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政談 / 金銀錢員數減少する仔細の事

元祿の時分も金銀殖えたる勢に乘して世界の旅宿を改め、物の制度を立てたらは世は箇樣に成るましきなり、當時先々も同しく旅宿の境界を已めて、物の制度を立てゝ、よくとくとゆりすわりたらは、金銀正德の半減になるとても世界も困窮すましきことなれとも、既に斯の如く困窮したるを直さすしては、旅宿の境界を巳むることも物の制度を立つることも甚た以て難きことなり、總して世界の有樣を仕替ゆることは人々の仕慣れたる筋を引換ゆることなれは人々心赴むき難きことなり、騒動に成りて世界愈々困窮になり行く、先の善き事は持ち難かるへし、唯々當分世界の甚た久く賑ふことを執行はすんはあるへからす、當時如何樣のことをして世界を賑はすへきと工夫するに、錢を鑄るに若くはなかるへし、

新字:元禄の時分も金銀殖えたる勢に乗して世界の旅宿を改め、物の制度を立てたらは世は箇様に成るましきなり、当時先々も同しく旅宿の境界を已めて、物の制度を立てゝ、よくとくとゆりすわりたらは、金銀正徳の半減になるとても世界も困窮すましきことなれとも、既に斯の如く困窮したるを直さすしては、旅宿の境界を巳むることも物の制度を立つることも甚た以て難きことなり、総して世界の有様を仕替ゆることは人々の仕慣れたる筋を引換ゆることなれは人々心赴むき難きことなり、騒動に成りて世界愈々困窮になり行く、先の善き事は持ち難かるへし、唯々当分世界の甚た久く賑ふことを執行はすんはあるへからす、当時如何様のことをして世界を賑はすへきと工夫するに、銭を鋳るに若くはなかるへし、

書き下し

元禄の時分も金銀殖えたる勢に乗して世界の旅宿を改め、物の制度を立てたらは世は箇様に成るましきなり、当時先々も同しく旅宿の境界を已めて、物の制度を立てゝ、よくとくとゆりすわりたらは、金銀正徳の半減になるとても世界も困窮すましきことなれとも、既に斯の如く困窮したるを直さすしては、旅宿の境界を巳むることも物の制度を立つることも甚た以て難きことなり、総して世界の有様を仕替ゆることは人々の仕慣れたる筋を引換ゆることなれは人々心赴むき難きことなり、騒動に成りて世界愈々困窮になり行く、先の善き事は持ち難かるへし、唯々当分世界の甚た久く賑ふことを執行はすんはあるへからす、当時如何様のことをして世界を賑はすへきと工夫するに、銭を鋳るに若くはなかるへし、

現代語訳

元禄の時分にも、金銀が増えた勢いに乗じて世の中の旅宿の暮らしを改め、物の制度を立てていたならば、世の中はこのようにはならなかったであろう。当節も先々も同じく、旅宿の境遇をやめ、物の制度を立てて、よくよく落ち着かせたならば、金銀が正徳の半減になっても世の中は困窮しないはずのことであるが、すでにこのように困窮したのを直さなくては、旅宿の境遇をやめることも、物の制度を立てることも、はなはだ難しいことである。総じて世の中の有り様を仕替えることは、人々が仕慣れた筋を引き換えることなので、人々の心が向きにくいことである。(無理にすれば)騒動になって世の中はいよいよ困窮していき、先々の良いことは保ちがたいであろう。ただ当面、世の中をはなはだ久しく賑わすことを執り行わなければならない。当節、どのようなことをして世の中を賑わすべきかと工夫するに、銭を鋳ることに及ぶものはないであろう。

解説

元禄の好況期にこそ旅宿をやめ制度を立てるべきだった、と徂徠は機を逸したことを悔やむ。困窮した今、慣れた暮らしを改めさせれば人心は離れ、騒動になってさらに困窮する。だから改革の前に、まず当面の世を長く賑わす手を打つべきで、それには銭を鋳るのが一番だという。根本策と当面策の順序を見極める判断である。現代の組織改革でも、業績が苦しいときに痛みを伴う改革を急げば反発で頓挫しやすく、まず足元を安定させてから構造改革に入る順序が重要になる。

この章句が説くこと

改革時機制度旅宿通貨順序

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