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政談 / 刑罰の事

偖流罪御預けの次に牢下改易追放の類なり、牢下と云ことは異國の律にも日本の古もなきことなり、牢舍することは罪の詮議未た濟まさる內のことなり、久く牢に置くことは淹囚とて却て刑罰を司る官人の罪也、其仔細は賂を取り又は私の怨有て無理に落したれとも、實に可申付罪なき故未た詮議することの濟ぬと名を付け牢に入置き牢死さすること多きによりて官人の罪になる也、又公事の裁决に心を用ひずぶらつきて延引に及ぶもあり、何れも其官人の罪になること也、又罪人を牢に入置ひた物に問ひて人を多くさゝすることあり、是亦律の戒にてせすことなり、是は當時も有こと也、律の戒の如く宜からさること也、されとも當時は永牢多く、久く牢舍すれは牢の內にて名主になると云こと有まじきことの第一也、當時奉行の取捌只懲しめの爲に流罪にも牢舍にもして、ひつもの其親類に、訴訟をさせて宥すと云こと通法の樣なり、是により訴訟する人なけれは自から遠流にて果て又は牢下に成也、

新字:偖流罪御預けの次に牢下改易追放の類なり、牢下と云ことは異国の律にも日本の古もなきことなり、牢舎することは罪の詮議未た済まさる内のことなり、久く牢に置くことは淹囚とて却て刑罰を司る官人の罪也、其仔細は賂を取り又は私の怨有て無理に落したれとも、実に可申付罪なき故未た詮議することの済ぬと名を付け牢に入置き牢死さすること多きによりて官人の罪になる也、又公事の裁決に心を用ひずぶらつきて延引に及ぶもあり、何れも其官人の罪になること也、又罪人を牢に入置ひた物に問ひて人を多くさゝすることあり、是亦律の戒にてせすことなり、是は当時も有こと也、律の戒の如く宜からさること也、されとも当時は永牢多く、久く牢舎すれは牢の内にて名主になると云こと有まじきことの第一也、当時奉行の取捌只懲しめの為に流罪にも牢舎にもして、ひつもの其親類に、訴訟をさせて宥すと云こと通法の様なり、是により訴訟する人なけれは自から遠流にて果て又は牢下に成也、

書き下し

偖流罪御預けの次に牢下改易追放の類なり、牢下と云ことは異国の律にも日本の古もなきことなり、牢舎することは罪の詮議未た済まさる内のことなり、久く牢に置くことは淹囚とて却て刑罰を司る官人の罪也、其仔細は賂を取り又は私の怨有て無理に落したれとも、実に可申付罪なき故未た詮議することの済ぬと名を付け牢に入置き牢死さすること多きによりて官人の罪になる也、又公事の裁決に心を用ひずぶらつきて延引に及ぶもあり、何れも其官人の罪になること也、又罪人を牢に入置ひた物に問ひて人を多くさゝすることあり、是亦律の戒にてせすことなり、是は当時も有こと也、律の戒の如く宜からさること也、されとも当時は永牢多く、久く牢舎すれは牢の内にて名主になると云こと有まじきことの第一也、当時奉行の取捌只懲しめの為に流罪にも牢舎にもして、ひつもの其親類に、訴訟をさせて宥すと云こと通法の様なり、是により訴訟する人なけれは自から遠流にて果て又は牢下に成也、

現代語訳

さて流罪・御預けの次は、牢下・改易・追放の類である。牢下ということは、異国の律にも日本の古にもないことである。牢に入れるのは、罪の詮議がまだ済まないうちのことである。久しく牢に置くことは「淹囚」といって、かえって刑罰を司る役人の罪である。そのわけは、賄賂を取ったり、私の恨みがあって無理に罪に落としたりしたが、実際には申し付けるべき罪がないので、まだ詮議が済まないと名を付けて牢に入れておき、牢死させることが多いので、役人の罪になるのである。また訴訟の裁決に心を用いず、ぶらぶらして延引に及ぶこともある。いずれもその役人の罪になることである。また罪人を牢に入れておいて、その者に問うて人を多く名指しさせることがある。これもまた律の戒めでしてはならないことである。これは今もあることである。律の戒めのように、よくないことである。けれども今は永牢が多く、久しく牢にいると牢の中で名主になるということがあるのは、あってはならないことの第一である。今の奉行の取り扱いは、ただ懲らしめのために流罪にも牢舎にもして、その親類に訴訟をさせて許すということが通例のようである。これによって、訴訟する人がいなければ、おのずと遠流で果て、または牢下となるのである。

解説

未決のまま長く牢に留める「淹囚」は、律では役人の罪とされたと徂徠は指摘する。賄賂や私怨で無理に罪に落とし、証拠がないまま牢死させる、裁きを怠って引き延ばす、囚人に他人を名指しさせるといった悪弊を列挙し、親類の嘆願の有無で処遇が決まる運用を批判する。手続きの遅れそのものが不正の温床になるという洞察である。現代でも、調査や処分を宙づりにすることは当事者への不当な罰となる。迅速で公正な手続きを担保する責任は、裁く側にある。

この章句が説くこと

刑罰手続き公正牢舎律役人

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