政談 / 諸役人に器量を選ふ事
惣して人に指圖をして使ふこと惡しきことの第一也、事も無き時分に利發なる大將下に指圖をして使へは、世俗の目には善きやうに見ゆれとも、下に才智を出させ付けぬ故下々は皆阿房に成るなり、故に其の大將の存生の內は善き樣なれとも、その大將死したる時俄かに火の消えたるやうになるものなり、殊に亂國の時に至りては、一日路も二日路も乃至十日路も廿日路も手離して遣はすこと故、一々に差圖はならぬことなり、特に軍の變は思ひの外に出つるものなれは、遠方より指圖は曾て成らぬことなり、然るに人を右の如く使ひ付けたるときは、下たる人上の指圖を受付けたる癖付きて、才智の働き必す出てぬこと故、惣して治世より亂世に移る界にては必す亂を起したる方に勝あること歴代皆斯の如し、是皆治世の上、人の料見兎角我か物好きに人を使ひたがること古も今も同しことなる故、下たる人に惡き癖付きて斯の如し、此處の界を能く會得して、人に身を踏込ませて働かするやうに使ふべきことなり、
新字:惣して人に指図をして使ふこと悪しきことの第一也、事も無き時分に利発なる大将下に指図をして使へは、世俗の目には善きやうに見ゆれとも、下に才智を出させ付けぬ故下々は皆阿房に成るなり、故に其の大将の存生の内は善き様なれとも、その大将死したる時俄かに火の消えたるやうになるものなり、殊に乱国の時に至りては、一日路も二日路も乃至十日路も廿日路も手離して遣はすこと故、一々に差図はならぬことなり、特に軍の変は思ひの外に出つるものなれは、遠方より指図は曽て成らぬことなり、然るに人を右の如く使ひ付けたるときは、下たる人上の指図を受付けたる癖付きて、才智の働き必す出てぬこと故、惣して治世より乱世に移る界にては必す乱を起したる方に勝あること歴代皆斯の如し、是皆治世の上、人の料見兎角我か物好きに人を使ひたがること古も今も同しことなる故、下たる人に悪き癖付きて斯の如し、此処の界を能く会得して、人に身を踏込ませて働かするやうに使ふべきことなり、
書き下し
惣して人に指図をして使ふこと悪しきことの第一也、事も無き時分に利発なる大将下に指図をして使へは、世俗の目には善きやうに見ゆれとも、下に才智を出させ付けぬ故下々は皆阿房に成るなり、故に其の大将の存生の内は善き様なれとも、その大将死したる時俄かに火の消えたるやうになるものなり、殊に乱国の時に至りては、一日路も二日路も乃至十日路も廿日路も手離して遣はすこと故、一々に差図はならぬことなり、特に軍の変は思ひの外に出つるものなれは、遠方より指図は曽て成らぬことなり、然るに人を右の如く使ひ付けたるときは、下たる人上の指図を受付けたる癖付きて、才智の働き必す出てぬこと故、惣して治世より乱世に移る界にては必す乱を起したる方に勝あること歴代皆斯の如し、是皆治世の上、人の料見兎角我か物好きに人を使ひたがること古も今も同しことなる故、下たる人に悪き癖付きて斯の如し、此処の界を能く会得して、人に身を踏込ませて働かするやうに使ふべきことなり、
現代語訳
総じて人に指図をして使うことは、悪いことの第一である。何事もない時分に、利発な大将が下に指図をして使えば、世間の目には善いように見えるけれども、下に才智を出させつけないので、下々は皆阿呆になる。だからその大将が生きているうちは善いようでも、その大将が死んだとき、急に火が消えたようになるものである。ことに乱世になると、一日路も二日路も、あるいは十日路も二十日路も手元を離して遣わすのだから、一々指図をすることはできない。とりわけ戦の変化は思いのほかに起こるものだから、遠方から指図することはまったくできない。ところが人を前のように使いつけていると、下の人は上の指図を受ける癖がついて、才智の働きが決して出てこないので、総じて治世から乱世に移る境目では、必ず乱を起こした側に勝ちがあること、歴代皆このとおりである。これは皆、治世においては人の考えがとかく自分の好みで人を使いたがること、昔も今も同じであるから、下の人に悪い癖がついてこのようになるのである。この境目をよく会得して、人に身を打ち込ませて働かせるように使うべきである。
解説
この章句が説くこと
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