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洗心洞箚記 / 箚記跋松浦誠之

同門友嘗刻吾師中齋先生箚記二卷于家塾而今也將傳之於世其義則在先生之自述而復命誠之等跋之誠之質鈍材劣加之以不文何敢汚先生之書哉然親炙師門凡十年矣先生之出處進退及其學術之變化純熟見而知之者勿如誠之等者故又不能讓之餘人也是以遂拜手而跋曰嗚呼先生之嘗在仕路也勤愼廉潔風節德威質諸天地神明而不愧者也佐其衙長以抑強救弱挫邪扶正雖人謂過激然宿弊立袪積蠹直滅建功於明而延化於幽盡忠於國而致孝於家身名兩全不貪富貴榮寵而勇退矣較諸若水錢公諸先輩何如哉人皆以爲是出乎其天資聰明果毅之決而未嘗知其在於學問之力也

新字:同門友嘗刻吾師中斎先生箚記二巻于家塾而今也将伝之於世其義則在先生之自述而復命誠之等跋之誠之質鈍材劣加之以不文何敢汚先生之書哉然親炙師門凡十年矣先生之出処進退及其学術之変化純熟見而知之者勿如誠之等者故又不能譲之余人也是以遂拝手而跋曰嗚呼先生之嘗在仕路也勤慎廉潔風節徳威質諸天地神明而不愧者也佐其衙長以抑強救弱挫邪扶正雖人謂過激然宿弊立袪積蠹直滅建功於明而延化於幽尽忠於国而致孝於家身名両全不貪富貴栄寵而勇退矣較諸若水銭公諸先輩何如哉人皆以為是出乎其天資聰明果毅之決而未嘗知其在於学問之力也

書き下し

同門の友嘗て吾が師中斎先生の箚記二巻を家塾に刻して、今や将に之を世に伝へんとす。其の義は則ち先生の自述に在り。而して復た誠之等に命じて之に跋せしむ。誠之質鈍く材劣り、加ふるに不文を以てす。何ぞ敢へて先生の書を汚さんや。然れども師門に親炙すること凡そ十年なり。先生の出処進退及び其の学術の変化純熟、見て之を知る者、誠之等に如くは勿し。故に又之を余人に譲る能はざるなり。是を以て遂に拝手して跋して曰く、嗚呼、先生の嘗て仕路に在るや、勤慎廉潔、風節徳威、諸を天地神明に質して愧ぢざる者なり。其の衙長を佐けて以て強を抑へ弱を救ひ、邪を挫き正を扶く。人過激と謂ふと雖も、然れども宿弊立ちどころに袪かれ、積蠹直ちに滅ぶ。功を明に建てて化を幽に延べ、忠を国に尽くして孝を家に致す。身名両つながら全くして、富貴栄寵を貪らずして勇退す。諸を若水銭公諸先輩に較ぶれば何如ぞや。人皆以て是れ其の天資聡明果毅の決に出づと為して、未だ嘗て其の学問の力に在るを知らざるなり。

現代語訳

同門の友が、かつてわが師中斎先生の『箚記』二巻を家塾で版に刻み、いまそれを世に伝えようとしている。その趣旨は先生の自述にある。そしてまた私誠之らに跋を書くよう命じられた。誠之は生まれつき鈍く才も劣り、そのうえ文章も下手である。どうして先生の書を汚せようか。しかし師の門下で親しく教えを受けてほぼ十年になる。先生の出処進退と、その学術の変化し熟していくさまを、見て知っている者としては、誠之らに及ぶ者はない。だからこれをほかの人に譲ることもできない。そこでついに手を合わせて拝し、跋を書いて言う。ああ、先生がかつて仕官の道にあったとき、勤勉で慎み深く清廉潔白、その気風と節操、徳と威厳は、天地神明に問うても恥じないものであった。上役の奉行を助けて、強い者を抑え弱い者を救い、邪な者をくじき正しい者を助けた。人は過激だと言ったが、長年の弊害はたちまち取り除かれ、積もった害虫のような悪はすぐに滅んだ。功を表の世に立てて感化を見えない所にまで及ぼし、忠を国に尽くして孝を家に尽くした。身と名をともに全うし、富貴や栄誉、寵愛をむさぼらずに潔く退いた。これを銭若水(宋の名臣)ら諸先輩と比べてどうであろうか。人はみな、これは先生の生まれつきの聡明さと果断さから出たものだと思って、それが学問の力によることを知らない。

解説

門人松浦誠之による跋の冒頭である。十年近く師事した者として、中斎の与力時代の勤慎廉潔、強を抑え弱を救った働き、そして栄達を求めず勇退した出処を語る。中斎は天保元年(1830)に与力を辞して養子格之助に職を譲り、洗心洞での講学に専念した。誠之は、人はそれを天性の果断によると見るが実は学問の力だと強調する。この跋は天保六年の刊行に際して書かれ、乱の二年前に当たる。仕事の成果を人柄や才能のせいにせず、日々の学びと修養の積み重ねとして見る視点は、人を育てる立場の者にとって示唆に富む。

この章句が説くこと

学問修己出処廉潔陽明学大塩中斎

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