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政談 / 制度の事

右の如く衣服等の制度を定めんにはかはり目のきわ境なくては叶はさること也、先つ東照宮へ御告あるへきことなり、日光御社參を仰せ出され、二年三年も前より御供廻の裝束、諸大名の參詣の裝束此度は斯の如くあるへしと號令ありて篤と支度させ、夫より直に平日に用ゆるやうに有りたきことなり、右一同上下仕換ゆることなれは、我人惡しきと、又例の手くせを出し利をまうけんとたくむへけれは、其の手當あるへきこと也、右の如く武家の制度を委細に立つること儉約の至極なれとも、諸事を新たに仕換ゆることなれは、當時困窮したる世界にては次第なく急にはなりかたかるへし、只先つ道中幷に御城下は幾何の供廻りを減少し、諸大名は江戶詰の家來を少くし、錢を鑄、貸借の道を開き、御旗本の諸士家中の武士のことは先つ其の儘にし置き、諸事の簡易に取捌くはかりにして最初に町人百姓と武家との差別を急度立つへきことなり、一切の事大そうなる事は先つ粗を立てゝ後に細にするときは仕よきものあり、前後緩急のついでとはこれを云ふなり、

新字:右の如く衣服等の制度を定めんにはかはり目のきわ境なくては叶はさること也、先つ東照宮へ御告あるへきことなり、日光御社参を仰せ出され、二年三年も前より御供廻の装束、諸大名の参詣の装束此度は斯の如くあるへしと号令ありて篤と支度させ、夫より直に平日に用ゆるやうに有りたきことなり、右一同上下仕換ゆることなれは、我人悪しきと、又例の手くせを出し利をまうけんとたくむへけれは、其の手当あるへきこと也、右の如く武家の制度を委細に立つること倹約の至極なれとも、諸事を新たに仕換ゆることなれは、当時困窮したる世界にては次第なく急にはなりかたかるへし、只先つ道中幷に御城下は幾何の供廻りを減少し、諸大名は江戸詰の家来を少くし、銭を鋳、貸借の道を開き、御旗本の諸士家中の武士のことは先つ其の儘にし置き、諸事の簡易に取捌くはかりにして最初に町人百姓と武家との差別を急度立つへきことなり、一切の事大そうなる事は先つ粗を立てゝ後に細にするときは仕よきものあり、前後緩急のついでとはこれを云ふなり、

書き下し

右の如く衣服等の制度を定めんにはかはり目のきわ境なくては叶はさること也、先つ東照宮へ御告あるへきことなり、日光御社参を仰せ出され、二年三年も前より御供廻の装束、諸大名の参詣の装束此度は斯の如くあるへしと号令ありて篤と支度させ、夫より直に平日に用ゆるやうに有りたきことなり、右一同上下仕換ゆることなれは、我人悪しきと、又例の手くせを出し利をまうけんとたくむへけれは、其の手当あるへきこと也、右の如く武家の制度を委細に立つること倹約の至極なれとも、諸事を新たに仕換ゆることなれは、当時困窮したる世界にては次第なく急にはなりかたかるへし、只先つ道中幷に御城下は幾何の供廻りを減少し、諸大名は江戸詰の家来を少くし、銭を鋳、貸借の道を開き、御旗本の諸士家中の武士のことは先つ其の儘にし置き、諸事の簡易に取捌くはかりにして最初に町人百姓と武家との差別を急度立つへきことなり、一切の事大そうなる事は先つ粗を立てゝ後に細にするときは仕よきものあり、前後緩急のついでとはこれを云ふなり、

現代語訳

右のように衣服などの制度を定めるには、変わり目の境がなくてはかなわない。まず東照宮(家康)へお告げあるべきことである。日光御社参を仰せ出され、二年三年も前から、御供回りの装束、諸大名の参詣の装束は今度はこのようであるべしと号令して、よく支度させ、それからそのまま平日に用いるようにしたいものである。右のように一同上下とも着替えることなので、自分も他人も悪いことに、また例の手癖を出して利を儲けようと企むであろうから、その手当てがあるべきである。右のように武家の制度を詳細に立てることは倹約の極みであるが、諸事を新たに仕替えることなので、今の困窮した世の中では順序なく急にはできにくいであろう。ただまず道中ならびに御城下では供回りをいくらか減らし、諸大名は江戸詰めの家来を少なくし、銭を鋳造し、貸借の道を開き、御旗本の諸士や家中の武士のことはまずそのままにしておき、諸事を簡易に取り捌くだけにして、最初に町人・百姓と武家との差別をきっと立てるべきである。一切の事は、大掛かりな事はまず粗く立てて後に細かくするときは、やりやすいものがある。前後緩急の順序とはこれを言うのである。

解説

制度を改めるには「変わり目」が要る。徂徠は日光社参を区切りとし、数年前から装束を予告して支度させ、そのまま平日の制度に移行せよと説く。便乗して儲けを企む者への手当ても忘れない。ただし困窮した今の世で一気に全てを変えるのは無理だから、まず供回りや江戸詰めの家臣を減らし、銭の鋳造と貸借の再開を先にし、武家の制度は後回しにして町人百姓との区別から立てよという。大きな改革は粗く始めて細かく仕上げる、これが前後緩急の順序である。変革の時期と順番を設計する発想は、現代の経営改革にもそのまま使える。

この章句が説くこと

改革緩急順序制度変革政談

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