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政談 / 刑罰の事

其內にも尙罪の疑はしき計りに用ゆれは、罪の决定したるは假令金ありて金を出して詫ひたく思へ共叶はぬ故過料の方次になり、刑法の方重になる仔細にて上の御慈悲になる也、初より金を出さすると云ふこと殊のほかに下輩なる仕かたにて民の心に服し易きこと也、當時公儀にて此法取行はるれとも下心に尤と存せすと見えて諸大名にては之を執行はす、公儀の御作法を諸大名の眞似たも宜しからさることなり、此以後諸大名にても公儀を眞似て刑法を執行はゝ御國に至りては必ず不埒出來すへし、其仔細は當時諸大名困究甚しけれは必す非道の過料を取るへし、惣して金銀のことにては人の爭ひも怨みも出來るものなり、年貢抔は昔より强くも取ることもあれども、先年伯嗜安藝肥後にては年貢のことにて百姓一揆程のことありしと承はる、質地の捌き御役人のかるはづみに申し出てたることの行れて山形にては事出來せり、右の過料は異國にも日本にも古例なきことなれば、遠國の人は必す心服すまじきことなり、當時世界の奢り甚しきより諸々の惡事生する故、上に儉約を御用ひ遊はさるれは、御役人どもは金を御好み成さるゝと了簡したるやらん、宜からさる事を申し立てゝ取行ふことあるなり、

新字:其内にも尚罪の疑はしき計りに用ゆれは、罪の決定したるは仮令金ありて金を出して詫ひたく思へ共叶はぬ故過料の方次になり、刑法の方重になる仔細にて上の御慈悲になる也、初より金を出さすると云ふこと殊のほかに下輩なる仕かたにて民の心に服し易きこと也、当時公儀にて此法取行はるれとも下心に尤と存せすと見えて諸大名にては之を執行はす、公儀の御作法を諸大名の真似たも宜しからさることなり、此以後諸大名にても公儀を真似て刑法を執行はゝ御国に至りては必ず不埒出来すへし、其仔細は当時諸大名困究甚しけれは必す非道の過料を取るへし、惣して金銀のことにては人の争ひも怨みも出来るものなり、年貢抔は昔より強くも取ることもあれども、先年伯嗜安芸肥後にては年貢のことにて百姓一揆程のことありしと承はる、質地の捌き御役人のかるはづみに申し出てたることの行れて山形にては事出来せり、右の過料は異国にも日本にも古例なきことなれば、遠国の人は必す心服すまじきことなり、当時世界の奢り甚しきより諸々の悪事生する故、上に倹約を御用ひ遊はさるれは、御役人どもは金を御好み成さるゝと了簡したるやらん、宜からさる事を申し立てゝ取行ふことあるなり、

書き下し

其内にも尚罪の疑はしき計りに用ゆれは、罪の決定したるは仮令金ありて金を出して詫ひたく思へ共叶はぬ故過料の方次になり、刑法の方重になる仔細にて上の御慈悲になる也、初より金を出さすると云ふこと殊のほかに下輩なる仕かたにて民の心に服し易きこと也、当時公儀にて此法取行はるれとも下心に尤と存せすと見えて諸大名にては之を執行はす、公儀の御作法を諸大名の真似たも宜しからさることなり、此以後諸大名にても公儀を真似て刑法を執行はゝ御国に至りては必ず不埒出来すへし、其仔細は当時諸大名困究甚しけれは必す非道の過料を取るへし、惣して金銀のことにては人の争ひも怨みも出来るものなり、年貢抔は昔より強くも取ることもあれども、先年伯嗜安芸肥後にては年貢のことにて百姓一揆程のことありしと承はる、質地の捌き御役人のかるはづみに申し出てたることの行れて山形にては事出来せり、右の過料は異国にも日本にも古例なきことなれば、遠国の人は必す心服すまじきことなり、当時世界の奢り甚しきより諸々の悪事生する故、上に倹約を御用ひ遊はさるれは、御役人どもは金を御好み成さるゝと了簡したるやらん、宜からさる事を申し立てゝ取行ふことあるなり、

現代語訳

そのうえでもなお罪の疑わしいものだけに(贖いを)用いれば、罪が決定したものは、たとえ金があって金を出して詫びたいと思っても叶わないので、過料のほうが従になり、刑法のほうが主になるわけで、上の御慈悲となるのである。初めから金を出させるというのは、ことのほか品のないやり方で、民の心に「服し易き」(原文のまま)ことである。今、公儀ではこの法が行われているが、内心ではもっともだと思っていないと見えて、諸大名はこれを行っていない。公儀の作法を諸大名が真似るのもよろしくないことである。今後、諸大名も公儀を真似てこの刑法を行えば、その国々では必ず不始末が起こるだろう。その訳は、今は諸大名の困窮が甚だしいので、必ず非道な過料を取るだろうからである。総じて金銀のことでは人の争いも恨みも起こるものである。年貢なども昔から強く取ることもあったが、先年、伯耆・安芸・肥後では年貢のことで百姓一揆ほどのことがあったと聞く。質地の裁きも、役人が軽はずみに申し出たことが行われて、山形では騒動が起きた。右の過料は異国にも日本にも古例のないことなので、遠国の人は決して心服しないだろう。今は世の中の奢りが甚だしいことから諸々の悪事が生じるので、上が倹約をお用いになると、役人たちは上が金をお好みなさると了解したのであろうか、よろしくないことを申し立てて行うことがあるのである。

解説

刑を主、贖いを従とすれば刑法の名目が立つが、初めから金を出させるのは品のないやり方だと徂徠は断じる。諸大名がこれを真似れば、困窮のあまり非道な過料を取るだろうと予見し、伯耆・安芸・肥後の年貢をめぐる騒ぎや山形の質地騒動を引いて、金銭の争いが恨みを生むと警告する。倹約を命じた上の意図を、役人が「金を好まれる」と取り違えたのだろうという観察も鋭い。トップの方針は現場で歪んで受け取られやすい。現代の組織でも、方針の意図まで丁寧に伝える必要がある。

この章句が説くこと

過料倹約方針恨み刑罰政談

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