導師導古典を学びたいすべての人に

政談 / 諸役人に器量を選ふ事

惣じて下より上へは物は申しにくきもの也、されども道理のさとき人は道理に乗て申す事もあり、又上の御爲めを大切とはまりぬるにて申すこともあり、又た一旦上意遁れがたくしてたまさか申すこともあれとも、其塲を立ち去らば夜の寢醒めなとには偖も今日は詮もなきことを申したる物や、上の御咎めも測りがたし、御老中又頭の氣に障りて、身の害となるへしと思へは、毎度後悔出つるは人情の常なり、斯の如き時は此のもの後悔の出つるか重なりて、後は皆もの云ぬことになるなり、

新字:惣じて下より上へは物は申しにくきもの也、されども道理のさとき人は道理に乗て申す事もあり、又上の御為めを大切とはまりぬるにて申すこともあり、又た一旦上意遁れがたくしてたまさか申すこともあれとも、其塲を立ち去らば夜の寝醒めなとには偖も今日は詮もなきことを申したる物や、上の御咎めも測りがたし、御老中又頭の気に障りて、身の害となるへしと思へは、毎度後悔出つるは人情の常なり、斯の如き時は此のもの後悔の出つるか重なりて、後は皆もの云ぬことになるなり、

書き下し

惣じて下より上へは物は申しにくきもの也、されども道理のさとき人は道理に乗て申す事もあり、又上の御為めを大切とはまりぬるにて申すこともあり、又た一旦上意遁れがたくしてたまさか申すこともあれとも、其塲を立ち去らば夜の寝醒めなとには偖も今日は詮もなきことを申したる物や、上の御咎めも測りがたし、御老中又頭の気に障りて、身の害となるへしと思へは、毎度後悔出つるは人情の常なり、斯の如き時は此のもの後悔の出つるか重なりて、後は皆もの云ぬことになるなり、

現代語訳

総じて下から上へは物は申しにくいものである。けれども道理にさとい人は道理に乗って申すこともあり、また上の御ためを大切と思いつめて申すこともあり、また一度上意を逃れがたくて、たまたま申すこともある。しかしその場を立ち去れば、夜の寝覚めなどに、さても今日は詮もないことを申したものだ、上のお咎めも測りがたい、御老中や頭の気に障って身の害となるだろう、と思うので、毎度後悔が出るのは人情の常である。このようなとき、この者は後悔が重なって、後には皆物を言わないことになるのである。

解説

下の者が上に意見を述べたあと、夜中に「余計なことを言った、咎められるかもしれない」と後悔する。徂徠は、この心の動きを人情の常として細やかに描く。その後悔が重なれば、やがて誰も物を言わなくなる。意見を言う側の不安は、聞く側には見えにくい。だからこそ上に立つ者は、意見を述べた者に安心を与える手当てをしなければならない。会議で発言した部下に後で一言声をかけるだけでも、次の発言の重さは大きく変わる。

この章句が説くこと

意見上申人情後悔心理人材

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る