洗心洞箚記 / 卷下・第五十七條
心歸乎太虛、然後實理始存焉、不歸乎太虛、則實理埋沒了、與物不異、夫人而與物不異、可恥之甚者也、擧世不恥之、則其靈將何在哉、
新字:心帰乎太虚、然後実理始存焉、不帰乎太虚、則実理埋没了、与物不異、夫人而与物不異、可恥之甚者也、挙世不恥之、則其霊将何在哉、
書き下し
心太虚に帰して、然る後実理始めて存す。太虚に帰せざれば、則ち実理埋没し了りて、物と異ならず。夫れ人にして物と異ならざるは、恥づべきの甚しき者なり。世を挙げて之を恥ぢざれば、則ち其の霊将た何くにか在らん。
現代語訳
心が太虚に帰ってはじめて、実の理がそこに存する。太虚に帰らなければ、実の理は埋もれてしまい、物と変わらない。そもそも人でありながら物と変わらないのは、このうえなく恥ずべきことである。世の中こぞってそれを恥じないなら、人の霊妙さはいったいどこにあるというのか。
解説
心が太虚に帰することで、はじめて実理が現れると説く条である。虚と実は対立するのではなく、欲を去って心を空にしたとき、そこに確かな理が立つ。逆に欲にふさがれた心は、理を埋もれさせ、物と変わらなくなる。中斎はそれを人として最大の恥と言い、世がそれを恥じないことを嘆く。張載の太虚説を陽明学の心に引き寄せた中斎の要の考えである。現代でも、欲や雑念で心が満ちていると、筋の通った判断ができなくなる。空にすることが確かさの条件である。
この章句が説くこと
太虚実理心恥霊張載
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