政談 / 養子の事
これよりして筋もなきもの金にて人の跡を買ひ、町人小ふしん手代座頭のたぐひの御旗本に混するたぐひ其の數を知らす、先祖の奉公によりて賜はりたる知行を外のものに遣はさるへきやうなし、聟養子になると云ふこと元來男の所存あらんものゝすへきことにあらす、武家の妻女に法外のことあるも聟養子の家に有ることなり、但し上の御取り立にて立身したるものゝ子なく、同姓の親類もなきには先祖に對する筋にあらされは、上の思召にて他苗を養子に下さるゝことも苦しかるまじき也、其の時は古例に任せ苗字ばかり養父の苗字を名のり、姓は其の者の本性たるへし、惣して他苗の相續を許さぬことは聖人の法にて深意あることなり、國家の治めに付きて仔細あること筆紙に記し難し、
新字:これよりして筋もなきもの金にて人の跡を買ひ、町人小ふしん手代座頭のたぐひの御旗本に混するたぐひ其の数を知らす、先祖の奉公によりて賜はりたる知行を外のものに遣はさるへきやうなし、婿養子になると云ふこと元来男の所存あらんものゝすへきことにあらす、武家の妻女に法外のことあるも婿養子の家に有ることなり、但し上の御取り立にて立身したるものゝ子なく、同姓の親類もなきには先祖に対する筋にあらされは、上の思召にて他苗を養子に下さるゝことも苦しかるまじき也、其の時は古例に任せ苗字ばかり養父の苗字を名のり、姓は其の者の本性たるへし、惣して他苗の相続を許さぬことは聖人の法にて深意あることなり、国家の治めに付きて仔細あること筆紙に記し難し、
書き下し
これよりして筋もなきもの金にて人の跡を買ひ、町人小ふしん手代座頭のたぐひの御旗本に混するたぐひ其の数を知らす、先祖の奉公によりて賜はりたる知行を外のものに遣はさるへきやうなし、婿養子になると云ふこと元来男の所存あらんものゝすへきことにあらす、武家の妻女に法外のことあるも婿養子の家に有ることなり、但し上の御取り立にて立身したるものゝ子なく、同姓の親類もなきには先祖に対する筋にあらされは、上の思召にて他苗を養子に下さるゝことも苦しかるまじき也、其の時は古例に任せ苗字ばかり養父の苗字を名のり、姓は其の者の本性たるへし、惣して他苗の相続を許さぬことは聖人の法にて深意あることなり、国家の治めに付きて仔細あること筆紙に記し難し、
現代語訳
このことから、由緒もない者が金で人の跡目を買い、町人・小普請の者・手代・座頭の類が御旗本に紛れ込むことは数知れない。先祖の奉公によって賜った知行を、外の者に与えてよいはずがない。婿養子になるということは、もともと男としての考えのある者がすべきことではない。武家の妻女に法外なふるまいがあるのも、婿養子の家にあることである。ただし、上のお取り立てで出世した者に子がなく、同姓の親類もない場合には、先祖に対する筋目の問題ではないから、上のお考えで他姓の者を養子に下されることも差し支えないだろう。そのときは古例に従い、苗字だけ養父の苗字を名のらせ、姓はその者の本来の姓とすべきである。総じて他姓の相続を許さないのは聖人の法で、深い意味がある。国家の治めについて細かな事情があり、筆や紙には書き尽くしがたい。
解説
この章句が説くこと
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