省諐録 / 第44条
本邦金貨米粟。號爲富饒。然疆域不大。故以邦內所生之財。享邦內所爲之用。無甚有餘。乃若海防之事。則起于外者也。置防堵數百所。造大艦數百艘。鑄巨礮數千門。其費亦浩矣。而皆非永存之物。每一二十年。必待修繕改造。況外之有應接給資之用。內之有餉糧購買之費。凡如此之類。將安取其給哉。夫劣濟困窮之家。多得賓客。屢設宴饗。則其資財空乏。卒至於不可復繼也必矣。今之時事。何以異乎是。然則其所以經理之者。何術。有志於經世者。所宜先審計。
新字:本邦金貨米粟。号為富饒。然疆域不大。故以邦内所生之財。享邦内所為之用。無甚有余。乃若海防之事。則起于外者也。置防堵数百所。造大艦数百艘。鋳巨礮数千門。其費亦浩矣。而皆非永存之物。毎一二十年。必待修繕改造。況外之有応接給資之用。内之有餉糧購買之費。凡如此之類。将安取其給哉。夫劣済困窮之家。多得賓客。屡設宴饗。則其資財空乏。卒至於不可復継也必矣。今之時事。何以異乎是。然則其所以経理之者。何術。有志於経世者。所宜先審計。
書き下し
本邦は金貨米粟、号して富饒と為す。然れども疆域大ならず。故に邦内に生ずる所の財を以て、邦内の為す所の用を享く、甚だしくは有余無し。乃ち海防の事の若きは、則ち外より起こる者なり。防堵数百所を置き、大艦数百艘を造り、巨礮数千門を鋳れば、其の費も亦た浩たり。而して皆永く存するの物に非ず。一二十年毎に、必ず修繕改造を待つ。況んや外には応接給資の用有り、内には餉糧購買の費有るをや。凡そ此くの如きの類、将た安くにか其の給を取らんや。夫れ劣かに困窮を済ふの家、賓客を多く得て、屡しば宴饗を設くれば、則ち其の資財空乏し、卒に復た継ぐべからざるに至ること必せり。今の時事、何を以て是に異ならんや。然らば則ち其の之を経理する所以の者は、何の術ぞ。経世に志有る者は、宜しく先づ審計すべし。
現代語訳
我が国は金貨や米・粟があって、豊かだと言われています。しかし領土は大きくありません。そのため、国内で生まれる財で国内の用をまかなっており、あまり余りはありません。ところが海防は、外から起こる事柄です。防塁を数百か所に置き、大艦を数百艘造り、巨砲を数千門鋳るとなれば、その費用も莫大です。しかもこれらは永く残るものではなく、一、二十年ごとに必ず修繕や造り直しが要ります。まして、外には応接や物資の供給の用があり、内には兵糧や購入の費用があります。こうしたものを、いったいどこから賄うのでしょうか。わずかに困窮から立ち直ろうとしている家が、客を多く迎えてたびたび宴を開けば、その資財は底をつき、ついには続けられなくなるに決まっています。今の時勢は、これとどこが違うでしょうか。では、これを切り盛りして処理するには、どんな方法があるのか。世を治めることに志のある者は、まず費用を見積もって調べるべきです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『省諐録』第54条・第2段而して左なる者は右を拯ふ能はず、右なる者は左を救ふ能はず。不幸にして賊船中閒に出づれば、左右の臺、相ひ為に障礙して、礟を用ふる能はず。悪くにか其の利たるに在らんや。且つ礟艘置くこと乏しければ、進剿に術無し。如し賊、船を相房の閒に連ねて、以て我が海運を絶たば、何を以て之を卻けん。是の時に当たりては、縦令ひ内港に百の礟臺有りとも、亦た無用に属す。戦はずして屈すること無からんと欲すと雖も、得べからず。若し乃ち多く礟艘を備へ、訓練するに時を以てし、戦を開き策応すれば、可ならざる所無し。以て洋賊を讋服し、其の死命を制するに足る。又何ぞ苦しみて海中に此の許多の礟臺を以て為さんや。多事の際、其の経費も亦た甚だ惜しむべし。某地の県令某氏、小しく才幹有れども、素より学問無し。西洋陸戦の塁図を見て、其の解を知らず、杜撰牽合して、以て海口を守る策を成す。当道も亦た深く之を究めず、以て是と為して施行す。予深く其の非を識り、屡しば之を川路司農に言ふ。司農稍や信ずれども、然れども遂に救ふ能はず。是れも亦た慨くべきなり。
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『省諐録』第48条海防の要は、礮と艦とに在り、而して礮最も首に居る。魏氏の海国図識の中、銃礮の説を輯むるも、類ね皆粗漏にして無稽、児童の戯嬉の為すが如し。凡そ事は自ら之を為さずして、能く其の要領を得る者は無し。魏の才識を以てして、是れを察せず。当今の世、身に礮学無く、此の謬妄を貽し、反って後生を誤らしむ。吾魏の為に深く惜しむ。
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『省諐録』第54条・第1段江戸の海口、礟臺無かるべからず。予も亦た嘗て数数之を言ふ。夫れ海口の防戦は、利は礟臺に在り。其の形勢の缺くる所、此を賓にして以て補はざるべからず。然れども其の力を得る処は、全く別に礟艘を備へて、機を相て策応するに在り。故に能く其の要を得れば、海中唯だ一二区を置けば足り、必ずしも多く之を築かず。荷蘭の譜厄兒の策、拠るべきなり。今の為す所の如きは、陸続相連ね、是れ陸軍の塁を為して以て自ら屏ふの法にして、海口に洋寇を待つの術に非ざるなり。蓋し陸戦は攻中に守を寓し、守中に攻を寓す。其の守るに方りては、塁を以て自ら屏ふ。其の攻むるに方りては、塁を出でて以て衝く。其の守と攻と、並びに塁中の人に係る。故に其の人衆く、固より其の塁を多くせざるを得ず。其の塁を多くすと雖も、亦た相障礙せず。海口の戦の如きは、則ち然らず。礟臺の兵は、礟艘を操らず、礟艘の兵は、礟臺に在らず。故に礟臺は多きを貴ばずして、礟艘は多きを厭はず。蓋し礟臺多ければ則ち兵分かれ、兵分かるれば則ち用ふる士衆し。
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『省諐録』第52条襄に予一二の友生と偕に、鎌倉の遊を為し、遂に海に泛かび、荒岬を過ぎ、城島に抵り、三崎に泊し、松輪を歴て、宮田に宿し、浦賀に次り、猿嶼に上り、金澤を観、本牧に出でて都に還る。其の往来由る所、設くる所の防堵を観ること、海寇に備ふるもの、無慮十余所、而して錯置は皆法を得ず、一も防截の選に当たるべき者無し。此に至りて、覚えず天を仰ぎて浩歎し、胸を擗ちて涕を流す者、久し。夫れ江都は、天下の咽喉なり。富津の洲觜、称して天険と曰ふと雖も、海口は猶ほ闊し。戦艦水軍有るに非ざれば、固より以て敵人の侵攘窺伺を遏め難し。今は是れを務めず、癡堵呆堞を設け、高く之を海表に掲ぐ。此れ我が海外に謀る無きを示すなり。頃年東西の諸蕃、舶を寄せて遊偵す、豈に我を軽んずるの心を開かざらんや。吏員は庸流、固より謫むるに足らず。其の金鞍華鞲、綾衣肉食、自ら謂ひて高く等類に出づる者は、天下の大計を知らず、国の財用を糜して、此の無益の務めを為す、抑も何ぞや。如し虜舶馳突すること有らば、将た何を以て折衝禦侮せん。因りて上疏して海防の利病を論じ、以て時政の万一を裨けんと欲し、草を具して之を先公に請ふ。先公許さず、遂に止む。是れ嘉永庚戌の首夏なり。後四年、果たして墨夷の事起こる。登時先公の予が上書を尼むるは、蓋し触忤して罪に抵るを懼れしならん。其の蓋覆の仁、亦た大なり。今日、先公をして在世せしめば、予が拘囚を知らば、則ち其の憂労、又当に何如なるべき。
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『新論』守禦利の取りて竭きざる者は海なり。之が舟楫を為り、其の網罟の費を給せば、則ち水戦の用得て寓すべし。是れ利を海に資りて、以て吾が兵を教へ、糧を地に因りて、以て吾が兵を食ましむ。苟も其の人を得て、其の制度を講ぜば、壮強の夫、素練の卒、未だ必ずしも得べからずんばあらず。然れども防海の備は、独り之を防海の卒に責むべからず。兵の用ふべからんことを欲せば、則ち当に其の労佚を均しくすべし。屯戍の卒は、田を耕し海に漁し、暇日には則ち武を講じ、寇至れば先づ闘ふ、豈に労せざらんや。而るに其の城邑に在る者は、飽食煖衣して、驕楽歳を終ふれば、則ち誰か独り防海を楽しまんや。故に士衆を磨励し、兵旅を訓練し、之に習はすに田猟・追胥・行役・土功の労を以てし、独り奢淫の楽を受くるを得ざらしめ、農工商賈をして亦た皆四方に事有るを知り、勤倹して令に趨ること、新たに兵禍を免れたるの日の如くならしめ、防海の卒をして天下の労せざる莫きを知り、臂を攘ひ身を奮ひ、陣に臨みて功を争ふの秋の如くならしめ、然る後に兵得て用ふべきなり。故に堡障の制、保甲の令、屯戍の兵、労佚の用は、皆防海の要務にして、間暇に及びて之を審議せざるべからざるなり。
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