孫子 / 九地篇
施無法之賞,懸無政之令。犯三軍之衆,若使一人。犯之以事,勿告以言;犯之以利,勿告以害。
書き下し
法に無きの賞を施し、政に無きの令を懸く。三軍の衆を犯すこと、一人を使うが若し。之を犯すに事を以てし、告ぐるに言を以てすること勿かれ。之を犯すに利を以てし、告ぐるに害を以てすること勿かれ。
現代語訳
規定にない賞を与え、通常の政令にない命令を掲げる。全軍を動かすのに、一人を使うようにする。仕事を与えて動かし、言葉で説明しすぎない。利益を示して動かし、害のほうは告げない。
解説
非常時における例外の運用を述べている。規定にない賞、政令にない命令——平時の制度を超えて動く権限が将にはある、という主張である。後半の「言を以て告ぐること勿かれ」は情報統制の話で、現代の組織倫理からすればそのまま採用できない部分もある。ただし前半には学ぶところが多い。制度の範囲でしか報いられない組織は、非常時に人を動かせない。想定外の働きに、想定外の報い方ができるかどうかは、規定ではなく決裁する者の覚悟の問題である。

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例外賞罰非常時権限運用
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『韓非子』忠孝第五十一古者黔首は悗密惷愚なり、故に虚名を以て取るべきなり。今民は儇詗智慧にして、自ら用ひんと欲し、上に聽かず。上必ず且に之を勸むるに賞を以てし、然る後に進むべし。又且に之を畏れしむるに罰を以てし、然る後に敢へて退かず。而して世皆曰く、「許由天下を讓る、賞以て勸むるに足らず。盜跖刑を犯し難に赴く、罰以て禁ずるに足らず」と。臣曰く、未だ天下を有たずして天下を以て爲す無き者は、許由是れなり。已に天下を有ちて天下を以て爲す無き者は、堯・舜是れなり。廉を毁ちて財を求め、刑を犯して利に趨り、身の死を忘るる者は、盜跖是れなり。此の二者は、殆物なり。國を治め民を用ふるの道や、此の二者を以て量と爲さず。治なる者は、常を治むる者なり。道なる者は、常を道とする者なり。殆物妙言は、治の害なり。天下太上の士は、賞を以て勸むべからざるなり。天下太下の士は、刑を以て禁ずべからざるなり。然れども太上の士の爲に賞を設けず、太下の士の爲に刑を設けざれば、則ち國を治め民を用ふるの道失はる。故に世人多く國法を言はずして從横を言ふ。諸侯の從を言ふ者は曰く「從成れば必ず霸たり」と、而して横を言ふ者は曰く「横成れば必ず王たり」と。山東の從横を言ふこと未だ嘗て一日も止まざるなり、然り而して功名成らず、霸主立たざる者は、虚言は治を成す所以に非ざればなり。
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『重職心得箇条』第九条刑賞与奪の権は、人主のものにして、大臣是れ預かるべきなり。倒(さかし)まに有司に授くべからず。斯くの如き大事に至っては、厳敷(きびし)く透間あるべからず。
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『韓非子』喻老第二十一簡公は之を田成に失ひ、晋公は之を六卿に失ひて、邦亡び身死す。故に曰く、「魚は深淵より脱すべからず」と。賞罰は邦の利器なり。君に在れば則ち臣を制し、臣に在れば則ち君に勝つ。君、賞を見せば、臣は則ち之を損じて以て徳と為し、君、罰を見せば、臣は則ち之を益して以て威と為す。
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『韓非子』外儲説右下第三十五一。賞罰共にすれば則ち禁令行はれず。何を以て之を明らかにする。之を明らかにするに造父・於期を以てす。
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『韓非子』喻老第二十一人君賞を見(あらわ)せば、人臣其の勢を用ひ、人君罰を見せば、人臣其の威に乘ず。故に曰く、「邦の利器は、以て人に示す可からず」と。越王は吴に入りて宦(つか)へ、之に齊を伐たしめて以て吳を弊(つか)らす。吳兵既に齊人に艾陵に勝ち、之を江・濟に張り、之を黄池に強くす、故に五湖に制す可かりき。
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尉繚子・束伍令束伍の令に曰く、五人を伍と為し、一符を共にし、将吏の所に収む。伍を亡ひて伍を得る者は、之に当つ。伍を得て亡はざれば、賞有り。伍を亡ひて伍を得ざれば、身は死し家は残はる。長を亡ひて長を得れば、之に当つ。長を得て亡はざれば、賞有り。長を亡ひて長を得ざれば、身は死し家は残はる。復た戦ひて首長を得れば、之を除く。将を亡ひて将を得れば、之に当つ。将を得て亡はざれば、賞有り。将を亡ひて将を得ざれば、地を離れ遁逃するの法に坐す。戦誅の法に曰く、什長は十人を誅するを得、伯長は十長を誅するを得、千人の将は百人の長を誅するを得、万人の将は千人の将を誅するを得、左右将軍は万人の将を誅するを得、大将軍は誅するを得ざる無し。