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政談 / 武家米を貯ふる仕方の事

此の上に御領私領も年貢米をむざと賣り拂はす藏を立てゝ込め置くへし、其仕方藏をは羽目にして米を籾ともに俵にせすはだかにて入れ置くへし、籾共に貯へ置くときは何ケ年も持つものなり、俵に入れぬときは、盜人を防き虫も付かす、是異國の法にて、近江の國なとには今も斯の如くするなり、日本御圖帳に取かの殊の外に高く付けてあるも、古籾納めの時の升目なりと知るへし、大抵毎年の年貢米四分一は堅く賣拂ふへからす、是古生制の古法なり、斯の如くすれは三年にて一年のものなりたる故、はうはいの貢も成なり、又大飢饉の節民を救ふこともなるなり、又一揆兵亂之ある節兵粮の手つかひに事欠くことなし、

新字:此の上に御領私領も年貢米をむざと売り払はす蔵を立てゝ込め置くへし、其仕方蔵をは羽目にして米を籾ともに俵にせすはだかにて入れ置くへし、籾共に貯へ置くときは何ケ年も持つものなり、俵に入れぬときは、盗人を防き虫も付かす、是異国の法にて、近江の国なとには今も斯の如くするなり、日本御図帳に取かの殊の外に高く付けてあるも、古籾納めの時の升目なりと知るへし、大抵毎年の年貢米四分一は堅く売払ふへからす、是古生制の古法なり、斯の如くすれは三年にて一年のものなりたる故、はうはいの貢も成なり、又大飢饉の節民を救ふこともなるなり、又一揆兵乱之ある節兵粮の手つかひに事欠くことなし、

書き下し

此の上に御領私領も年貢米をむざと売り払はす蔵を立てゝ込め置くへし、其仕方蔵をは羽目にして米を籾ともに俵にせすはだかにて入れ置くへし、籾共に貯へ置くときは何ケ年も持つものなり、俵に入れぬときは、盗人を防き虫も付かす、是異国の法にて、近江の国なとには今も斯の如くするなり、日本御図帳に取かの殊の外に高く付けてあるも、古籾納めの時の升目なりと知るへし、大抵毎年の年貢米四分一は堅く売払ふへからす、是古生制の古法なり、斯の如くすれは三年にて一年のものなりたる故、はうはいの貢も成なり、又大飢饉の節民を救ふこともなるなり、又一揆兵乱之ある節兵粮の手つかひに事欠くことなし、

現代語訳

このうえに、御領(幕府領)も私領も年貢米をむやみに売り払わず、蔵を建てて込め置くべきである。その仕方は、蔵を羽目板張りにして、米を籾ごと俵にせず裸で入れておくべきである。籾ごと貯えておくときは何か年も持つものである。俵に入れないときは、盗人を防ぎ虫も付かない。これは異国の法で、近江の国などでは今もこのようにしている。日本の御図帳(検地帳)に取高がことのほか高く付けてあるのも、昔の籾納めのときの升目であると知るべきである。おおよそ毎年の年貢米の四分の一は堅く売り払ってはならない。これは古の王制の古法である。このようにすれば三年で一年分の蓄えになるので、凶年の年貢もまかなえる。また大飢饉のときに民を救うこともできる。また一揆や兵乱があるときにも兵糧のやりくりに事欠くことがない。

解説

相互扶助の上に、徂徠は備蓄の制度を重ねる。幕府領も大名領も年貢米を売り急がず、籾のまま蔵に貯え、毎年の四分の一は決して売らない。三年で一年分の蓄えとなり、凶作、飢饉、一揆や兵乱にも備えられる。『礼記』王制の「三年耕せば必ず一年の食あり」を踏まえた発想である。籾で保存すれば長持ちし、俵にしなければ盗難や虫も防げるという実務的な知恵も添える。現代の企業でいえば内部留保や事業継続計画にあたり、平時に一定割合を確実に残す規律が危機の耐性を決める。

この章句が説くこと

備蓄年貢飢饉備え王制政談

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