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政談 / 武家旅宿の境遇を改むる事

されとも百姓は物入りを嫌ひ、又江戶を恐れて申し出てぬこと田舍の定まりたる情なり、何事も御城下へは知れぬことにて當分は何事もあるましけれとも、飢饉打續きなとせは夜討强盜復田舍に起り盛に成るへし、馬盜人と云ふもの馬を盜みては遠かけをして二日路も脇へ賣るなり、夫よりまた先きへ段々に賣る故知れぬことなり、此たくひ博奕うちなとは遠方に仲間有りて、仲間と云へは知る人にてなくても、仲間の賴もしづくにて働くことなる故强盜に近きものなり、强盜も遠かけをするものなり、皆一類なり、

新字:されとも百姓は物入りを嫌ひ、又江戸を恐れて申し出てぬこと田舎の定まりたる情なり、何事も御城下へは知れぬことにて当分は何事もあるましけれとも、飢饉打続きなとせは夜討強盗復田舎に起り盛に成るへし、馬盗人と云ふもの馬を盗みては遠かけをして二日路も脇へ売るなり、夫よりまた先きへ段々に売る故知れぬことなり、此たくひ博奕うちなとは遠方に仲間有りて、仲間と云へは知る人にてなくても、仲間の頼もしづくにて働くことなる故強盗に近きものなり、強盗も遠かけをするものなり、皆一類なり、

書き下し

されとも百姓は物入りを嫌ひ、又江戸を恐れて申し出てぬこと田舎の定まりたる情なり、何事も御城下へは知れぬことにて当分は何事もあるましけれとも、飢饉打続きなとせは夜討強盗復田舎に起り盛に成るへし、馬盗人と云ふもの馬を盗みては遠かけをして二日路も脇へ売るなり、夫よりまた先きへ段々に売る故知れぬことなり、此たくひ博奕うちなとは遠方に仲間有りて、仲間と云へは知る人にてなくても、仲間の頼もしづくにて働くことなる故強盗に近きものなり、強盗も遠かけをするものなり、皆一類なり、

現代語訳

けれども百姓は費用のかかることを嫌い、また江戸を恐れて申し出ないのが、田舎の決まった人情である。何事も城下には知られないことで、当分は何事もないだろうが、飢饉が続きなどすれば、夜討ちや強盗がまた田舎に起こって盛んになるだろう。馬盗人というものは、馬を盗んでは遠駆けをして二日路も離れた所へ売るのである。そこからまたその先へ次々と売るので、わからなくなる。この類いや博打打ちなどは遠方に仲間があって、仲間と言えば知り合いでなくても、仲間の頼もしずく(義理立て)で動くので、強盗に近い者である。強盗も遠駆けをするものである。みな一類である。

解説

届け出のない田舎で、広域に連なる悪党の網が育つことを警告した条である。百姓は費用と江戸を恐れて黙り、城下には何も伝わらない。平時は表に出なくても、飢饉が続けば強盗が一気に盛んになると徂徠は見通す。馬盗人も博打打ちも遠方の仲間と結び、知らぬ者同士でも仲間の義理で動く。統治の側が地域ごとに分断されているのに対し、犯罪の側は広く連携しているという非対称の指摘は鋭い。組織の不正も、部署の壁を越えてつながると発見が遅れる。平時のうちに見えない網を把握しておくべきである。

この章句が説くこと

治安危機報告連携田舎飢饉

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