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政談 / 金銀錢員數減少する仔細の事

然るを錢の員數少くなれは錢の位貴くなる故、金銀もそれに連れて貴しと云ふ人あれとも、其は物の情を全く知らぬ人にて、是非を變亂する利口の侫人なり、總して直段の至極に下直なるは錢一文に賣ることにて之より下直なる物はなし、錢少なくなりて貴きとて一文を二つにも三つにも割りては遣はれぬものなり、故に錢をは至極の賤しきものに極めて、是れを土臺にして金銀の威光働きの強き弱きは見ることなり、右の道理なる故錢を夥しく出すときは金銀の半減に成りたるは左まて苦にはならぬことなり、されとも錢を鑄殖したるばかりにて旅宿の境界を改めす、制度を立てすんは當分は世界濕ふやうなるへけれとも、唯々元祿金銀を其儘に手を付けす矢張り置きたる心持なる故、世界の奢り復た盛になりて果ては又困窮になるへきなり、

新字:然るを銭の員数少くなれは銭の位貴くなる故、金銀もそれに連れて貴しと云ふ人あれとも、其は物の情を全く知らぬ人にて、是非を変乱する利口の侫人なり、総して直段の至極に下直なるは銭一文に売ることにて之より下直なる物はなし、銭少なくなりて貴きとて一文を二つにも三つにも割りては遣はれぬものなり、故に銭をは至極の賤しきものに極めて、是れを土台にして金銀の威光働きの強き弱きは見ることなり、右の道理なる故銭を夥しく出すときは金銀の半減に成りたるは左まて苦にはならぬことなり、されとも銭を鋳殖したるばかりにて旅宿の境界を改めす、制度を立てすんは当分は世界湿ふやうなるへけれとも、唯々元禄金銀を其儘に手を付けす矢張り置きたる心持なる故、世界の奢り復た盛になりて果ては又困窮になるへきなり、

書き下し

然るを銭の員数少くなれは銭の位貴くなる故、金銀もそれに連れて貴しと云ふ人あれとも、其は物の情を全く知らぬ人にて、是非を変乱する利口の侫人なり、総して直段の至極に下直なるは銭一文に売ることにて之より下直なる物はなし、銭少なくなりて貴きとて一文を二つにも三つにも割りては遣はれぬものなり、故に銭をは至極の賤しきものに極めて、是れを土台にして金銀の威光働きの強き弱きは見ることなり、右の道理なる故銭を夥しく出すときは金銀の半減に成りたるは左まて苦にはならぬことなり、されとも銭を鋳殖したるばかりにて旅宿の境界を改めす、制度を立てすんは当分は世界湿ふやうなるへけれとも、唯々元禄金銀を其儘に手を付けす矢張り置きたる心持なる故、世界の奢り復た盛になりて果ては又困窮になるへきなり、

現代語訳

それなのに、銭の数が少なくなれば銭の値打ちが貴くなるので、金銀もそれにつれて貴くなると言う人があるが、それは物の実情をまったく知らない人で、是非を乱す口先の佞人である。総じて値段のこの上なく安いものは銭一文で売ることであって、これより安いものはない。銭が少なくなって貴いからといって、一文を二つにも三つにも割って使うことはできないものである。ゆえに銭は最も賤しいものと決めて、これを土台にして金銀の威光・働きの強い弱いを見るのである。右の道理なので、銭をおびただしく出すときは、金銀が半減したことはさほど苦にはならないことである。けれども、銭を鋳増やしただけで、旅宿の境遇を改めず、制度を立てなければ、当座は世の中が潤うようであろうが、ただ元禄金銀をそのまま手を付けずに置いておいたのと同じ心持ちなので、世の中の奢りがまた盛んになって、果てはまた困窮になるであろう。

解説

銭が減れば銭が貴くなり金銀も貴くなるという論を、徂徠は是非を乱す佞人の言として退ける。最も安い取引は銭一文であり、一文は割って使えないから、銭こそ価値の土台であり、その多寡で金銀の働きが決まるという。ただし銭を増やしても、旅宿と制度なきを改めなければ一時潤うだけで、奢りが再燃してまた困窮すると釘を刺す。現代でも、金融緩和などの当座の手当ては、構造改革を伴わなければ一時の好況で終わるという指摘として読める。

この章句が説くこと

通貨銭基準制度旅宿奢り

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