政談 / 田地賣買の事
田地賣買のこと東照宮の御制禁なりと云ふ、是は百姓の田地を賣りて町人になるを制し玉ひし歟、さなくば古の口分田のことを取違へて、其時分の學者の申したることなるべし、田宅家財奴隷は、賣買すること古法なり、田宅も奴隷も家財なれば、賣買になくて叶はざることなり、口分田と云ふは古令の定めに、男子二十才にて、口分田を賜はり、六十一才にて之を返す、口分田は公儀に返すべきものなる故賣買することならす、永業田と云ふは永く其の家に持傳へたる田なり、是は賜田たりと雖も賣買すと云へり、此の法を以て見るときは百姓の田地は面々に金を出して買たるものなれは之を賣ること定まりたる道理なり、夫を賣せぬと云ふこと甚しき無理なり、無理なる法を立んとする故、或は讓りたるなどゝ名を付け、或は借金の手形を拵へ、種々の僞り是より起る、奉行も僞りと知りながら法を立んために是を許すことに成る、畢竟は民に僞りを敎ゆることに成るなり、
新字:田地売買のこと東照宮の御制禁なりと云ふ、是は百姓の田地を売りて町人になるを制し玉ひし歟、さなくば古の口分田のことを取違へて、其時分の学者の申したることなるべし、田宅家財奴隷は、売買すること古法なり、田宅も奴隷も家財なれば、売買になくて叶はざることなり、口分田と云ふは古令の定めに、男子二十才にて、口分田を賜はり、六十一才にて之を返す、口分田は公儀に返すべきものなる故売買することならす、永業田と云ふは永く其の家に持伝へたる田なり、是は賜田たりと雖も売買すと云へり、此の法を以て見るときは百姓の田地は面々に金を出して買たるものなれは之を売ること定まりたる道理なり、夫を売せぬと云ふこと甚しき無理なり、無理なる法を立んとする故、或は譲りたるなどゝ名を付け、或は借金の手形を拵へ、種々の偽り是より起る、奉行も偽りと知りながら法を立んために是を許すことに成る、畢竟は民に偽りを教ゆることに成るなり、
書き下し
田地売買のこと東照宮の御制禁なりと云ふ、是は百姓の田地を売りて町人になるを制し玉ひし歟、さなくば古の口分田のことを取違へて、其時分の学者の申したることなるべし、田宅家財奴隷は、売買すること古法なり、田宅も奴隷も家財なれば、売買になくて叶はざることなり、口分田と云ふは古令の定めに、男子二十才にて、口分田を賜はり、六十一才にて之を返す、口分田は公儀に返すべきものなる故売買することならす、永業田と云ふは永く其の家に持伝へたる田なり、是は賜田たりと雖も売買すと云へり、此の法を以て見るときは百姓の田地は面々に金を出して買たるものなれは之を売ること定まりたる道理なり、夫を売せぬと云ふこと甚しき無理なり、無理なる法を立んとする故、或は譲りたるなどゝ名を付け、或は借金の手形を拵へ、種々の偽り是より起る、奉行も偽りと知りながら法を立んために是を許すことに成る、畢竟は民に偽りを教ゆることに成るなり、
現代語訳
田地の売買は東照宮(家康公)の御制禁であるという。これは百姓が田地を売って町人になるのを禁じられたのか、そうでなければ古の口分田のことを取り違えて、その時分の学者が申したことであろう。田宅・家財・奴隷を売買するのは古法である。田宅も奴隷も家財であるから、売買がなくては叶わないことである。口分田というのは古令の定めで、男子は二十歳で口分田を賜り、六十一歳でこれを返す。口分田は公儀に返すべきものであるから売買はできない。永業田というのは長くその家に持ち伝えている田である。これは賜った田であっても売買するという。この法から見れば、百姓の田地は各々が金を出して買ったものであるから、これを売るのは当然の道理である。それを売らせないというのは甚だしい無理である。無理な法を立てようとするから、あるいは「譲った」などと名を付け、あるいは借金の手形を拵えて、種々の偽りがここから起こる。奉行も偽りと知りながら、法を立てるためにこれを許すことになる。結局は民に偽りを教えることになるのである。
解説
この章句が説くこと
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