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士道心得書 / 勇は動じない心

士の心は勇を存するを以て大要とす。勇といふは心氣動轉せず、常を失はざるものを云て、是を大丈夫と云へり。然るに世人は只おそろしきを見聞して不懼を計り勇といふは、是勇の全にあらず。常變共色欲とも心を動せず、大山前に崩れども色不變、人犯しあなどれ共不怒、大軍をも事ともせず、只今死に及ぶ共不臆、貧家衰亡にも心指を不屈、高位高官も不恐、美々にも心を不奪、萬事に付心氣を不臆、あぐまず不懼不動、いさぎよきを勇と云〻。

新字:士の心は勇を存するを以て大要とす。勇といふは心気動転せず、常を失はざるものを云て、是を大丈夫と云へり。然るに世人は只おそろしきを見聞して不懼を計り勇といふは、是勇の全にあらず。常変共色欲とも心を動せず、大山前に崩れども色不変、人犯しあなどれ共不怒、大軍をも事ともせず、只今死に及ぶ共不臆、貧家衰亡にも心指を不屈、高位高官も不恐、美々にも心を不奪、万事に付心気を不臆、あぐまず不懼不動、いさぎよきを勇と云〻。

書き下し

士の心は勇を存するを以て大要とす。勇といふは心氣動轉せず、常を失はざるものを云ひて、是を大丈夫と云へり。然るに世人は只だおそろしきを見聞して懼れざるを計り勇といふは、是れ勇の全きにあらず。常變共に色欲とも心を動かさず、大山前に崩るれども色變ぜず、人犯しあなどれ共怒らず、大軍をも事ともせず、只今死に及ぶ共臆せず、貧家衰亡にも心指を屈せず、高位高官も恐れず、美々にも心を奪はれず、萬事に付き心氣を臆せず、あぐまず懼れず動ぜず、いさぎよきを勇と云ふ、云云。

現代語訳

士の心は、勇を持つことを大本とします。勇とは、心の気が動揺せず、平常を失わないことをいい、これを大丈夫といいます。ところが世間の人は、ただ恐ろしいものを見聞きして恐れないことだけを勇だと言いますが、それは勇の全体ではありません。平常でも異変でも、色欲にも心を動かさず、大きな山が目の前で崩れても顔色を変えず、人に侵されあなどられても怒らず、大軍をも物ともせず、今すぐ死が迫っても臆せず、貧しさや家の衰亡にも志を曲げず、高位高官も恐れず、美しいものにも心を奪われず、あらゆることについて心気がひるまず、倦まず、恐れず、動じず、潔いことを勇というのです。

解説

勇を、恐れ知らずではなく、心が動揺せず平常を保つことと定義します。大事に動じないだけでなく、侮られても怒らず、色欲や高位にも心を奪われないという広い範囲を含みます。勇は戦場だけの徳ではないという見方です。現代の管理職にとっての勇は、プレッシャーや誘惑、批判の中でも冷静に判断を保つ力でしょう。感情的な反応を抑え、目先の損得や権威に流されずに、一貫した判断軸で行動することが、部下に安心を与える土台になります。

この章句が説くこと

勇大丈夫不動心平常心動じない心気

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