導師導古典を学びたいすべての人に

政談 / 能の事

さて御うたひ初は重もき御規式なれは、この節ばかり猿樂を用ゆるやうにし、猿樂は先規の如く御暇下され次第奈良へのほるへきことなり、かの輩も御先々前御代より御暇下されても皆御城下に滯留してのほらす、その節は能はやりたる故渡世も豐かなれとも、今は渡世に殊の外難義するたくひ多し、されとも年久しく御城下に住して、今は御城下を常住に定めぬれは、奈良へものほらす、しちやうにかゝりたるやうなるてい、所を失ひたる有樣也、

新字:さて御うたひ初は重もき御規式なれは、この節ばかり猿楽を用ゆるやうにし、猿楽は先規の如く御暇下され次第奈良へのほるへきことなり、かの輩も御先々前御代より御暇下されても皆御城下に滞留してのほらす、その節は能はやりたる故渡世も豊かなれとも、今は渡世に殊の外難義するたくひ多し、されとも年久しく御城下に住して、今は御城下を常住に定めぬれは、奈良へものほらす、しちやうにかゝりたるやうなるてい、所を失ひたる有様也、

書き下し

さて御うたひ初は重もき御規式なれは、この節ばかり猿楽を用ゆるやうにし、猿楽は先規の如く御暇下され次第奈良へのほるへきことなり、かの輩も御先々前御代より御暇下されても皆御城下に滞留してのほらす、その節は能はやりたる故渡世も豊かなれとも、今は渡世に殊の外難義するたくひ多し、されとも年久しく御城下に住して、今は御城下を常住に定めぬれは、奈良へものほらす、しちやうにかゝりたるやうなるてい、所を失ひたる有様也、

現代語訳

さて、御謡初めは重い儀式であるから、この時だけ猿楽を用いるようにし、猿楽の者は先例のとおり、お暇を下され次第に奈良へ上るべきである。あの者たちも、先々前代の御代からお暇を下されても皆御城下に滞留して上らない。そのころは能がはやったので暮らしも豊かであったが、今は暮らしにことのほか難儀する者が多い。けれども年久しく御城下に住んで、今は御城下を定住の地と決めてしまったので、奈良へも上らず、質入れされたかのような様子で、居場所を失ったありさまである。

解説

能の改革案の結びとして、徂徠は謡初めの重い儀式だけに猿楽を用い、役者は先例どおり奈良へ帰すべきだという。能がはやった時代に江戸へ集まった役者たちは、需要が去った今も帰れず、生計に苦しんでいる。制度を変えるとき、そこで暮らしを立てている人々の行き場まで目を配っている点に注目したい。事業の縮小や撤退を決めるとき、関わってきた人々の生活をどう扱うかは、組織の誠実さが問われる場面である。

この章句が説くこと

撤退儀式生計猿楽先例政談

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る