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政談 / 江戶町中並に武家屋敷の締りの事

都鄙の境なき時は農民次第に商賣に變じゆき國貧しくなる物なり、農民變して商人となることは國政の上には古より大に嫌ふことなり、大切の事なり、さて武家屋敷一町々々に木戶を付け夜行を禁じ、大名幷に鎗にても持せたる人の外は堅く通すまじきなり、町も此通りすべし、公用並に私用にても急病人產婦に付き醫者取りあげ婆々抔の送迎のたぐひは町送りにして通すべし、斯の如くするときは右の樣なるさま〳〵の惡事は自から巳むべし、さて盜賊をからめ取ることは都て御先手御持筒等の惣役として更る〳〵江戶中を廻らすべし、其外の武家にても盜賊惡人を搦め取り次第に刑罰の御役人へ渡すべし、手前にて刑罰すること堅くあるべからず、但し手向ひするにより切殺は各へわたるべし、

新字:都鄙の境なき時は農民次第に商売に変じゆき国貧しくなる物なり、農民変して商人となることは国政の上には古より大に嫌ふことなり、大切の事なり、さて武家屋敷一町々々に木戸を付け夜行を禁じ、大名幷に鎗にても持せたる人の外は堅く通すまじきなり、町も此通りすべし、公用並に私用にても急病人産婦に付き医者取りあげ婆々抔の送迎のたぐひは町送りにして通すべし、斯の如くするときは右の様なるさま〳〵の悪事は自から巳むべし、さて盗賊をからめ取ることは都て御先手御持筒等の惣役として更る〳〵江戸中を廻らすべし、其外の武家にても盗賊悪人を搦め取り次第に刑罰の御役人へ渡すべし、手前にて刑罰すること堅くあるべからず、但し手向ひするにより切殺は各へわたるべし、

書き下し

都鄙の境なき時は農民次第に商売に変じゆき国貧しくなる物なり、農民変して商人となることは国政の上には古より大に嫌ふことなり、大切の事なり、さて武家屋敷一町々々に木戸を付け夜行を禁じ、大名并に鎗にても持せたる人の外は堅く通すまじきなり、町も此通りすべし、公用並に私用にても急病人産婦に付き医者取りあげ婆々抔の送迎のたぐひは町送りにして通すべし、斯の如くするときは右の様なるさま〳〵の悪事は自から巳むべし、さて盗賊をからめ取ることは都て御先手御持筒等の惣役として更る〳〵江戸中を廻らすべし、其外の武家にても盗賊悪人を搦め取り次第に刑罰の御役人へ渡すべし、手前にて刑罰すること堅くあるべからず、但し手向ひするにより切殺は各へわたるべし、

現代語訳

都と田舎の境がないときは、農民がしだいに商売に転じてゆき、国が貧しくなるものである。農民が変じて商人となることは、国の政治のうえで昔から大いに嫌うことである。大切なことである。さて武家屋敷は一町ごとに木戸をつけて夜歩きを禁じ、大名ならびに槍でも持たせた身分の人のほかは、堅く通してはならない。町もこのとおりにすべきである。公用、また私用でも急病人や産婦のための医者や取り上げ婆の送り迎えの類は、町から町へ送り継いで通すべきである。このようにすれば、先に述べたさまざまな悪事は自然とやむだろう。さて盗賊を捕らえることは、すべて御先手・御持筒などの総役として、交代で江戸中を見回らせるべきである。そのほかの武家でも、盗賊や悪人を捕らえしだい刑罰の役人に渡すべきで、自分の手で刑罰することは決してあってはならない。ただし手向かいしたために斬り殺すのは、それぞれに任せてよい。

解説

境のない都市は農民を商人に変え、国を貧しくすると徂徠は言う。本を農、末を工商とする重農の考えで、政談の底を流れる「旅宿の境界」批判の入口でもある。続いて夜間通行の制限と急病人・産婦の送り継ぎという例外規定、盗賊の捕縛は御先手・御持筒の輪番とし、刑罰は必ず専門の役人へ渡すという手順を定める。原則と例外、捕縛と処罰の分担を明記する書きぶりは、そのまま規程づくりの手本になる。規則を作るときは、例外の通り道も同時に設計しておきたい。

この章句が説くこと

農本商人例外規程分担夜行

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