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政談 / 誓詞の事

當時誓詞と云ふこと盛にて御作法の樣に成り、役替のたびに誓詞をし、駕籠の誓詞又は病氣のことはりに誓文狀を出たすこと宜しからさることなり、聖人の法に誓詞は出神の前にすることなり、それも軍兵にさすることには非らす、大將より士卒へ向ひて賞罰を約束の如く少しも違へまじきと云ふ誓言なり、惣して末永きことには誓詞は守られぬもの也、永きことには氣たゆみ失念も有て誓詞を破ることあるものなる故、誓詞は一たんの事に限るへし、其上度々誓詞をすれはなれこに成りて神明を恐るゝ心薄く成る故、却て僞りを敎ゆるなか立ちとなる、誓詞と云ふことも世間になくて叶はさることなるに、誓詞を破るやうにするは宜しからざることなり、一たんのことに用ゆるは人の心を堅くして、誓詞の德あり、

新字:当時誓詞と云ふこと盛にて御作法の様に成り、役替のたびに誓詞をし、駕籠の誓詞又は病気のことはりに誓文状を出たすこと宜しからさることなり、聖人の法に誓詞は出神の前にすることなり、それも軍兵にさすることには非らす、大将より士卒へ向ひて賞罰を約束の如く少しも違へまじきと云ふ誓言なり、惣して末永きことには誓詞は守られぬもの也、永きことには気たゆみ失念も有て誓詞を破ることあるものなる故、誓詞は一たんの事に限るへし、其上度々誓詞をすれはなれこに成りて神明を恐るゝ心薄く成る故、却て偽りを教ゆるなか立ちとなる、誓詞と云ふことも世間になくて叶はさることなるに、誓詞を破るやうにするは宜しからざることなり、一たんのことに用ゆるは人の心を堅くして、誓詞の徳あり、

書き下し

当時誓詞と云ふこと盛にて御作法の様に成り、役替のたびに誓詞をし、駕籠の誓詞又は病気のことはりに誓文状を出たすこと宜しからさることなり、聖人の法に誓詞は出神の前にすることなり、それも軍兵にさすることには非らす、大将より士卒へ向ひて賞罰を約束の如く少しも違へまじきと云ふ誓言なり、惣して末永きことには誓詞は守られぬもの也、永きことには気たゆみ失念も有て誓詞を破ることあるものなる故、誓詞は一たんの事に限るへし、其上度々誓詞をすれはなれこに成りて神明を恐るゝ心薄く成る故、却て偽りを教ゆるなか立ちとなる、誓詞と云ふことも世間になくて叶はさることなるに、誓詞を破るやうにするは宜しからざることなり、一たんのことに用ゆるは人の心を堅くして、誓詞の徳あり、

現代語訳

今は誓詞ということが盛んで、作法のようになり、役替えのたびに誓詞をし、駕籠(に乗る許し)の誓詞や、病気の届けに誓文状を出すのはよくないことである。聖人の法では、誓詞は神の前でするものである。それも兵士にさせるものではない。大将から士卒に向かって、賞罰を約束どおり少しも違えないという誓いの言葉である。総じて長く続くことには、誓詞は守られないものである。長いことには気のゆるみや失念もあって、誓詞を破ることがあるものだから、誓詞は一時のことに限るべきである。そのうえ度々誓詞をすれば慣れっこになって、神明を恐れる心が薄くなるので、かえって偽りを教える仲立ちとなる。誓詞ということも世の中になくてはならないものなのに、誓詞を破るようにするのはよくないことである。一時のことに用いれば、人の心を堅くして、誓詞の徳がある。

解説

役替えや病気の届けのたびに誓詞を書かせる風潮を徂徠は退ける。聖人の法では、誓いは大将が士卒に賞罰の約束を違えないと神前で誓うものであり、下に誓わせるものではなかった。長く続くことの誓いは気のゆるみで破られ、度々誓えば神を恐れる心が薄れて、かえって偽りを教えることになる。誓いは一時のことに限ってこそ人の心を堅くするという。乱発される誓約書や同意書が形骸化し、守られないことに慣れさせていないか、約束の重みの保ち方を考えさせる段である。

この章句が説くこと

誓詞約束信頼賞罰形骸化政談

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