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省諐録 / 第54条・第1段

江戶海口。不可無礟臺。予亦嘗數數言之。夫海口之防戰。利在礟臺。其形勢所缺。不可不賓此以補焉。然其得力之處。全在別備礟艘。相機策應。故能得其要。海中唯置一二區而足。不必多築之。荷蘭譜厄兒之策。可據也。如今所爲。陸續相連。是陸軍爲壘以自屏之法。非海口以待洋寇之術也。蓋陸戰攻中寓守。守中寓攻。方其守也。以壘自屏。方其攻也。出壘以衝。其守與攻。竝係壘中之人。故其人衆。固不能不多其壘。雖多其壘。亦不相障礙。如海口之戰。則不然。礟臺之兵。不操礟艘。礟艘之兵。不在礟臺。故礟臺不貴多。而礟艘不厭多也。蓋礟臺多則兵分。兵分則用士衆。

新字:江戸海口。不可無礟台。予亦嘗数数言之。夫海口之防戦。利在礟台。其形勢所欠。不可不賓此以補焉。然其得力之処。全在別備礟艘。相機策応。故能得其要。海中唯置一二区而足。不必多築之。荷蘭譜厄児之策。可拠也。如今所為。陸続相連。是陸軍為塁以自屏之法。非海口以待洋寇之術也。蓋陸戦攻中寓守。守中寓攻。方其守也。以塁自屏。方其攻也。出塁以衝。其守与攻。並係塁中之人。故其人衆。固不能不多其塁。雖多其塁。亦不相障礙。如海口之戦。則不然。礟台之兵。不操礟艘。礟艘之兵。不在礟台。故礟台不貴多。而礟艘不厭多也。蓋礟台多則兵分。兵分則用士衆。

書き下し

江戸の海口、礟臺無かるべからず。予も亦た嘗て数数之を言ふ。夫れ海口の防戦は、利は礟臺に在り。其の形勢の缺くる所、此を賓にして以て補はざるべからず。然れども其の力を得る処は、全く別に礟艘を備へて、機を相て策応するに在り。故に能く其の要を得れば、海中唯だ一二区を置けば足り、必ずしも多く之を築かず。荷蘭の譜厄兒の策、拠るべきなり。今の為す所の如きは、陸続相連ね、是れ陸軍の塁を為して以て自ら屏ふの法にして、海口に洋寇を待つの術に非ざるなり。蓋し陸戦は攻中に守を寓し、守中に攻を寓す。其の守るに方りては、塁を以て自ら屏ふ。其の攻むるに方りては、塁を出でて以て衝く。其の守と攻と、並びに塁中の人に係る。故に其の人衆く、固より其の塁を多くせざるを得ず。其の塁を多くすと雖も、亦た相障礙せず。海口の戦の如きは、則ち然らず。礟臺の兵は、礟艘を操らず、礟艘の兵は、礟臺に在らず。故に礟臺は多きを貴ばずして、礟艘は多きを厭はず。蓋し礟臺多ければ則ち兵分かれ、兵分かるれば則ち用ふる士衆し。

現代語訳

江戸の海の入り口には、砲台がなくてはなりません。私もこれまで何度もそう言ってきました。海口の防戦は、利は砲台にあります。地勢の足りないところは、これを副として補わなければなりません。しかしその力が生きるところは、もっぱら別に砲艘を備えて、機を見て呼応することにあります。ですからその要をつかめば、海中にわずか一、二か所を置けば足り、必ずしも多く築く必要はありません。荷蘭の譜厄兒の策が拠り所になります。今の行いは、陸続きに連ねるもので、陸軍が塁を築いて自ら身を守る法であり、海口で洋寇を待つ術ではありません。思うに、陸の戦は攻めの中に守りを含み、守りの中に攻めを含みます。守るときは塁で身を守り、攻めるときは塁を出て突きます。その守りも攻めも、ともに塁の中の人にかかっています。そのため人数が多く、塁を多くしないわけにはいきません。塁が多くても、互いに邪魔にはなりません。海口の戦は、そうではありません。砲台の兵は砲艘を操らず、砲艘の兵は砲台にいません。だから砲台は多さを貴ばず、砲艘は多くてもかまいません。思うに、砲台が多ければ兵が分かれ、兵が分かれれば、用いる士が多くなるのです。

解説

江戸の海口に砲台が要るのは確かで、象山自身も何度も言ってきた、と述べるところから始まります。ただ、働きの本体は別に備える砲艘が機に応じて呼応することにあり、砲台は海中に一、二か所あれば足りるとします。陸の戦は攻めの中に守りを、守りの中に攻めを含み、塁に拠る人が攻守の両方を担うので、塁が多くても差し支えません。しかし海口の戦では、砲台の兵は砲艘を扱わず、砲艘の兵は砲台にいないため、砲台は多さを貴ばず、砲艘は多くてもよいと論じます。手段を局面に合わせて選ぶ考え方は、事業でも、既存の型を別の局面にそのまま使えるかを疑う視点と重なります。

この章句が説くこと

砲台砲艘機動力局面戦略省諐録

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