政談 / 强盜の事
夜打ち辻切り追剝は皆强盜なり、古より律のをきてに謀反叛逆の次に必す强盜を出たすこと何故なれば、强盜より一揆は生ずること歷代のしるし皆斯の如くなる故なり、當時の御役人文盲にて古今の事跡に暗き故、强盜の甚た重きことを知らず、此の詮議をろそかなり、律のをきてに强盜の罪は首從を分たす皆斬罪なり、聖人の法にも人をたからに殺すものは罪死を許さゞることなり、此のたぐひのものは仲間有りて御詮議あれば江戶より田舍へ迯げ行き、田舍より他國へ迯け行く、嚴しく御詮議あるべきことなり、田舍に武家居住せざる故兎角御仕置は江戶ばかりのやう也、
新字:夜打ち辻切り追剥は皆強盗なり、古より律のをきてに謀反叛逆の次に必す強盗を出たすこと何故なれば、強盗より一揆は生ずること歴代のしるし皆斯の如くなる故なり、当時の御役人文盲にて古今の事跡に暗き故、強盗の甚た重きことを知らず、此の詮議をろそかなり、律のをきてに強盗の罪は首従を分たす皆斬罪なり、聖人の法にも人をたからに殺すものは罪死を許さゞることなり、此のたぐひのものは仲間有りて御詮議あれば江戸より田舎へ迯げ行き、田舎より他国へ迯け行く、厳しく御詮議あるべきことなり、田舎に武家居住せざる故兎角御仕置は江戸ばかりのやう也、
書き下し
夜打ち辻切り追剥は皆強盗なり、古より律のをきてに謀反叛逆の次に必す強盗を出たすこと何故なれば、強盗より一揆は生ずること歴代のしるし皆斯の如くなる故なり、当時の御役人文盲にて古今の事跡に暗き故、強盗の甚た重きことを知らず、此の詮議をろそかなり、律のをきてに強盗の罪は首従を分たす皆斬罪なり、聖人の法にも人をたからに殺すものは罪死を許さゞることなり、此のたぐひのものは仲間有りて御詮議あれば江戸より田舎へ迯げ行き、田舎より他国へ迯け行く、厳しく御詮議あるべきことなり、田舎に武家居住せざる故兎角御仕置は江戸ばかりのやう也、
現代語訳
夜討ち・辻斬り・追い剥ぎはみな強盗である。昔から律の掟で、謀反・叛逆の次に必ず強盗を挙げるのはなぜかといえば、強盗から一揆は生じることが、歴代の証跡にみなこのようであるからである。今の御役人は学問がなく古今の事跡に暗いので、強盗がはなはだ重いことを知らず、その詮議がおろそかである。律の掟では、強盗の罪は首謀者と従犯を分けず、みな斬罪である。聖人の法にも、財宝のために人を殺す者は死罪を許さないのである。この類の者は仲間があって、御詮議があれば江戸から田舎へ逃げて行き、田舎から他国へ逃げて行く。厳しく御詮議があるべきである。田舎に武家が住んでいないので、とかく御仕置は江戸ばかりのようである。
解説
この章句が説くこと
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『政談』武家旅宿の境遇を改むる事されとも百姓は物入りを嫌ひ、又江戸を恐れて申し出てぬこと田舎の定まりたる情なり、何事も御城下へは知れぬことにて当分は何事もあるましけれとも、飢饉打続きなとせは夜討強盗復田舎に起り盛に成るへし、馬盗人と云ふもの馬を盗みては遠かけをして二日路も脇へ売るなり、夫よりまた先きへ段々に売る故知れぬことなり、此たくひ博奕うちなとは遠方に仲間有りて、仲間と云へは知る人にてなくても、仲間の頼もしづくにて働くことなる故強盗に近きものなり、強盗も遠かけをするものなり、皆一類なり、
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『政談』江戶町中並に武家屋敷の締りの事当時盗賊所々に押入て人を殺し、物を盗み、或は火を付け、或は夜中に人離れたる所に待掛け追剥をし、或ひは年若き浮気なるものども、追剥にてはなく唯々刀を抜き人を追ひ走らかして慰にする類も之あり、並に弃て物のたぐひ知れがたし、或は弃ものあると呼ばゝれば家々騒ぎたち、人を出しそれ〳〵の屋敷前に弃てさせまじきとするばかりにて之を制する人無し、面々の塀の外は往還の通なれば、支配する人なく、道奉行の支配なれども江戸中広き通々を道奉行僅かの支配にて参り届くべきやうなし、盗賊奉行火方の役儀なれども、夥しく広き江戸中を僅か一組二組にては是亦参り届くべきやうなし、中山勘解由などは厳しき男にて、捕ふると直に殺したる故盗賊も静りたり、是御入国初めの仕方、武威を以て威して、悪人の恐れて静まる仕方にて、元より盗賊等を捕へ尽す仕方に非す、其余風残りて斯の如し、
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『政談』江戶町中並に武家屋敷の締りの事都鄙の境なき時は農民次第に商売に変じゆき国貧しくなる物なり、農民変して商人となることは国政の上には古より大に嫌ふことなり、大切の事なり、さて武家屋敷一町々々に木戸を付け夜行を禁じ、大名并に鎗にても持せたる人の外は堅く通すまじきなり、町も此通りすべし、公用並に私用にても急病人産婦に付き医者取りあげ婆々抔の送迎のたぐひは町送りにして通すべし、斯の如くするときは右の様なるさま〳〵の悪事は自から巳むべし、さて盗賊をからめ取ることは都て御先手御持筒等の惣役として更る〳〵江戸中を廻らすべし、其外の武家にても盗賊悪人を搦め取り次第に刑罰の御役人へ渡すべし、手前にて刑罰すること堅くあるべからず、但し手向ひするにより切殺は各へわたるべし、
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『政談』武家旅宿の境遇を改むる事強盗のことは某田舎に罷り在るとき横川村と云ふ所に四郎左衛門と云ふものあり、強盗の頭をしたるものなり、年よりて強盗を已めて後生一三まいに成りて居たるなり、其の者の話にて精しく承はる、百姓の分限なるものは箇様なる者を懇にして身の力とすることなる故、其の近所よりは知りつゝも申し出ぬなり、中山勘解由時代より田舎にも右の様なる悪類絶えたり、是は勘由解一人にて捕へ尽したるにもあらす、唯々矢風に恐れてやみ、又をし国にては公儀にて箇様のあらものを御もちひなさるゝによりて、諸大名もあらけなき取り捌きをしたるよりやみたるなるへし、当時は又博奕打のたくひは盛になりたると承はる、歴代の乱を考ふるに世末になるに随ひて如何様のことになるへきも測り難し、畢竟武家田舎に居らす、関八州明き地のやうになりたる故右の如き悪類もの皆多く関八州の地より出遠国へも働きたることなり、
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『政談』江戶町中並に武家屋敷の締りの事されども夫れよりは上の御政務の筋も移り行き、奉行にも勘解由如き人抦少なく、物ごとに審かに念を入る風になる故、右の如き少なき人数にては、江戸中には引張り足らぬなり、其の上和漢の古法に考ふるに、盗賊悪人を搦め取るは衛士の役なり、当時の与力同心是なり、されども衛士の方にて刑罰を執行ふと云ふことは、和漢の古制に之なきことなり、仔細は刑罰の権その手にありと見れば、賄賂を出して罪を免かれんとすること民の常の情なり、故に衛士は搦らめ取るばかりを役にして、之れを外の刑罰を掌どる役人に渡して、其の役人の方にて咎を糺し殺しも赦しもする事なり、然かるに当時盗賊奉行の方にて、刑罰をすること是れ元来の仕方古法に違ひたるなり、其の上江戸中の武家町方に隠れ居る悪人を知るべきやうなきゆゑ、目あかしとやらん云ふやうなる悪人を囲ひ置きて、夫れにさゝせて御奉公をするより外の仕かたなし、其さし口をするもの元来悪人なれば、さま〳〵の悪事をすること是れ亦兼て能く知れたる筋なれども、元来の仕方行届かざるを改めずして、役儀を仰せ付らるゝ故、御役儀をうけ玉はる人も仕方に困りて斯の如し、
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『政談』博奕打の捌きの事博奕打の捌きに異国の律は引れがたし、当時は博奕打に通りものと云ふものあり、大形強盗と同しやうなるものなり、仲間ありて仕掛にて是非に人の金銀を取るやうにし、勝たるものをば殺すなり、当時棄物と云ふ物ありて、殺したる人の知れぬは多くは右の通りものゝすることなり、田舎に極めて多きことなり、公議より御詮儀あれば田舎へ迯て行き、詮議静まれは又帰る、其の仲間は遠国と通して一枚なるものにて、仮令知る人にてなくとも他国にても仲間にする、男立てを第一にするものなり、強盗の所作に変りなし、律に云ひたる兇徒と云ふものなり、死罪赦されがたし、其の通りものにだまされて博奕を打ちたるものは律の捌きにて相当なるへし、
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