰く、「二執戈の者前めり」と。蔡の子家曰く、「蒲宮に前有り、亦た可ならずや」と。楚の伯州犁曰く、「此の行や、辭して之を寡君に假れり」と。鄭の行人揮曰く、「假りて反さざらん」と。伯州犁曰く、「子姑く子皙の背誕せんと欲するを憂へよ」と。子羽曰く、「當璧猶ほ在り。假りて反さずとも、子其れ憂ひ無からんや」と。齊の國子曰く、「吾二子に代りて愍ふ」と。陳の公子招曰く、「憂へずんば何ぞ成らん。二子樂しめり」と。衛の齊子曰く、「苟くも或いは之を知らば、憂ふと雖も何ぞ害あらん」と。宋の合左師曰く、「大國令し、小國共す。吾共するを知るのみ」と。晉の樂王鮒曰く、「小旻の卒章善し。吾之に從はん」と。會より退く。子羽子皮に謂ひて曰く、「叔孫は絞にして婉、宋の左師は簡にして禮、樂王鮒は字しみて敬す。子と子家とは之を持す。皆保世の主なり。齊・衛・陳の大夫は、其れ免れざらんか。國子は人に代りて憂ひ、子招は憂ひを樂しみ、齊子は憂ふと雖も害せずとす。夫れ及ばずして憂ふると、憂ふべくして樂しむと、憂へて害せずとするとは、皆憂ひを取るの道なり。憂ひ必ず之に及ばん。大誓に曰く、『民の欲する所は、天必ず之に從ふ』と。三大夫憂ひを兆す、能く至ること無からんや。言以て物を知るとは、其れ是の謂なり」と。
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