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政談 / 刑罰の事

公家大名御旗本なとの遠流にさせらるゝことは其身の罪計のことにあらす、其親類に歷々もある故日本の外なる通路も稀なる所へ遣し置きて、耻辱なる目に逢する有樣の聞えぬやうにして、其親類に無念と思はせぬ仕方也、輕者を當時流罪に被仰付こと事の情に合ぬやうなり、町人百姓はても分限なる輩は艱苦をなむること刑にもあたるへし、輕きぼていふり、水呑百姓の類は此方にても元より流人同前の境界なり、艱苦も常なり、大島八丈なとへ行ては江戶に在りし時よりも仕合よき類多しと承はる、常には只何とも〳〵名目計にて刑も實事にはあたらぬやうなり、

新字:公家大名御旗本なとの遠流にさせらるゝことは其身の罪計のことにあらす、其親類に歴々もある故日本の外なる通路も稀なる所へ遣し置きて、耻辱なる目に逢する有様の聞えぬやうにして、其親類に無念と思はせぬ仕方也、軽者を当時流罪に被仰付こと事の情に合ぬやうなり、町人百姓はても分限なる輩は艱苦をなむること刑にもあたるへし、軽きぼていふり、水呑百姓の類は此方にても元より流人同前の境界なり、艱苦も常なり、大島八丈なとへ行ては江戸に在りし時よりも仕合よき類多しと承はる、常には只何とも〳〵名目計にて刑も実事にはあたらぬやうなり、

書き下し

公家大名御旗本なとの遠流にさせらるゝことは其身の罪計のことにあらす、其親類に歴々もある故日本の外なる通路も稀なる所へ遣し置きて、耻辱なる目に逢する有様の聞えぬやうにして、其親類に無念と思はせぬ仕方也、軽者を当時流罪に被仰付こと事の情に合ぬやうなり、町人百姓はても分限なる輩は艱苦をなむること刑にもあたるへし、軽きぼていふり、水呑百姓の類は此方にても元より流人同前の境界なり、艱苦も常なり、大島八丈なとへ行ては江戸に在りし時よりも仕合よき類多しと承はる、常には只何とも〳〵名目計にて刑も実事にはあたらぬやうなり、

現代語訳

公家・大名・御旗本などを遠流にされるのは、その身の罪だけのことではない。その親類に歴々の者もいるので、日本の外で通路もまれな所へ遣わして置いて、恥辱を受けるありさまが聞こえないようにして、その親類に無念と思わせない仕方である。身分の軽い者を今、流罪に仰せ付けるのは、事の情に合わないようである。町人・百姓でも裕福な者は、艱苦をなめることが刑にも当たるだろう。身分の軽い棒手振りや水呑み百姓の類は、こちらにいてももとより流人同然の境遇である。艱苦も常のことである。大島・八丈などへ行って、江戸にいた時よりも仕合わせのよい類が多いと聞いている。常にただ何とも名目ばかりで、刑も実際には当たらないようである。

解説

貴人の遠流は、本人を罰するだけでなく、その恥辱が親類に聞こえないようにする配慮を含むと徂徠は読む。一方、もともと貧しい者を流罪にしても、江戸より島のほうが暮らしやすい例さえあり、刑罰として機能していないという。同じ罰でも、受ける人の境遇によって重さがまったく違うという指摘である。当時の身分観は時代の制約だが、制裁や評価の仕組みが相手の状況に応じて実際にどう効くかを見ずに、名目だけで運用されていないかを問う視点は今も有効である。

この章句が説くこと

刑罰流罪名目実効身分制度

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