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政談 / 刑罰の事

且又御旗本の牢舍すること有は承り及さること也、罪ありて御詮議の内は輕きは親類に御預け也、重きは大名に御預け也、然るに御先々御代の比より御旗本の牢舍多し、此段如何有へき、御詮議未决の內は罪名は未た極らされは牢舍はさすましきこと也、御旗本を下輩にあいしらふは公儀の御耻なるへし、其親類の身に成ても耻かましきことなり、ひたものに耻かましき目に逢てなれこになれは、後は耻を知ぬことになる物也、人はあいしらいによりて善くも惡しくも成こと成に、御役人の心付ぬは悲しきこと也、

新字:且又御旗本の牢舎すること有は承り及さること也、罪ありて御詮議の内は軽きは親類に御預け也、重きは大名に御預け也、然るに御先々御代の比より御旗本の牢舎多し、此段如何有へき、御詮議未決の内は罪名は未た極らされは牢舎はさすましきこと也、御旗本を下輩にあいしらふは公儀の御耻なるへし、其親類の身に成ても耻かましきことなり、ひたものに耻かましき目に逢てなれこになれは、後は耻を知ぬことになる物也、人はあいしらいによりて善くも悪しくも成こと成に、御役人の心付ぬは悲しきこと也、

書き下し

且又御旗本の牢舎すること有は承り及さること也、罪ありて御詮議の内は軽きは親類に御預け也、重きは大名に御預け也、然るに御先々御代の比より御旗本の牢舎多し、此段如何有へき、御詮議未決の内は罪名は未た極らされは牢舎はさすましきこと也、御旗本を下輩にあいしらふは公儀の御耻なるへし、其親類の身に成ても耻かましきことなり、ひたものに耻かましき目に逢てなれこになれは、後は耻を知ぬことになる物也、人はあいしらいによりて善くも悪しくも成こと成に、御役人の心付ぬは悲しきこと也、

現代語訳

また、御旗本が牢に入れられることは(昔は)聞いたことがない。罪があって取り調べの間は、軽いものは親類に預け、重いものは大名に預けた。ところが先々代の頃から旗本の入牢が多い。これはいかがなものか。取り調べが決着しないうちは罪名もまだ決まっていないのだから、入牢させるべきではない。旗本を下々の者のように扱うのは公儀の恥であろう。その親類の身になっても恥ずかしいことである。ひたすら恥ずかしい目に遭って慣れっこになれば、後には恥を知らなくなるものだ。人は扱われ方によって善くも悪くもなるのに、役人がそれに気づかないのは悲しいことである。

解説

取り調べ中の旗本を牢に入れることに徂徠は反対する。罪名が決まらないうちに下輩と同じ扱いをするのは公儀の恥であり、恥ずかしい目に慣れた人はやがて恥を知らなくなるというのである。「人はあいしらいによりて善くも悪しくも成る」という一句は、徂徠の人材論の核心に通じる。人は扱われ方に応じて振る舞いを変えるものである。現代でも、疑いの段階で人を犯人扱いすれば、本人の誇りも周囲の信頼も損なわれる。処遇の仕方そのものが人を育てもし、壊しもすることを、管理する側は心に留めたい。

この章句が説くこと

処遇恥人材育成刑罰政談

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