導師導古典を学びたいすべての人に

政談 / 諸役人閑暇にして政務に工夫を用ひ身を踏込むべき事

執政の面々さへ斯の如くなる故、自餘の役人は皆此の風と今はなりたり、餘りのことに當時は御奉公の筋にてもなく、傍輩中へ自分の見舞にありくを勤めと名を付けて云ふやうに成りたり、某し田舍より出たる砌り聞きなれぬ時は、腹の皮痛くをかしくてこらへかねたり、是皆忙しげに出ありくを肝心のことに覺ゆる故、斯の如き言葉も風俗に連れて出來たり、

新字:執政の面々さへ斯の如くなる故、自余の役人は皆此の風と今はなりたり、余りのことに当時は御奉公の筋にてもなく、傍輩中へ自分の見舞にありくを勤めと名を付けて云ふやうに成りたり、某し田舎より出たる砌り聞きなれぬ時は、腹の皮痛くをかしくてこらへかねたり、是皆忙しげに出ありくを肝心のことに覚ゆる故、斯の如き言葉も風俗に連れて出来たり、

書き下し

執政の面々さへ斯の如くなる故、自余の役人は皆此の風と今はなりたり、余りのことに当時は御奉公の筋にてもなく、傍輩中へ自分の見舞にありくを勤めと名を付けて云ふやうに成りたり、某し田舎より出たる砌り聞きなれぬ時は、腹の皮痛くをかしくてこらへかねたり、是皆忙しげに出ありくを肝心のことに覚ゆる故、斯の如き言葉も風俗に連れて出来たり、

現代語訳

政務をとる重役でさえこのありさまなので、ほかの役人は今では皆この風になってしまった。あまりのことに、今では奉公の筋でもなく、同僚のところへ自分のための挨拶に出歩くことを「勤め」と名づけて呼ぶようになった。私が田舎から出てきたばかりで聞き慣れなかったころは、腹の皮がよじれるほどおかしくて、こらえきれなかった。これは皆、忙しそうに出歩くのを肝心のことと思い込んでいるから、こうした言葉も風俗に連れてできてしまったのである。

解説

上の者の風が下へ移り、同僚への挨拶回りまでが「勤め」と呼ばれるようになった世相を、徂徠は笑いを交えて描く。若いころ田舎暮らしをした自分には、その言葉遣いが滑稽でならなかったという回想も添えられている。言葉は風俗につれて生まれ、やがてその風俗を当然のものにしてしまう。徂徠が名と実のずれに敏感なのは、古文辞学で言葉を重んじた姿勢とも通じる。社内の根回しや顔出しを「仕事」と呼んでいないか、言葉の使い方から職場の実態を点検してみる価値がある。

この章句が説くこと

風俗勤め言葉役人名実政談

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る